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「この日の本には大小さまざまな鬼の里があり、その何れもが忍びとして生きております。貴女の生まれた禕牙の里、そして我が哮牙。」
揺れる蝋燭の灯りがゆらゆらと、障子の上で踊るように影を落としている。夕餉の膳を前に、少し低めの穏やかな声で咲夜に語りかける柳鬼の声を、旭鬼と靜鬼は聞くともなく聞いていた。
「貴女の護衛を襲った風魔は、相模国の北条に仕える一族でその頭領は代々、風魔の名を受け継いでいます。次の風魔はあの蒐が継承するでしょう。」
咲夜は金色に光る冴え冴えとした切れ長の瞳を思い出して微かに肩を震わせた。
「そして魄は甲州、吾妻の透破。透破とは忍びの事を指します。彼等は元々は信濃国の村上家に仕えていましたが、村上が甲斐国の武田信玄に攻められ越後に追いやられると武田に仕えるようになりました。」
--ねぇ、僕のことも忘れないでね。
蜂蜜色の髪と蒼い瞳。少女のようにあどけない顔をした魄の声が頭の中で響く。
「頭領の名前は鬿纚隱。腹違いで3人の息子が居て、長兄の名は䰠。次が槐、3番目に生まれた魄は上の2人の兄とは随分歳の離れた兄弟だったと思います。」
「女鬼が少ない中で3人とも母親が違うとは、たいしたものだな。」
皮肉を込めたように旭鬼が片方だけ眉を顰める。
「攫ってくるのですよ。」
柳鬼は事もなげにさらりと言った。
「どこの里も女鬼は貴重ですからね。大抵は女を里の外に出す事はないのですが、小さな集落にひっそりと暮らす鬼達は、大きな里の鬼に襲われて女子供を攫われる事があるのですよ。」
「俺たちは滅びゆく種族だ。」
旭鬼はどこか遠くを見るように淡藤色の瞳を細くした。
「女を攫い、脅し、連れ去って子をなした所でこのまま行けばいずれ滅びる。」
「俺たちは滅ぼされる種族、って言ってよ。」
靜鬼は薄い笑みを浮かべて言った。
「ねぇ、何で俺たち鬼に女鬼が少ないか知ってる?」
女が少ない理由……
そんなものがある事すら知らない。
咲夜は首を振って靜鬼を見た。
「俺たちはね、呪われているんだ。」
クスクスと笑いながら靜鬼は声をひそめて囁いた。
「呪い……」
咲夜は靜鬼の言葉を繰り返すように呟く。
「俺たちも鬿纚隱と変わらないな。望まぬ婚姻のために、お前を里から奪ったのだから。」
旭鬼は咲夜に少しだけ視線を向けるとすぐにそれをそらして、障子の向こうで鈍く輝く月を見上げた。
「今夜の月は明るいな。」
ぽつりと呟く旭鬼の声に、靜鬼も空を見上げて月をみつめる。
「俺は、黙って滅びたりしない。」
やがて靜鬼は空を見上げたまま言った。
「それが天命だと言うのなら神にも、抗ってやるさ。」
呪われた身であれど、その運命を決めるのは己自身であるべきだ。




