ー淺月ー
曼珠沙華の赤い花が揺れている。
小さな墓の傍で淺月は静かに佇んでいた。
かつて淺月には双子の弟がいた。
髪と瞳の色は違えど、鏡を見るように同じ顔をした弟だった。
ーー あさき!
格子の間から手を伸ばし、嬉しそうに淺月を呼ぶ。
ーー 来てくれてありがとう、淺月。
どうして雫月が閉じこめられているのか、淺月には分からなかった。何とか出してやりたいと翁に頼んだ事もある。
だけどそれは叶わなかった。
翁は酷く怒って淺月を折檻した。二度とあそこには近くなと怒鳴られて竹の棒で打ち据えられた。それでも人目を盗んでは会いに行く。まるで魂の片割れのように感じて、会いに行かずにはいられなかった。
強い風が吹き抜けて、曼珠沙華の花を揺らす。淺月の白金の髪も風に煽られてふわりと舞った。
丁度、今頃の季節だった。
いつものように雫月に会いに行くと、牢の中は空っぽになっていた。
ーー 雫月は死んだ。
翁は悲しそうに眉尻を下げて、流行病で急な事だったのだと、そう告げた。
里に病が広がらないように、遺体は遠くに運んだのだと言う。
昨日まであんなに元気だったのに?
信じないと何度も翁に詰め寄ったが、それ以上は誰も何も教えてくれなかった。空っぽの牢に明かり取りの窓から、静かに月明かりだけがさす。
まだ、たった5つだったのに。
外の世界を知らず、誰からも悲しまれる事もなく、幼い弟は逝ってしまった。淺月は守ってやれなかった事を深く悔やんでいた。
ーー あさき!
今でも幼い声が胸の中に聞こえる。
すまない……。
独りぼっちで逝かせてしまって。
寂しい思いをたくさんさせてしまって。
格子の間から淺月の着物の裾を掴む小さな手を、どうして離してしまったのだろう。死出の旅路は寂しくなかっただろうか。
「雫月……。そこは寒くはないか?暗くはないか?」
中身のない小さな墓はただ静かに沈黙する。
「雫月。俺は、お前が恋しい……。」
淺月は墓石をそっと撫でた。慈しむように。愛おしむように。目を閉じれば今でもはっきりと思い出せる弟の面影を、胸の中で強く抱きしめた。




