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「ほら、あれはキビタキ。黄色い胸の羽が綺麗だろ?」
首から胸にかけて鮮やかなオレンジ色の羽を持つ小鳥を指差して鬼弼が明るい声で話しかけた。
「もう少しして、皐月の頃になるとオオルリが見られる」
咲夜は鬼弼の指差す方へ顔を向ける。
木々の間でその小さなオレンジ色の小鳥は
ピヨピ、ピッピキピピッピ
と歌うように囀っている。先ほどから鬼弼は野鳥を見つけるたびに、こうして鳥の名を教えてくれた。生まれて初めて里の外に出た咲夜はその美しい小鳥を錫のような色合いの瞳で見つめる。
鬼弼と咲夜の少し先を歩いていた篤鬼が、ふいに立ち止まりこちらを振り返った。
「咲夜」
篤鬼の呼び声に咲夜も立ち止まる。
「もうすぐ山頂だ。」
咲夜の護衛役である篤鬼と鬼弼の2人とは山頂で別れる事になっている。そこから先は哮牙の迎えが来ている手筈だ。チクリと痛む胸を隠して咲夜は笑顔を作った。
「2人ともありがとう。」
「なに言ってんだ。護衛なんだから礼なんていらねぇよ。」
鬼弼は咲夜の手を引いて歩きだす。
「鬼弼は昨日まで任務に出ていたんでしょ?
疲れてない?」
咲夜が心配そうに問うと鬼弼は屈託のない笑顔で平気、平気!と首を振る。
「それより咲夜の方こそ大丈夫か?
里の外に出るのは初めてだろ?」
「うん、平気。ありがとう」
「咲夜は素直で可愛いから、
哮牙に行ってもきっと大事にして貰えるさ。」
不器用な鬼弼なりの労わりなのだろう。咲夜の手を引く指先にほんの少し力を込めて鬼弼は優しい声で励ますように言った。
ふいに青く晴れた空に一羽の鳥が飛び立つ。
「あ、ほら咲夜。ヒバリが……」
空を指差して顔をあげた鬼弼が急に立ち止まり咲夜を振り返ったまま突然言葉を切った。
「鬼弼?」
鬼弼の視線を追って空を見上げた咲夜の視界に、突然赤い色が広がる。
「鬼弼!!」
篤鬼の叫び声が響くと同時に、鬼弼の身体がグラリと傾いて倒れた。
繋いだままの鬼弼の手に引っ張られて咲夜もその場に倒れ込む。何が起こったのか、すぐには理解できなかった。
鬼弼の首から吹き上げる血飛沫が咲夜の頬を濡らす。
「おや?これはこれは。女鬼とは珍しい。」
頭上から突如、聞きなれない声が響いた。篤鬼は咲夜を背中に庇うように立ち、刀を抜いて構える。
「咲夜、俺から離れるな!」
篤鬼は低く鋭い声で叫ぶと周囲に視線を走らせた。
「一昨日そいつがちょっとばかし我が殿を怒らせたんでな、討に来たんだが……」
楽しげな声が頭上から落ちて来たと思った次の瞬間咲夜は後ろから抱き竦められていた。
「良い土産ができたな。」
首筋に息がかかるほどの距離で男が笑う。背後を取られた篤鬼は咄嗟に振り返って刀を振り上げるが咲夜を見てそれを構え直した。いま斬り込めば咲夜も一緒に斬ってしまう。
「そいつを離せ!」
篤鬼は刀の切っ先を向けたまま咲夜の背後の男を睨みつけていた。
「これは私が貰って行く」
咲夜の腰に回された腕に力がこもる。片腕でぐっと引き寄せられ咲夜は男の脇に抱え上げられた。下から見上げるように男に顔を向けた咲夜にその男は唇の端を上げて笑った。
すっと通った鼻梁に薄い唇。青銅の鈍い色を放つ髪に、涼しげな切れ長の瞳。その双眼は金色の光を放ち、咲夜の瞳を見つめ返していた。




