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「あーさーき、旭鬼ってば!」
軽く肩を揺すられ、旭鬼は沈んでいた意識を引き戻す。
黒い瞳が心配そうに旭鬼の顔を覗き込んでいた。
「どうしたの?ぼんやりして。」
合わせ鏡のように同じ顔をした漆黒の髪と目を持つ双子の兄弟は、獲ってきたばかりの魚を手に訝しげに眉を顰めて立っていた。
「すまない。少し考え事をしていた。」
旭鬼は靜鬼から魚を受け取ると、匕首で腹を割き腑を抜き取って器用に木の枝を刺していく。
「ふーん。で、何をそんなに考え込んでたの?」
靜鬼は手早く火を起こすと旭鬼の側に腰を下ろした。旭鬼は薄藤色の瞳をふと和らげて首を振った。
「気にするな。たいしたことじゃない。」
「言えない事、って言うのは分かった。いいよ、聞かないであげる。」
靜鬼は皮肉っぽく微笑んで、揺らめく火を見つめる。
「……なぁ、靜鬼。もし、お前にお前以外の記憶があったら……」
旭鬼は言いかけた言葉を途中で止めて飲みこんだ。
「いや、何でもない。」
靜鬼は黒い瞳に細かな火の粉を映して、どこか遠くを見るように微かに睫毛を伏せる。
「…… あるよ。」
ぽつりと呟いた声に旭鬼は手を止めて靜鬼に顔を向けた。
「あるよ。俺じゃない誰かの記憶が。」
靜鬼は立てた膝に肘をついて、掌に顎を乗せると視線だけ旭鬼に向けて微笑んだ。
「俺の中にあるのは怒りだ。なぜかは分からない。でも、腹の奥に俺はずっと怒りを抱えている。」
漆黒の瞳は微笑んではいても、何も感情を映さず凪いだ湖面のように静かだった。
「旭鬼は覚えてる?俺が咲夜に言った言葉。」
「俺たちは滅びゆく種族だ。」
旭鬼は天を仰ぐように空を見た。
「俺たちは、呪われた種族なのさ。」
靜鬼も空を見上げると小さな声で言う。
「俺は、俺自身に呪われている。」
旭鬼が何か答える前に、靜鬼は焼けた魚を頬張った。
「旭鬼も早く食べちゃいなよ。丸焦げになる前にね。」
靜鬼が差し出す魚の刺さった木の枝を受け取って、旭鬼も黙ってそれを口にする。
「…… 咲夜を感じる?」
靜鬼の問いかけに、旭鬼はゆっくり頷いた。
「あぁ。そんなに遠くない。」
「そうか。早く見つけてやらないとね。」
2人の頭上でザワリと木々を揺らして風が吹き抜けた。




