刀鬼弥 〜ときや〜
「い、や、だ!!」
一言ずつ区切るように刀鬼弥は叫んだ。
「誰が好きでもない女を嫁にしなきゃならねーんだよ!」
「しかしなぁ、お前は禕牙の次期頭領だろ。」
百知は諭すように言う。
「お前の気持ちも分かるがなぁ、これも頭領の務めだ。」
「じゃあ、頭領なんてやらねー!」
「お前なぁ」
大きな溜息をついて百知は頭を掻く。
「そうはいくか。お前は生まれる前から次の頭領になるって決まってたんだ。つべこべ言わず諦めろ。」
「い、や、だ!!!」
堂々巡りの押し問答に、見兼ねた蓬が割って入った。
「長、刀鬼弥もまだ18ですしそんなに慌てて嫁を娶らなくても良いんじゃないですか?」
「諸国大名の嫡男は十が来る前には嫁を娶っとるわ」
「俺は大名じゃねぇ!」
はぁー…と溜息をついて蓬は刀鬼弥を睨んだ。
「少し落ち着きなよ。」
「これが落ち着いていられるかよ。だいたい、諸国大名とやらの婚姻は人質としての政だろ。」
「お前も人質になってみるか?」
「上等だ!クソ親父!!敵諸共、叩き切ってやる!」
「だから落ち着けって言ってるでしょ!」
頭から湯気でも上げそうな勢いで怒り狂う刀鬼弥を押さえつけて蓬は途方に暮れた。
「蓬の方が聞き分けが良いな。よし、お前が刀鬼弥の嫁になってついでに頭領の座も継いでくれ。」
百知はうんざりしたような声で投げやりな事を言いはじめる。
「い、や、で、す!」
今度は蓬が一言ずつ区切るように怒鳴った。
「こんな義父と、こんな夫に囲まれてたら、私の人生お先真っ暗よ!」
「なんだと!蓬、表にでやがれ!」
「望むところよ!」
睨み合う2人に百知はやれやれと肩を落とした。
「お似合いだと思うんだがなぁ」
「「それはない!!」」
2人同時に叫ぶ声は息もぴったり合っていた。
「なぁ刀鬼弥。」
百知は少し声を低くして刀鬼弥を見る。
「咲夜の事はもう諦めろ。」
刀鬼弥は真紅の瞳を燃えるように揺らめかせ百知を睨んだ。
「俺は約束したんだ。必ず迎えに行くと。」
諦めない。絶対に諦めない。
俺が諦めたら、誰があいつを護ってやれるんだ。
自分で自分の身体を抱きしめるように、小さく丸まって声もたてずに泣いていた幼い咲夜の顔が胸の中に過ぎる。
ーー泣くな。
刀鬼弥が言う。
ーー俺が護ってやる。
あの時から心に誓うのはただ一つ。
「俺は、俺の命に代えてもあいつを護る。」




