アルの過去
「よっ、レン。久し振りだなっ。元気してたか」
三日振りの任務に向かうレンが振り返ると、ミシアがいた。ミシアはエルナと姉妹で、顔立ちもよく似ている。違うところは、エルナが長髪でミシアはショートヘアーのところと、ミシアの方が茶目っ気があるところだろう。最もかけ離れているのは男性的な性格だろう。
「ああ。なんとかね」
「ウチの相棒のレンのことだ、アルマなんて五体は倒してるだろ。なんたって、ウチが五体倒してんだからなー!」
ミシアとのいつもの会話に、レンは苦笑いせずにはいられなかった。レンは昔からの仲であり、スカイシーカーの同期でもあるミシアの性格は誰よりも知っていた。男勝りなその性格は、アルマを人間だとは認識しなかったようだ。
「いや、ごめん。俺、まだ討伐数は一体だ」
ミシアもレンのことを誰よりも知っている。訓練兵の時、タッグを組まされていたこともあり、もしかしたらエルナよりもレンのことを知っている。だからこそ、レンの異常に察知した。
「いーや、ウチが悪いよ。ごめんな。
何か悩み事があったら言ってくれよ。じゃあなぁー」
そう言ってミシアは去って行った。レンはミシアに会えて嬉しかった気持ちと自分の度胸のなさに悔やむ気持ちが混じったような、複雑な気持ちに陥っていた。
レンが固く閉ざされた鉄扉の前に着くと、第6隊全員が揃っていた。しかし、時間通りだったので、誰からも咎められることはなく、アルが今日の任務について話し始めた。
「今日の任務は水力発電所の点検だ。今回はアルマを討伐する必要がない分、危険は少ない。そして、電磁波が放たれる範囲から出ることはない。だが、安全だからといって、油断は禁物だ。
これはマニュアルで言わなければならないことになってるから言っているだけだ。あんまり気にするな」
アルからは前回の脅すような雰囲気は全く感じられず、少し和やかな雰囲気だった。アルの様子を見ると、いつも発電所の点検は何事もなく終わる任務だと判断できる。
レンにとって三度目の外は、快晴だった。太陽が燦々と照りつけ、前よりも少し暖かくなってきたようだ。木にも新緑が芽吹いている。
そんな晴れ晴れとした雰囲気に、隊員も取り留めのない話をし始める。最初はアルに誰にも話し掛けなかったが、スズが先陣を切って話し掛けた。
「アル隊長の赤髪って綺麗ですよね。私、憧れます」
アルはスズの言葉を聞くと、悲しい笑みを浮かべた。
「俺はこの赤髪のことが嫌いだ」
その言葉を聞いたスズはキョトンとした顔をしてから、悪いことを言ってしまったとあたふたしていた。それを見たアルは言葉足らずな部分を付け足した。
「ああ、ごめん。スズにそう言われることは嬉しいよ。ただ、俺はこの赤色を見ると過去を思い出すんだよ」
アルは自身の眉ぐらいまでの長さの前髪を見ながら言った。
「過去?」
アルは失態を犯したような表情を浮かべ、溜め息を吐いた。
「あんまり話したくはないんだが、口を滑らせた俺が悪いからな。俺のことを見損なっても知らないぞ。
俺は捨て子なんだ。親についての情報は全くなかった。俺は幼少期に捨てられ、ならず者となった。
いつしか、俺は俺のことを捨てた両親に復讐を誓うようになった。今となっては愚かな行為だったと思うよ。俺はそのためだけに命の炎を燃やした。生きるためならば、人だって殺めた。俺の髪を見ると、その時の血の色が脳裏に浮かぶんだよ。俺はあの時の自らの行為を後悔している。
こんな俺にもある時に救いの手を差し伸べられた。その男はその時のスカイシーカーの総隊長だ。その人は聖人とも呼ばれていたか。
その人は俺の命を他の人のために使うべきだと説いた。この言葉がなかったら、俺は変わらなかっただろうな。俺は最初は反抗したが、その男の熱意に負けた。俺もその人を尊敬して、ユウやミオに救いの手を差し伸べたんだ。
今となっては俺はあの人に会えて良かったと思うよ。こんな自分にも役目があると思った。そして、こんな良い仲間に出会えたんだからな」
レンはその時アルの表情の意味を理解した。彼は誰かの前に立つ者として、高貴な人物であろうとしていたのだ。そして、この話をすれば仲間から見捨てられかねないと思っていたのだ。そして、自分と同じだ、と思っていた。
「隊長、別に俺は隊長のことを見捨てませんよ」
「そうですよ、私達も似たような経歴があるので」
先輩二人はアルのことをフォローした。アルは少しだけ笑った。
「そうだな。俺も今となっては重々承知しているよ、人の弱さを受け入れることが強さになるって」
レンにはその言葉がアル自身へ言っているのではないことを瞬時に理解した。これはレンに対しての言葉だと。
アル(No.なし)
年齢:24歳
身長:176cm
格闘能力:7
行動力:7
優しさ:6
協調性:8
頭脳:6
(10段階で評価)
第6隊の隊長。エリア9出身。戦闘に関わる隊長の中でも戦闘能力は少し低いが、評価はかなり高くカリスマ性は色々な人から認められている。髪は赤い色をしていて、自分の過去を彷彿させるものとして忌み嫌っている。彼の一番大事なものは仲間。嫌いなものは裏切り行為と酒。ユウが第6隊に入った時に飲まされて以来、飲んでいない。酒を含んだ料理も食べていない程の慎重さ。