表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月鬼の華 ~ tuki no hana ~  作者: うめは
悠久の契り
39/54

―10―

「マレビト信仰って知ってる?」


 突然の(はく)の問いかけに、咲夜はハッと息を飲んだ。

 パチリと小さく焚き火が()ぜて音を立てる。咲夜に頬を打たれた事を気にも止めていないように、(はく)は蒼い目で咲夜を真っ直ぐに見つめて言った。


「古い言い伝えがあるんだ。遥か昔、垂仁天皇(すいにんてんのう)の時代。田道間守(たじまもり)と言う家臣に天皇は常世(とこよ)の国に行き、食べれば不老不死の命を授かると言われる非時香果(ときじくのかくのみ)を手に入れて来て欲しいとお頼みになった。田道間守は垂仁天皇の願いを叶える為に旅に出る。」


 魄はお伽噺(とぎばなし)でも聞かせるようにゆるゆるとした声で続けた。


「それは長い長い旅だった。田道間(たじま)垂仁天皇(すいにんてんのう)の元に戻った時には、すでに10年の月日が流れていた。やっと帰り着いたものの天皇は田道間の帰りを待たず、すでに御崩御(ごほうぎょ)されていた。田道間守(たじまもり)は持ち帰った非時香果(ときじくのかくのみ)を亡くなられた天皇の御陵(ごりょう)に供えると約束を果たせなかった事を深く悲しみその場で自害された。」


非時香果(ときじくのかくのみ)……」


 咲夜はそれをどこか懐かしい響きを持って聞いていた。


「それから時は過ぎ650年ほど(のち)皇極天皇(こうぎょくてんのう)の時代だ。駿河国(するがのくに)の富士川の近くに大生部(おおうべの) (おお)と言う豪族が居て、不老不死を願い常世神(とこよのかみ)を祀っていた。」


 魄は差し入れた指で咲夜の髪を()きながら声を低くする。


巫覡(ふげき)を従え、生贄を捧げ、常世(とこよ)から神を呼んだ。その常世からやってくるのがマレビトだ。」


 指の間をサラサラと流れ落ちる銀白色の柔らかな髪を弄ぶように魄は優しげにも見える仕草で何度も繰り返し咲夜の髪を()く。


(おお)は信じていたんだ。田道間守(たじまもり)が本当に常世へ行ったのだと。本当に非時香果(ときじくのかくのみ)を持ち帰ったのだと。だから常世神(とこよのかみ)現世(うつしよ)に呼び寄せる事にした。」


 魄はクスリと微笑みを浮かべて咲夜の耳元に顔を寄せた。


(おお)(かんなぎ)依代(よりしろ)にして生贄を捧げ、マレビトを呼び出した。現世(うつしよ)にあってはならない神の力を我が物にせんとする(おお)を深く(うれ)いた聖徳太子(しょうとくたいし)が、側近である秦 河勝(はたの かわかつ)(おお)の討伐を命じたんだ。」



 ーー たぶん、もうじき俺は死ぬ。


 少年の声が頭の中にこだまする。咲夜は耳の奥でドクンと鼓動が打つのを感じた。


 ーー 俺は……神の依代(よりしろ)だから。


 感情のない静かな声で少年は言う。


 ーー いつか生まれ変わったら、また巡り会って俺を見つけてくれるかな?


闇刀(やと)……」


 ドクドクと脈打つ熱が肩に集まってゆく。咲夜の匂い立つ甘い香りが魄の鼻腔を満たした。


「僕はその、(おお)の一族の末裔(まつえい)だよ。」


 (あで)やかに微笑む魄は、冷えた氷のような瞳で咲夜を見つめる。


千年(せんねん) 待った。」


 ゆっくりと顔を傾け唇を寄せると、魄は薄い微笑みを浮かべたまま触れるだけの口づけを落した。


「やっと会えたね、生贄の姫。」


 私を呼ぶ声は誰のものなのか、押し寄せる記憶はいつの事なのか、分からないのに知っている。魂に刻まれた(しるし)のように私は()()を知っている。


 ぷつりと途切れた意識の闇に、咲夜は深く落ちて行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ