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ファーストエンカウント

最初の頃は真っ暗だったこのトンネルも、出口が見えて来たのか、徐々に暗闇の中に光が入ってきた。その光の先に異世界があると信じた俺は、戦車を増速させ、光の方向へと真っ直ぐに走る。




戦車が光の門に突入すると、途端に戦車が路面のギャップを拾い、ガタガタと揺れ始める。俺は慌ててブレーキを踏み、戦車を停車させた。

どうやら異世界とやらに到着したみたいだ。光がかなり明るく、出口の世界は昼頃の時間帯なのかと思ったが、完全な夜中となっていた。



事前に魔物が蔓延っているという情報を聞いた俺は、戦車内のモニター越しに周囲の状況を確認する。辺りは真っ暗であり、戦車のヘッドライトとテールライトが照らす微かな範囲の視界しか確保出来ない。後ろの状態は殆ど把握出来てないが、ヘッドライトが照らしている物は森の木々であった。



どうやら森のど真ん中に転送されてしまったらしい。幸いな事は森に生えている木々は細く、間隔も広く置かれている為、戦車のパワーが有れば難なく薙ぎ倒して行けそうだ。

ヘッドライトが照らしている範囲だけでは何も解らないので俺は、戦車のナイトビジョンを入れた。これは周囲の熱源や地形の形を拾い、その情報を緑色に着色された視覚情報に変換する物である。



モニターに映る情報が緑色に視覚化された物になり、周囲の地形が把握出来るようになった。

回りは360度森の中であり、視界も木々で遮られていた為、結局の所、何も情報を得ることは出来なかった。

幸いなのは、魔物と思わしき生物の動きが一切無かった事だ。俺は勇気を出して戦車の外に出ることにした。



「うはぁ……」



戦車のキューポラから体を乗り出し、俺は夜空を見上げた。この世界には環境汚染という物が一切無いのだろうか、夜空には天の川みたいな星空が俺を迎えてくれた。余りの美しさに思わず息を飲み、素っ気ない感想を呟いた。

日本ではまず見られない光景であり、空気も美味しい。感動しつつも、本当に異世界にやって来たと実感して、しばらく異世界の風景を見たのちに戦車の中へと戻る。



戦車の中に体を滑り込ませると、俺は後部座席に一冊の冊子が置いてある事に気付いた。

冊子の招待は俺の授かった能力の使い方や仕様、この場所の近くにある町やこの世界の魔法の種類についての記述が少々載っていた。

冊子の内容を大まかに挙げると、


・武器や兵器の召喚にはレベル制限があり、これはこの世界で冒険者として登録してから初めてレベルを上げることが出来る。


・召喚可能な物は俺が死んだ年までに作られた、地球上の物。


・食料等の飲食物の召喚は可能だが、生きた生物の召喚は不可能 (例……牛肉は召喚可能だが、生きた牛の召喚は不可)


・最初に選んだ戦車と武器に限り、目の前から消して再度召喚することが可能。しかし、戦車の再召喚まで5分程の時間がかかる。

能力で出したものも消すことは可能だが、その際は1から召喚メニューを開かなければならない。


・補給可能な弾薬は、主砲弾5発、機銃弾200発、P90弾薬2マガジン分。

使用せずに毎日召喚して備蓄することも可能。


・召喚は専用端末で行う。この端末本体は戦車内部の小物入れに備え付けられていた。持ち運びも可能。


・この世界の文明レベルは中世ほど。しかし、魔法があるため、生活様式は地球のものとは別物である。


・今いる場所にはから一番近い町は「ウィスカ」と呼ばれる小さな交易都市。

「ウィスカ」を起点に西に進めば「コールマン」、東に進めば「アクアポルト」と呼ばれる都市がある。




個人的には多少ながらこの世界の知識が書かれていた事が嬉しい。これで当面の目標が出来た。

まずはウィスカと呼ばれる町に向かうことが最初の目的である。冷静に考えたら、この世界の貨幣というものは持ち合わせていない。



金が無ければマトモに宿を取ることも出来ずに野宿しなければならない。魔物のいる世界で野宿は余りにもリスクが高すぎる。何かしら金を確保する手段は知りたい。それに冒険者というモノにならなければレベル上げをすることが不可能という以上、この世界の住人とコンタクトを取らなければいけないことは明白。何から始めればいいか解らなかった俺にとって、この情報は役人立つ。冊子は無くさないように戦車の中に常備しておこう。



今からアクションを起こそうかとも考えはしたが、夜中でしかも知らない世界で移動するのは危険すぎる。ここは一度日が登るまで待ってから明日出発するとしよう。

幸い外は夜のせいもあってか日本の夏くらいの気温があったが、湿度もなく、心地いい夜風が吹いていた。




これなら戦車のエンジンを消してエアコンが使えなくなってしまっても、キューポラのハッチを少し開ければ風が入ってくるため、寝ることのストレスにはならない。燃料は能力のお陰で補給出来るため、エアコン焚いたまま寝てもいいが、エンジンの音や排ガスの匂いに釣られた魔物が寄ってくる可能性があるため、エンジンはすぐに落とした。




色々な事が起き、異世界に来てからかなり興奮していた俺だが、不思議と座席に座って目を閉じたらアッサリと眠りに着けた。きっと相当の疲れたのだろう、体勢的にはかなりキツいが、今は安心してから寝れる空間だ。意識が睡魔に支配されるのも時間の問題だった。




コン……ガンガン……



戦車の車体が叩かれているような音で目が覚めた俺は、音の正体を確かめる為にキューポラのハッチを上げ、体を半分ほど乗り出したのだが……。




「ギッシャアアアア!!」



「うあああ!!??」



俺の目の前には1メートル程の不気味な肌の色や顔をした小人の様な生物が戦車に登っており、俺はソイツと目が合った。その生物の右手には乱雑に作られた棍棒が握られていた。

一瞬で生命の危険を感じ取った俺は、大急ぎで戦車内に滑り込んで素早くハッチを閉めてからロックを掛けた。



「な、何なんだよアイツら……」



俺は一瞬パニックになったが、その小人の正体が何なのか解ってきた。きっと、コイツらがアリアスの言っていた魔物という生き物なのだろう。

直ぐに戦車のエンジンを始動させ、モニターに映し出された情報を見る。



外には戦車を囲む様に例の小人が多く徘徊しており、その小人がエンジンを掛けた瞬間からか、戦車の上によじ登っては俺が閉めたハッチを集団で棍棒を使いガンガンと叩いてきた。俺は何とかしなければならないと思い、戦車を思いっきり加速させ、後退させた。転送ゲートがあったであろうこの場所は以外と広い。戦車がある程度のスピードに達するまでの距離はある。



そして俺はバックしながら背中に迫りつつある森の木々に近付いてから急ブレーキをかけた。

戦車のブレーキは強力で、自衛隊の戦車はその余りの強さに殺人ブレーキなんて呼ばれる程に強く効く。そんなレベルの急ブレーキを食らった小人らは戦車からふるい落とされ後ろにあった木々に激しく身体をぶつけてから動かなくなった。



戦車の上に乗っていた奴等は粗方処理できたが、まだまだ地面にいる数は多い。

俺はもうこのまま森を脱出する勢いで前進を始めた。進路を塞ごうと小人はバリケードを仲間同士で組んで作ったが、建物の外壁を苦もなく突き破る戦車の突破力の前には何もないに等しい。



俺はアクセル全開で小人のバリケードを突き破りそのまま森の中へと突入する。

ある程度は交わして走ってはいるものの、避けきれない木々を薙ぎ倒し、倒れた木を踏み越えて走る戦車の中はかなり揺れる。



小人どもは一度巻いたかな?戦車を走らせると薄暗い森のが出口に近づくにつれて明るくなってゆく。森の木々を薙ぎ倒して進むんで行くと、戦車は広大な草原へと出た。




昨日の夜空もそうだが、この草原といい、日本に住んでいた頃とは比べ物にならないほどの規模の草原に圧倒される。俺は例のウィスカと呼ばれる町の方角を冊子から情報を得る。どうやら、今いる所から西側の方角にあるみたいだ。



俺は戦車に備え付けられているコンパスを頼りに西を目指す。草原にある丘陵地帯いくつか越えて暫く走ると、草原を横断するかのような道が整備されている事に俺は気付いた。俺はきっとこの異世界の人々が整備したであろう道の隣に戦車を停めて、道の造りを確認するために戦車を降りた。



「凄いな、綺麗に舗装されてる」



この世界の道は地球上の世界で言うところの中世レベルの文明力と記述があったが、俺の知っている知識だと、とつも中世レベルの文明とは思えない程しっかりとした道の造りをしていた。

地球上のアスファルトほどの滑らかさはないが、平に研磨された石を張り付けた様な造りの道路は車高の低い車でも難なく通れる様な造りだ。



しかし、戦車の重量は重い。道の上を走ろうものなら路面を破壊してしまうだろう。幸い道路の側面の草原の進路上に障害物の無いため、草原の上を走らせながら町を目指す。



戦車を暫く走らせていると、先程目撃した小人の様な魔物の亡骸がチラホラ見えてきた。白骨化していないあたり、討伐されてそんなに時間は経っていないだろう。

魔物の亡骸は腹部や頭部が切り裂かれており、恐らく刃物で殺傷されたのだろう。



異世界なので恐らく剣の類いの武器を使った者が討伐した可能性が高い。戦車を走らせていると行くと、その魔物の亡骸の数が徐々に増えていった。魔物の外傷はどれも似たり寄ったりで俺は初めて異世界人に接触出来るだろうと期待はしたし、実際に接触は出来たのだが、接触した状況が最悪だった。



戦車のモニターに映し出された魔物の亡骸に混じった一人の人影。だが、その人影も魔物と同じ草原に倒れていたのだ。俺は戦車を加速させ、その人影の目の前に戦車を停車させ、倒れている人間に声をかける。



「おい!大丈夫か!?」



俺はうつ伏せで倒れている人間に声を掛けるが返事がない。俺は倒れた人間の安否確認をすべく身体をひっくり返す。

なんと倒れていたのは若い少女だった。大体18歳くらいだろうか?青いハーフポニーテールの髪型をしている少女で、如何にもアニメの世界に出てきそうな剣士が着けていそうな鎧を身に纏っていて、手元には彼女の武器であろう剣があった。まさか、この娘がコイツらを全部倒したのか?



俺は少女の安否を確かめるべく脈を確認した。よかった、死んではいない、気を失っているだけだ。だが、彼女の額からは大量の汗が吹き出ており、体温も高い。



「こりゃ、きっと熱中症だな」



実際外は快晴で気温も夏場並に暑い。そんな中鉄の鎧を身に纏っていたのだ、熱中症になるのも頷ける。ただ、熱中症の症状が出ている人間は早く身体を冷やさなくてはならない。

幸い冷たい空間ならばエアコンを搭載している戦車があるため、空間の確保は問題ない。



問題は彼女の身体を冷さないといけないことだが、鎧を纏っているため鎧を剥がさなければ身体に溜まった熱を放出できない。

すなわち、戦車に乗せる前に彼女の鎧をはがなければいけないのだ。



(触るのか?こんな少女の身体に触れるのか、俺?)



メカ弄りはある程度は出来る俺だが、女性の身体に触るなんて事は幼少期に近所の幼なじみの娘と一緒に風呂に入っていた時くらいだ。すなわち、俺にそんな耐性はない。

しかし、熱中症は命に関わる。



「すまん、許してくれ!」



俺は勇気を出して彼女の鎧を外す。彼女の鎧はよくあるイメージの様な鎧と比較したら比較的軽装であるが、胸当てや腰当てといった装備はガッツリと着いている。

俺は必死に心を無に還しながら鎧を外すために必要な箇所を探す。



暫く身体をまさぐっていくと、背中に3本程のベルトの様なものがホックで繋がれていた。ホックを外し、胸当てが外れると腰当ても同様に外した。足に着いている鎧も何とか外し、身体を冷せるぐらいには出来た。



身軽になった少女の身体を持ち上げ、戦車まで向かうのだが、よりによって腰の部分がヘソ丸出しの状態で、胸も太い包帯をまいたサラシの様なモノでしか隠していない。

青髪のハーフポニーテールに大きすぎず、小さすぎずのバランスの取れた胸にアスリートの様な程よく筋の入って少し割れている腹筋……。




「クソっ!完全に俺を殺しに来てる……」



気を失った若い美少女。それも露出度の高い見た目をしているなんざ、今にも襲い掛かりそうだ。だがこれは人命救助。心頭滅却と何度も念じて彼女を戦車の傾斜した前面装甲へ一先ず乗せ、ハッチを開いて中に入れる。俺も続いて操縦席に座り、エアコンのダイアルを最低温度まで下げて車内を冷す。



あとは身体を冷すためのアイテムが必要となる訳だが、ここで俺の召喚能力の出番だ。

端末を取りだし、必要な物を召喚する。ここで必要な物はタオルと冷水と氷だ。

端末を見ながら俺は召喚可能な物のリストの一覧を見て絶句する。流石、俺の死んだ時代までに作られた物が召喚できるだけあって、タオル一つ取ってみても、原作国にブランド、素材や色まで天文学的な種類のタオルが選択可能であった。



特別拘る必要は無いため、適当に選んだタオルを出す。水もミネラルウォーターを選び、氷はコンビニ等で売っている様な氷袋を召喚した。召喚したタオルを水で濡らし、氷を濡れたタオルで包み首筋や脇等、脈の通っている箇所に当ててから冷えたタオルで身体を拭いて身体を冷す。



これで応急措置は完了した。本来なら病院に叩きつけないといけないのだが、こんな異世界の病院なんて知らない。俺はこの少女が目を覚ます事を祈るしかなかった。

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