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ーーあなたが生まれた日
まぁるい お月さんが見ていたわ。
満開の桜の花が、ひらひらと舞い散って
雪のように積もっていたのよ。
夜の闇に咲く 一片 の花のように
あなたが美しく闇を照らす光となりますように。
だからあなたの名前は咲夜。
夜の闇にも咲き誇る花となれ……ーー
唄うように由乃が言う。
幼い日に子守唄代わりに聞いた、母の願い。
ーー咲夜、誰にも知られてはいけないよ。
夜毎、繰り返し紡がれる母との約束。
ーー絶対に、知られてはいけないよ……
「母様……」
強い力で押さえつけられ、咲夜は小さく悲鳴をあげる。
「いや、母様やめて!」
由乃は真っ赤に焼けた炭を火箸で持って、咲夜に向かい押し付ける。己の肉の焼ける匂いが鼻をつき、咲夜は激痛に喉が裂けそうなほどの叫びを上げた。
「いやぁああ!!!」
何度繰り返されたか分からない。
時には刃で切りつけられ、時には火箸で身を焼かれ、咲夜はいつしか涙を流さなくなった。
どんなに苦しくても、激痛に気を失っても、悲鳴一つあげなくなった。
そうして、由乃の気がすむと咲夜は1人蹲り、ひたすら傷が癒えるのを待った。
「どうした?」
いつものように小さく丸まって、納屋の片隅で震えていると突然、小さな手が頭を撫でた。
「泣いているのか?」
燃え立つような紅い瞳が、じっと咲夜を見ていた。
「もう泣くな。大丈夫だから。」
ぎこちない手でそっと壊れ物に触るように、優しく頭を撫でてくれる。涙なんか流していないのに。一言も声など出していないのに。刀鬼弥は咲夜に泣くなと言う。
「俺が護ってやる」
幼い咲夜にとって、その一言がどれほどの救いになっただろう。刀鬼弥はどこに居ても必ず見つけて側に来てくれた。
「護ってやるよ、どんな事からも。だから必ず俺を呼べ。」
はにかむように笑う紅い瞳が、真っ直ぐに咲夜を見つめる。
「刀鬼弥……」
その名を呼んで心から願う。どうか無事で居て。
「刀鬼弥っ」
今すぐ貴方の側に行きたい。大丈夫だよと笑って欲しい。
刀鬼弥。お願い、どうか……ーー




