表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sky Seeker  作者: 刹那翼
第1章 邂逅編
7/32

あの日

 レンはエラマスキアが襲来した日から、窮屈な自室で寝込んでいた。今にも部屋は崩れ落ちそうで、天井から落ちる雫の音で目が覚めた。そして、寝る度に同じ夢を見た。あの日の夢を。初めて外へ出た時の夢を。 

「地上ってどんなところだろうな」

「絵本に広くて綺麗な場所って書いてあるよ」

 レンはこの言葉を言わなければ、エルナの綺麗な横顔に傷は負わなかっただろうと今でも後悔している。

「実際に見なきゃわかんないだろ。俺はこの目で見たいんだ」

 エルナは少し考えて家の外に出ていった。レンは少し後になって追いかけたが、広場に出るとエルナは人混みの中を分け入って進み、レンには見えなくなった。レンは長い間探したが、見つからなかった。家に帰っているだろうと思い、レンはギャラントリー家に帰った。家の中を見渡すと、エルナの母だけがいた。

「おばさん、エルナは?」

「まだ帰ってないわね。すぐに帰って来るでしょう」

 レンはその言葉を聞いた途端、家の外に再び走り出した。まさか外に出ることはしないだろうと踏んでいたレンはエルナの実直さを甘く見ていた。巨大な鉄扉が開いていた。誰が開けたのかはわからない。レンは外に向かって走った。地面がぬかるんでいて、雨が降っていることがわかった。それが幸いしてエルナの小さな足跡が鮮明に残っていた。つまり、エルナが通ったことと、そこまで時間が経っていないと推測できた。レンは全力でその軌跡を追った。エルナが向かったのは森だった。花を探しに出たんだろう。

「エルナ、どこだ。はあ、はあ。返事をしてくれ!」

 レンの叫びは雨音の中に消える。レンには孤独がこれほど怖いとは思わなかった。

 空に閃光が走り、轟音が鳴る。その音の中に少女の叫び声がしたのをレンは聞き逃さなかった。あの光に驚いたのではないことにタイミングでわかった。雷鳴が轟いた少し後に叫び声がしたから。その声の先にエルナがいた。

 レンはエルナの周りに不気味な影が蠢いているのを見逃さなかった。

「あれが……アルマ」

 犬の姿をした、生ける屍。エルナは奴らに襲われていた。エルナは力無くアルマを振り払おうとする。

「エルナから離れろ! エルナ、立て!」

 レンは落ちていた木の棒を左手に取り、振り回す。犬のアルマはレンの抵抗に少しだけ怯んだ。そして、その隙にレンは右手でエルナの右手を握る。

「レン、なの?」

 レンはエルナの右顔に血が滴っていたことに気付いた。犬型のアルマに足の爪で引っ掻かれたのだ。レンの幼い脳に巡る考え、それはエルナのアルマ化だった。アルマに傷を付けられたエルナはウイルスに感染したのではないかと絶望する。

 しかし、その可能性を頭から消し、エルナと共に生きて地下に戻ることを決意した。

「エルナ、この右手を絶対離すなよ。俺もお前がどんな姿になっても離さないから」

「う、うん」

 ただひたすら来た道を走った。今までつけてきた足跡とは反対方向に無我夢中で走った。その時のことは断片的にしか覚えていない。必死だったからだろう。

 いつの間にか家に着いていた。その頃にはエルナは立つことすらままならず、体が熱くなっていた。

「おばさん、エルナが、アルマに……」

 エルナの母親の対応は素早かった。その対応が一秒でも遅れていたら、アルマ化は避けられなかったと言われた。あの時、レンはエルナの母親に怒られなかった。逆に、レンが外に出る勇敢な行動を採ったから助かったと感謝されたのだ。レンは怒ってほしかった。エルナがこんな目に遭ったのは自分に責任があったからだ。怒られなかったことが悲しかった。そして、情けなかった。

 レンはエルナが目を覚ますまで、エルナの傍を離れなかった。

「レン、あなたも寝なさいよ。あなたまで倒れられると、私は嫌」

 レンの疲弊した姿を見るに耐えなかったミシアはレンにそう話した。しかし、レンは首を横に振った。

「俺はここを離れたくない。ミシアは寝ておいて。俺はここにいる」

 お互い頑固なだけに長時間そのやり取りが続いた。いつもはレンが先に折れたが、この時だけはミシアはレンより先に折れた。

 エルナが目を覚ましたのは、皆が寝静まった頃だった。

「レン……ここは?」

 エルナが声を上げた瞬間、レンは彼女を抱き締めた。

「エルナ……良かった、本当に良かった……」

 エルナは突然の出来事であたふたしていた。

「どうしたの、そういえば私、外に出て……そうだ。レンに助けてもらったんだ。

 ありがとね、私あの時レンが来てくれて安心したの。あの時一人だったら私……」

「エルナ、俺、俺、お前をアルマから守れるくらい強くなるから。二度と不安な目に遭わせないから……」

 この時、レンはスカイシーカーに入隊することを決意した。

 しかし、レンは今決意を固めることは全くできなかった。レンはアルを見殺しにしてしまったのだから。レンは自分の左手がずっと強く握られていることに気付いてはいなかった。

エルナ・ギャラントリー(No.45168)

年齢:19歳

身長:158cm

戦闘能力:1

行動力:9

優しさ:10

協調性:8

頭脳:4

(10段階で評価)


エリア2出身。レンと同い年だが、誕生日は少しだけ早い。優しさの権化のような存在で、怪我をしていたら小さい怪我でも深く心配してしまうタイプ。姉のミシアからはうざいからやめろと言われている。レンのことを恋人と弟の中間の存在として見ている。誰よりもレンの夢を応援している。料理を作るのが下手で、まずいとも言えないレンは自分で料理をすることを覚えた経歴もある。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ