ファーストコンタクト
レンはここ数日何も食べていなかった。下腹部がどこか空洞になったように感じている。頭の中でアルを失った瞬間が繰り返し繰り返し再生されていたが、それも徐々に収まりつつあった。やっと、レンは空腹感を覚え、狭い部屋を出ることを決意した。
レンは歩くことも久し振りで、栄養不足からか真っ直ぐ歩くことすら覚束なかった。また、起きた後すぐに、歩き出したからか、心臓の鼓動が強く打ち始めた。レンは身体の異変を感じ、その場で立ち止まる。助けを求めようとするが人通りはなく、レンは死を覚悟し、その場に倒れ込んだ。
レンは目を覚ますと、見知らぬ部屋で寝転んでいた。柔らかい布団の上だった。腹部の空虚な感じは消え、幾分か体調も数日前程度に戻っていた。
ランプで灯された、薄暗い部屋を見回すと、黒で統一されていて不気味な雰囲気を醸し出していた。しかし、レンの部屋よりは豪壮で衛生状態も良く、レンは富豪に助けられたのだと思っていた。
しかし、見当違いの答えだった。
「無様だな、命を助けられたんだ。感謝しろ」
部屋の扉を開け、縦に細長い黒い物体がゆらりゆらりとレンに近づいて低い声で話し掛ける。
「ありがとうございます。
……あれ、あんたは、まさか」
黒いローブの中に輝く銀色の髪。そして、面妖に光る赤い瞳。レンは目の前にいるのが、【カルナ】だということがわかった。人間とほとんど同じ風貌を持つカルナ。レンには目の前に立つ生物がカルナだとは到底信じられなかった。
「カルナで、何か悪いか」
「俺は数日前エラマスキアと対峙した。そいつに尊敬していた先輩も殺されてしまったんだ。その時分かったんだ。スカイシーカーに入隊したとしても、俺には何の力もないと。
カルナは人間の能力を遥かに上回る強靭な肉体を持つと聞く。そして、【人器】に並ぶほどの力を併せ持つと。俺には大切な人がいる。その人達を守りたいんだ。だから、助けてほしい」
レンはその言葉を口にした瞬間、ベッドから転がり落ち、ひんやりと冷たい地面に倒れていた。そして、レンは左頰の鈍痛に気付き、左手で押さえる。目の前に佇むカルナに顔を殴られたのだ。
「屑人間風情が俺に舐めた冗談をほざいてんじゃねえよ。救いたいもんぐらい自分の手で救え。守りたいものを守りたくても、守れない奴だっているんだ。お前は自分自身で守ることができる。他人に頼ってんじゃねえよ」
「そうしてでも、俺はその人を、その人達を助けたいんだ」
レンはそう言い返した瞬間、カルナはレンの鳩尾を思い切り蹴り込んだ。レンはあまりの激痛に腹を両手で抑えた。しかし、カルナはレンに休む暇を与えず、レンの黒い前髪を掴み、空中へ吊り上げてから壁に向かって投げる。
「お前はやれる限りの努力をしたのか。お前は無様になるまで、足掻いて、足掻いて、足掻いて、足掻いてきたのか。俺にはそうは見えない。無様になるまで、俺の目の前に現れるな、クズが」
レンはエラマスキアに隊長を奪われた現実を思い出す。あの現実は自分が無様だったことは明瞭だった。だからこそ、カルナに反発する。
「お前に……俺の何がわかるんだ!!」
しかし、レンはカルナの威圧感に怯む。その真紅に染まった眼差しに吸い込まれそうな気さえした。その目はどこか美しささえあった。そして、その大きく開いた目は数々の苦難を乗り越えてきた目だとレンは咄嗟に理解した。
「逆に聞くが、お前に俺の何がわかる。そろそろ自分の無力さを認めろ。そして、前を向いて、今どうするべきか考えるのをやめるな。人間の最大の武器は従属なき思考力だろ」
カルナはそう吐き捨てて、踵を返す。レンはその場を立ち去ろうとするカルナの背中に向けて、言葉を放った。
「……俺の名前はレンだ。お前の名前を教えてくれ」
「俺の名前はカルディアだ。用が済んだなら、早急にこの部屋を出て行け。そして、この出来事を口外するな」
カルディアというカルナは再びレンに背を向け、素っ気なく答えた。
「カルディア、お前をいつか見返してやるからな」
レンがそう言うと、カルディアの口角が明らかに吊り上がった。そして、何事もなかったようにこの部屋を立ち去った。
カルディア(No.?????)
年齢:??歳
身長:175cm
戦闘能力:25
行動力:7
優しさ:3
協調性:2
頭脳:8
(10段階で評価)
カルナであるため、髪色は銀色で赤い目をしている。カルナの掟を頑なに守っている。しかし、協調性がなく、単独行動が多いため、カルナの中でも謎多き者として周りからは異質な存在として扱われている。