第一話 京都へ
新幹線が動き始める。
体感温度は少し寒い。
だが、彼女がもっと寒いと思ったのは伝言掲示板。
「人気アナウンサー 羽鳥賢一郎さんの娘行方不明 警察が行方を探している」
情報が速い。流石は元非行中学生のデータベースにはまってしまっている。
(っち、警察の奴ら気付くのはやっ!)
でも、心配ないさぁー!やわ。と、晃はふふんとほくそ笑み、だて眼鏡をあげた。
彼女の名前は羽鳥晃 はとらあきら。
はっとりさんではない。彼女の小学生のアダ名は極悪はっとりさんだった。
彼女は新幹線の自由席、自動ドアのすぐ前に座り窓を眺めている。足を組み、目のやり場に大変困る丈の短いスカートをはいている。
紺のブレザーにリボンは赤、黒のハイソックスに目立つ赤のスニーカーはNIKE。
頭は茶髪の御団子、ピアスは左右で月と星の大きめのが揺れている。
彼女はスマホを出して大好きな祖父にLINEを送る。
「愛しのじぃちゃん★あっちゃんやでぇ。品川でたぁ、15時に京都着くからよろしくお願いします(^^)
四条大宮には15時30前やわ。うなじゅーうなじゅー\(^o^)/」
既読。祖父はスマホを使いこなす。
「世界一のあっちゃん!了解!気を付けておいでやぁ。Twitterの更新したら場所特定されるから今は止めときなぁ?じぃちゃんが駅まで迎えにいくからねぇ(^_^)」
晃は祖父のLINEが大好きでによによする。
足元にはオレンジのド派手のキャリーを置いている。
そこへ、ブーツを履いた全身黒の若い男が声をかけてきた。
「そこ、空いてるかな?」
晃は不審な男を一瞥し、睨む。
見た目はすぐさまに分析する。
(いやんイケメンやん!…サツかあのクソ刑事の新人かもしれへんしな。無視しよ。)
選択 愛想笑い×
無視○
ギッと一瞥し、ふいと、窓を見ている。窓越しにも男はニコニコ笑いながら、めげない。
声も低音でかっこいい。谷原章介さんのようなええ声の部類だ。
「無視しないでよ。他の所皆座ってるんだ。そのキャリー上にあげてもいかな?」
「他の所空いてますけど?前のババァの所とか。」
こそっとババァの所は小声で言う。なのに、男はカラッと爽やかに毒を吐く。
「やだよ。ババァ香水臭いだろ?俺を舐めるように見てくるし。これだからイケメンって罪だよね。」
「あっちいけ。」
晃は真顔で無視を決め込む。
ババァ呼ばわりの前の咳のマダムらは若い男を食い殺さんばかりに睨み付けている。
彼は軽々と晃の家出セットが入っているキャリーを上の棚に置いた。彼女は驚いて隣に座ってきた彼を嫌悪感丸出しに言った。
「ちょ。あっちいけって。迷惑やねんけど。」
「君さぁ、目立っていいのかなぁ?」
耳もとで男は囁く。
羽鳥晃ちゃん?と、彼女はゾクッとして男を突き飛ばそうと手を出すが捕まれた。
「羽鳥晃ちゃん?君さぁ、お父さんと耳と鼻の形そっくりだよね。」
からかうように男はささやけば、晃は一気に警戒を強める。彼女は記者や私服警官が天敵だった。
(コイツ……だれ?!どこの記者。)
彼女は警戒し、小声で男を睨み付ける。
「誰?!…どこの記者ですか。名刺だせよ。」
「そんなに警戒しないでよ、おれ、君のおじいちゃんに頼まれたんだよ。君のおばあちゃんの親戚。」
「親戚ぃ?は、もっとマシな嘘ついたらぁ?」
ふんと鼻を鳴らして肩を透かすと、
若い男は書類を出して挨拶する。
よく見れば住民票と戸籍謄本だった。
晃は面食いでミーハーな若手俳優大好きな祖母の親戚に会ったのは数少ない。昔はお嬢様であったらしいが、今は姉と兄が店を継いでいて、自分は三女だからとたまに手伝うのみ。
目で文字を追って驚いた。
言葉が感情に乗せて出る。
「え……婆ちゃんの、お兄さんの息子ぉ?会ったことないわ。」
「そりゃ仕方ないよ。中学生の時から留学してたからさ、はじめましてだね。晃ちゃん。西口 権乃助といいます。」
「……ごめん。すごい名前つけられましたね。………時代劇みたいな。」
精一杯笑わないように我慢する。
西口は明るく笑い毒を吐いて晃を怒らせる。
「へぇー、晃ちゃんでも気遣う神経あったんだね。」
「…テメェ!喧嘩売ってんのかぁ?!」