表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月鬼の華 ~ tuki no hana ~  作者: うめは
生贄の姫
45/54

ー淺月ー

 曼珠沙華(まんじゅしゃげ)の赤い花が揺れている。

 小さな墓の傍で淺月は静かに佇んでいた。


 かつて淺月には双子の弟がいた。

 髪と瞳の色は違えど、鏡を見るように同じ顔をした弟だった。


 ーー あさき!


 格子の間から手を伸ばし、嬉しそうに淺月を呼ぶ。


 ーー 来てくれてありがとう、淺月。


 どうして雫月が閉じこめられているのか、淺月には分からなかった。何とか出してやりたいと翁に頼んだ事もある。

 だけどそれは叶わなかった。


 翁は酷く怒って淺月を折檻(せっかん)した。二度とあそこには近くなと怒鳴られて竹の棒で打ち据えられた。それでも人目を盗んでは会いに行く。まるで魂の片割れのように感じて、会いに行かずにはいられなかった。


 強い風が吹き抜けて、曼珠沙華の花を揺らす。淺月の白金の髪も風に煽られてふわりと舞った。



 丁度、今頃の季節だった。

 いつものように雫月に会いに行くと、牢の中は空っぽになっていた。


 ーー 雫月は死んだ。


 翁は悲しそうに眉尻を下げて、流行病(はやりやまい)で急な事だったのだと、そう告げた。


 里に病が広がらないように、遺体は遠くに運んだのだと言う。


 昨日まであんなに元気だったのに?


 信じないと何度も翁に詰め寄ったが、それ以上は誰も何も教えてくれなかった。空っぽの牢に明かり取りの窓から、静かに月明かりだけがさす。


 まだ、たった5つだったのに。

 外の世界を知らず、誰からも悲しまれる事もなく、幼い弟は逝ってしまった。淺月は守ってやれなかった事を深く悔やんでいた。


 ーー あさき!


 今でも幼い声が胸の中に聞こえる。


 すまない……。

 独りぼっちで逝かせてしまって。

 寂しい思いをたくさんさせてしまって。


 格子の間から淺月の着物の裾を掴む小さな手を、どうして離してしまったのだろう。死出の旅路は寂しくなかっただろうか。


「雫月……。そこは寒くはないか?暗くはないか?」


 中身のない小さな墓はただ静かに沈黙する。


「雫月。俺は、お前が恋しい……。」


 淺月は墓石をそっと撫でた。慈しむように。愛おしむように。目を閉じれば今でもはっきりと思い出せる弟の面影を、胸の中で強く抱きしめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ