―7―
「3日後か」
白金の髪を無造作にかき上げて、形の良い唇に杯を運びながら男が呟く。青年と呼ぶにはまだ若く、少年と呼ぶには精悍な面差しは息を飲むほどに美しい。
その向かいには、漆黒の闇を思わせる黒髪をした瓜二つの顔の男がもう1人、同じように杯を手にクスリと笑う。
「旭鬼、護衛はどうする?」
旭鬼と呼ばれた白金の髪の男は面倒臭さそうに鼻を鳴らした。
「靜鬼が行くか?」
漆黒の髪の男は愉快そうに唇の片方を持ち上げ笑みを浮かべる。
「俺が行ってもいいの?」
「旭鬼様と靜鬼様は里で大人しくしていて下さい。」
2人の会話に割り込みながら、眉を顰めてもう1人の男が口を開いた。
「護衛には私がつきます」
「柳鬼は朢月の護衛があるだろ」
「そうそう。柳鬼は長の護衛が最優先。」
旭鬼と靜鬼、双子の鬼はこんな時だけ息が合う。
「朢月様からの命です。それより旭鬼様」
柳鬼は厳しく眉を顰めたまま旭鬼の顔を真っ直ぐに見据えた。
「お父上を呼び捨てにされるのは如何なものかと」
「長はそんな小さい事、気にしないさ」
ニヤリと笑って旭鬼も柳鬼に視線を向ける。
「それより、気が変わった。護衛には俺が出向く」
「えぇ?狡いなぁ。抜け駆けはなしだよ」
靜鬼が慌てて旭鬼に抗議の声を上げた。
「花嫁を得た方が次期頭領って話、忘れてないよね?」
「俺は嫁なんて今はまだ欲しいと思わんがな」
「俺だって別に嫁が欲しい訳じゃないさ。でもね、頭領になるって事は世継ぎが必須って事なんだよ」
靜鬼は杯をチビリと舐めて溜息を吐いた。
「顔も知らない女を嫁に迎えるのも頭領の義務って訳だ」
「飲まないとやってられないな」
「まったくだね」
「お迎えする花嫁が、旭鬼様と靜鬼様 以外の鬼を選ぶ可能性もありますけどね」
柳鬼の横槍に2人は杯を運ぶ手を止める。
「選ぶのは花嫁です。旭鬼様と靜鬼様はせいぜい花嫁に選ばれるよう精進なさいませ」
双子の鬼はうんざりしたように眉を顰めた。
「哮牙の鬼として粗相のないようにお願いしますよ」
「面倒臭いな」
「面倒くさいね」
2人の間で柳鬼は苦笑いする。17になると言うのに、2人ともまだまだ子供だ。
「どんな娘なんだろうね?」
「さぁな。でもまぁ、紛いなりにも鬼の娘ならそんなに見映えは悪くないだろ」
「そうか、それは楽しみだ」
さして楽しみでもなさそうに肩を竦めて靜鬼が言うと、旭鬼も小さく笑った。
行燈の灯がゆらゆらと障子に3人の影を映して揺れる。禕牙の花嫁は、自分の選ぶ夫に次の頭領となる資格が与えられるなど思いもしていないだろう。
願わくばこの美しい双子のどちらかと心から結ばれて禕牙の花嫁が哮牙の里で、幸せになれますよに。
柳鬼はそっと胸の中で祈った。