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月鬼の華 ~ tuki no hana ~  作者: うめは
乱世
51/54

―2―

「あーさーき、旭鬼(あさき)ってば!」


 軽く肩を揺すられ、旭鬼は沈んでいた意識を引き戻す。

 黒い瞳が心配そうに旭鬼の顔を覗き込んでいた。


「どうしたの?ぼんやりして。」


 合わせ鏡のように同じ顔をした漆黒の髪と目を持つ双子の兄弟は、獲ってきたばかりの魚を手に訝しげに眉を(ひそ)めて立っていた。


「すまない。少し考え事をしていた。」


 旭鬼は靜鬼から魚を受け取ると、匕首(あいくち)で腹を割き(はらわた)を抜き取って器用に木の枝を刺していく。


「ふーん。で、何をそんなに考え込んでたの?」


 靜鬼は手早く火を起こすと旭鬼の側に腰を下ろした。旭鬼は薄藤色の瞳をふと和らげて首を振った。


「気にするな。たいしたことじゃない。」


「言えない事、って言うのは分かった。いいよ、聞かないであげる。」


 靜鬼は皮肉っぽく微笑んで、揺らめく火を見つめる。


「……なぁ、靜鬼。もし、お前にお前以外の記憶があったら……」


 旭鬼は言いかけた言葉を途中で止めて飲みこんだ。


「いや、何でもない。」


 靜鬼は黒い瞳に細かな火の粉を映して、どこか遠くを見るように微かに睫毛を伏せる。


「…… あるよ。」


 ぽつりと呟いた声に旭鬼は手を止めて靜鬼に顔を向けた。


「あるよ。俺じゃない誰かの記憶が。」


 靜鬼は立てた膝に肘をついて、掌に顎を乗せると視線だけ旭鬼に向けて微笑んだ。


「俺の中にあるのは怒りだ。なぜかは分からない。でも、腹の奥に俺はずっと怒りを抱えている。」


 漆黒の瞳は微笑んではいても、何も感情を映さず凪いだ湖面のように静かだった。


「旭鬼は覚えてる?俺が咲夜に言った言葉。」


「俺たちは滅びゆく種族だ。」


 旭鬼は天を仰ぐように空を見た。


「俺たちは、呪われた種族なのさ。」


 靜鬼も空を見上げると小さな声で言う。


「俺は、俺自身に呪われている。」


 旭鬼が何か答える前に、靜鬼は焼けた魚を頬張った。


「旭鬼も早く食べちゃいなよ。丸焦げになる前にね。」


 靜鬼が差し出す魚の刺さった木の枝を受け取って、旭鬼も黙ってそれを口にする。


「…… 咲夜を感じる?」


 靜鬼の問いかけに、旭鬼はゆっくり頷いた。


「あぁ。そんなに遠くない。」


「そうか。早く見つけてやらないとね。」


 2人の頭上でザワリと木々を揺らして風が吹き抜けた。

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