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月鬼の華 ~ tuki no hana ~  作者: うめは
偲ぶ心
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柳鬼 〜やなぎ〜

 まったく、何があったと言うのだろう。

 柳鬼は腕組みしたまま目の前の光景に眉を顰めた。


「それで、これはいったいどうなっているんですか?」


 近くの青年を捕まえて問うが、彼にもよく分からないらしい。


「最初は辰鬼(たつき)だけだっんですが、次の日には靜鬼(しずき)様と旭鬼(あさき)様もこの有様で……」


 名を挙げられた3人は、酷く思い悩んだ様子でぼんやりと空を見つめていた。


「旭鬼様、靜鬼様、どうされたのですか?」


 柳鬼の呼びかけに旭鬼は


「問題ない。」


 と答えたものの、やはり上の空だ。靜鬼に至っては返答さえない。鍛錬のために里の男達を集めて、今日は剣術の稽古をする予定だったはずなのだが、これでは稽古どころではない。


 こんなに腑抜けていては、この乱世の中でどうやってこの哮牙を守っていけると言うのか。


「辰鬼、しっかりしなさい。」


 年若い辰鬼の背を叩いて(げき)を飛ばすが、こちらもやはり何かを思い詰めたように覇気がない。


「何か悪い物でも食べたのか?」


流行病(はやりやまい)かもしれねぇな」


「そんなバカな。俺たちは鬼だぞ。(やまい)も毒も関係ねぇ」


 困惑しながら里の男達も心配そうに3人を見ている。


「そりゃ、(やまい)(やまい)でも恋の病(こいわずらい)ってやつさね」


 カラカラと笑い声を立てながら、萌黄がひょっこり顔を出した。


「も、萌黄(もえぎ)さん!」


 萌黄の後ろから慌てたように(かや)が止めに入る。さらにその後ろには(もも)と咲夜の姿があった。


「こんな山の中に女性が来るとは、関心しませんね。」


 柳鬼は咲夜に視線を向けて問いかけるように片方の眉を上げる。何をしに来たのかと聞いているのだろう。


「護衛もなしに屋敷の外に出てはいけないと申し上げたはずですが。」


「護衛なら僕がいます。」


 おずおずと熾鬼(しき)が前に出てきて言った。


「今日は咲夜様に里の中を案内するようにと朢月(もちづき)様より言付(いいつ)かって、僕が護衛(ごえい)(けん)案内役(あんないやく)として一緒に哮牙(こうが)の里を見て周っているんです。」


「そうそう。それで、たまたま里で私達と出くわしてね。一緒に周ろうかって事になったんですよ。ね?」


 萌黄(もえぎ)がニッコリ笑って咲夜の方に顔を向ける。


「は、はい。」


 コクコクと頷いて咲夜は柳鬼にちらりと視線を向けた。

 柳鬼は暫くそれぞれの言い分を黙って聞いていたが、やはり納得しかねると言うように溜息を吐く。


「里の案内は分かりました。ですが、なぜこんな山の中の、しかも鍛錬場に女性を連れてくる必要があったのです?」


 (とが)めるような声で柳鬼が熾鬼を見ると、今度は(かや)が慌てたように間に入った。


「も、申し訳ありません。私が悪いのです。」


「ふふ、茅が悪い訳じゃないよ。」


 (もも)が笑って言う。


「そうそう。恋しい人の姿を一目見たいと願う乙女心が罪ならば、私は閻魔様(えんまさま)に文句の一つも言ってやるさ」


 真っ赤な顔で(うつむ)く茅を、優しい表情で見つめながら萌黄が笑った。


「かや……」


 ふいに柳鬼の後ろから声がかけられた。


「お前、どうしてここに?」


辰鬼(たつき)さん。ご、ごめんなさい。邪魔をするつもりはなくて……」


 茅が焦ったように言うと、周囲に居た男達からヤジが飛ぶ。


「なんだ、茅の想い人は辰だったのか!」


「そんじゃ、ここ最近 辰の様子がおかしかったのも茅のせいか?」


 赤い顔をますます赤くして茅はオロオロと(うつむ)いた。


「お前ら!こいつを苛めんじゃねぇー!」


 辰鬼は茅を背に庇うように立ち男達を一喝(いっかつ)する。


「なるほど。」


 柳鬼は組んだ腕の上でトントンと指を動かしながら周囲を見回した。


「だいたいの事は把握しました。」


 そして咲夜に視線を戻して口を開きかけると、そのまま(まばた)きも忘れてその場に立ち尽くす。


 咲夜は旭鬼と靜鬼に挟まれて、これまたオロオロと2人の間で狼狽(うろた)えていた。


「だから、咲夜は俺が屋敷まで送って行くよ。」


「いや、俺が行く。」


「旭鬼は指導の役目があるだろ。」


「それなら靜鬼がやればいい。」


「剣術は旭鬼の方が得意だろ!」


「靜鬼、苦手克服(にがてこくふく)の良い機会だ。頑張れ。」


 言い合う2人の隙間に熾鬼(しき)が割って入りながら抗議の声を上げる。


「ちょ、ちょっと待って下さい!旭鬼様、靜鬼様!護衛の役目は僕ですよ!」


 三巴(みつどもえ)の言い争いに、柳鬼は言葉をなくしてしばらくその様子を眺めていたが、やがてゆっくり唇に緩やかな弧を描いて微笑した。


 なるほど。

 我が主人(あるじ)達にも何やら変化が訪れたらしい。


 抜けるように青い空へと緑の葉が枝を伸ばし、季節は春から夏へと移り変ろうとしていた。


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