秘めた心
ひらひらと舞い散る花びらが音もなく降り積もる。
由乃は指の震えを止めるようにその手を握りしめた。
――知られてはいけない…
手のひらに爪が食い込むのも構わず、指先が白くなるまでさらにキツく握りしめる。
――絶対に知られてはいけない。
たった今、自らが産み落としたばかりの小さな赤子に視線を向けると唇を噛み締める。
――どうして……
潤んだ瞳を細く歪めて由乃は喉の奥を低く鳴らした。
四角く切り取られたような明かり取りの小さな窓の外には冴え冴えとした月明りに照らされた薄紅の花が白い雪のように散って行く。
――どうしてこの子なの!
生まれて初めてこの世の空気をその胸に吸い込み、小さな娘は真っ赤な顔をくしゃくしゃにして産声を上げている。その小さく頼りなげな身体から振り絞るようにあげる声が由乃の胸に深く突き刺さった。
――何があっても、絶対に知られてはいけない。
ゆっくりと我が子をその腕に抱き上げて、由乃はふと明かり取りの小さな窓を見上げる。咲き誇る桜の花びらを誘うように、ふわりと風が流れた。ひらひらと踊りながら舞い散る花弁が暗い夜の闇の中、白く浮かんでは消えて行く。
キツく噛み締めた由乃の唇から血が滲んだ。
――誰にも知られてはいけない。必ず護ってみせる。
硬く胸に刻まれた誓いは、むせ返るような満開の桜と、青白く冴えた月だけがただ静かに見ていた。