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ーー 朔夜。もうすぐだ……
闇の中で声が聞こえる。
あぁ、またあの夢か と咲夜は思った。
ーー すまない……。すまない、朔夜。
泣いているような震える声が言う。
「いいの。だから泣かないで。」
咲夜は答えた。
ーー 俺がお前を諦められたら、
こんなにお前を苦しめる事もないのに……。
「いいの。いいのよ、分かってるから……」
闇に向かって手を伸ばす。
ーー もうすぐだ。もうすぐ約束を果たそう……。
「……うん」
闇が咲夜を抱きしめる。何も触れるものなど無いはずなのに、その存在を確かに感じた。
「早く来て、闇刀。貴方が来ないなら、私が行くから。」
咲夜の呟きに、闇刀は僅かに震える声で頷いた。
ーー …… すまない朔夜。……すまない。
どうして謝るの?そんなに悲しそうな声で。大丈夫だから泣かないで。
ひらひらと舞い落ちる花びらが闇の中に浮かんでは消えていく。
哀しげに揺れる呂色の瞳と闇より深い漆黒の髪が散りゆく花の向こうに陽炎のように淡くゆらめいて見えた。胸を締め付ける切なさに咲夜は闇を抱きしめる。
会いたい。ただ、貴方に会いたい。
遠い日の約束は、強く願う想いでもあった。
ーー 必ず、必ず迎えに行く。
闇刀の声が囁く。
ーーどんなに遠く離れても、どんなに時が過ぎてしまっても、必ず探して迎えに行く。
そして、もう二度と離さない。
すまない、朔夜……。お前を諦めてやれなくて、すまない。
俺はお前の幸せを願ってはやれない。
たとえお前を泣かせても、たとえお前を苦しめると分かっていても、俺はお前を諦められない。
だから、朔夜……。俺の全てをお前に捧げよう。
この身も、この声も、この魂も、全てお前に差し出そう。
長い… 長い時の中で、願うのはただ一つだけ……
会いたい。お前に会いたい。
「闇刀……。」
泣き出しそうに掠れた声に胸が詰まる。
「いいの。分かっているから。」
咲夜は繰り返す。
「泣かないで。側にいるから。離れないから。」
ひらひら、ひらひら、花びらが舞う。
闇刀の濡れた黒い瞳が柔らかく細められ、薄い唇が声を出さずに小さく呟くように動いた。
ーー……すまない。……お前を愛してしまって、すまない。
花は散りゆく。ひらひらと。
闇がゆっくりとそれを飲み込み、耳が痛くなるほどの静寂の中で、咲夜は疼くような胸の痛みに唇を噛み締めた。




