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「終わった?」
不機嫌な様子を隠す事もなく、靜鬼は高い木の枝に座ったまま禕牙の3人を見下ろして言った。
「そう言うのは里で済ませてきてよ。」
うんざりした表情で黒曜石のような目を眇める。
「靜鬼様、短気な男は嫌われますよ。」
いつから居たのか、木立の間から柳鬼が咎めるように声をかけた。
「別にいいよ。俺は頭領の座と子が欲しいだけで、愛が欲しいわけじゃない。そこの女鬼が他の誰かに心を寄せていても一向に構わないよ。俺は心が広いからね。」
靜鬼は唇の端を緩く持ち上げて笑みを作ると、咲夜の方に視線を向ける。
「だから、ね……」
翳りのある妖艶な眼差しにゾクリと肌が粟立つ。
「俺の子を産みなよ。」
「せっかちな男も嫌われるぞ。」
旭鬼は額に流れる前髪をかきあげながら呆れたように溜息を吐いた。
「まったく……。お二人が女子の心を掴むには相当な努力が必要ですね。」
眉間に皺をよせて柳鬼はこめかみを長い指で押さえる。
「さて、それはともかく。お話しが済んだところでそろそろ里に帰らなければ日が暮れてしまいそうです。」
咲夜は柳鬼に一つ頷いて見せると、刀鬼弥と篤鬼に向かって頭を下げた。
「離れていても、私の心はいつも禕牙と共にあります。」
そして鬼弼の骸に近づくと、そっと目を閉じる。
ーーほら、あれはキビタキ。黄色い胸の羽が綺麗だろ?
鬼弼の声が胸に響く。
春を呼ぶ鶯。梅の花を誘うメジロ。春の空を渡るハマシギに、小川に唄うミソサザイ。そして黄色い胸のキビタキ……。
鮮やかな春の景色に色を添える小鳥の影に、鬼弼の笑顔が重なる。
「咲夜。」
刀鬼弥の呼ぶ声に伏せた睫毛を上げると、紅い瞳が真っ直ぐに咲夜を見つめていた。
「俺はお前を諦めない。いつか必ず攫いに行く。今すぐには無理でも、必ず行くから待ってろ。それまで俺の心をお前に預ける。」
咲夜はその場でもう一度、頭を下げた。
言葉にならない想いを飲み込んで。




