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月鬼の華 ~ tuki no hana ~  作者: うめは
悠久の契り
31/54

―2―

ーーあなたが生まれた日

     まぁるい お月さんが見ていたわ。


  満開の桜の花が、ひらひらと舞い散って

     雪のように積もっていたのよ。


  夜の闇に咲く 一片(ひとひら) の花のように

    あなたが美しく闇を照らす光となりますように。


  だからあなたの名前は咲夜。

     夜の闇にも咲き誇る花となれ……ーー



 唄うように由乃が言う。

 幼い日に子守唄代わりに聞いた、母の願い。



ーー咲夜、誰にも知られてはいけないよ。


 夜毎、繰り返し紡がれる母との約束。


ーー絶対に、知られてはいけないよ……



「母様……」


 強い力で押さえつけられ、咲夜は小さく悲鳴をあげる。


「いや、母様やめて!」


 由乃は真っ赤に焼けた炭を火箸で持って、咲夜に向かい押し付ける。己の肉の焼ける匂いが鼻をつき、咲夜は激痛に喉が裂けそうなほどの叫びを上げた。


「いやぁああ!!!」


 何度繰り返されたか分からない。


 時には刃で切りつけられ、時には火箸で身を焼かれ、咲夜はいつしか涙を流さなくなった。


 どんなに苦しくても、激痛に気を失っても、悲鳴一つあげなくなった。


 そうして、由乃の気がすむと咲夜は1人(うずくま)り、ひたすら傷が癒えるのを待った。


「どうした?」


 いつものように小さく丸まって、納屋の片隅で震えていると突然、小さな手が頭を撫でた。


「泣いているのか?」


 燃え立つような紅い瞳が、じっと咲夜を見ていた。


「もう泣くな。大丈夫だから。」


 ぎこちない手でそっと壊れ物に触るように、優しく頭を撫でてくれる。涙なんか流していないのに。一言も声など出していないのに。刀鬼弥は咲夜に泣くなと言う。


「俺が護ってやる」


 幼い咲夜にとって、その一言がどれほどの救いになっただろう。刀鬼弥はどこに居ても必ず見つけて側に来てくれた。


「護ってやるよ、どんな事からも。だから必ず俺を呼べ。」


 はにかむように笑う紅い瞳が、真っ直ぐに咲夜を見つめる。




「刀鬼弥……」


 その名を呼んで心から願う。どうか無事で居て。


「刀鬼弥っ」


 今すぐ貴方の側に行きたい。大丈夫だよと笑って欲しい。


 刀鬼弥。お願い、どうか……ーー

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