二度目の外界
レン達、第6隊は重厚な鉄扉の前に着く。この扉は許された者のみが通ることができる。それは各隊の隊長と、【グランドクロス】の重鎮のみ。グランドクロスはこの世界の最高機関だ。この世界の脳の役割を果たしている。スカイシーカーは血液と言うべきだろう。基本的にはスカイシーカーは現在の任務のように独立し、緊急事態が勃発した時のみグランドクロスと提携する。
アルはカードキーをスライドし、四角い形状で一本の読み込み口がある機械に読み込ませた。すると、女性の声が機械から聞こえた。
『ごめん、ちょっと待ってね。よいしょっと。はい、こちらレミ』
その女性は少し息切れを起こしていた。余程急いでいたのだろう。
「こちらアル。また遅刻か。これから第6隊は外に任務に出る。ライフォンの確認を頼む」
ライフォンというのは兵士に支給される腕時計のことである。レンは右腕に巻いている。これで兵士一人ひとりのバイタルサインや位置、生死を確認することができる。その確認は第10隊の任務だ。また、ライフォンでは危険な時に限り信号を送ることができる。
『クリスみたいに確認を怠る隊長もいるのに、アルは規則正しいわね。了解、十二分に確認しておくわ。気を付けて行ってらっしゃい』
レミはそう言って通信を切った。
「じゃあ、新入りのレンとスズは先頭の俺と後衛のミオとユウの間を進んでくれ」
「「はい」」
レンとスズが息の合った返事をした後、固く閉ざされた扉が軋んだ音を立てながらゆっくりと開いた。
「これが、外の匂い……」
レンが嗅いだのは優しい土の匂いだった。温かく心を落ち着かせるような匂い。前とは正反対の匂いだった。スズがその呟きを聞いて少し笑う。
「レンは少しも緊張していないのね。緊張で体が震えている私が馬鹿馬鹿しく感じてきちゃったよ。よし、頑張ろうね」
スズの手は小刻みに震えていた。その会話を聞いていた、ミオとユウは輪の中に入ってくる。
「大丈夫だ。あの先頭の隊長がいる限りは死にはしないさ。あー、困ったことがあれば相談してくれ。勿論、横のミオでも良いぞ。俺の方が良いと思うけどな」
短髪で快活そうな青年のユウは自信を持って話す。それを彼の横に立つポニーテールのミオは訝しげに聞いていた。
「ユウは頼りないから、私か隊長に相談して頂戴ね。
アル隊長は素晴らしい隊長よ。私とユウは今からじゃ想像できないかもしれないけど、荒くれ者で物を盗んで生きていた。そんな私達に救いの手を差し伸べてくれた。文字を読めなかったし、汚い言葉しか話していなかったわね。あの人を信頼して世界が変わった。二人もアル隊長に選ばれたことに自信を持って、彼の導きに従えばいつか成長できるよ」
「はー、わかってないな。俺みたいに少し頼りないくらいが相談しやすいんだよ」
「自分で頼りないって認めてるんだ」
レンはスズの震えが収まりつつあることに気付いた。二人はレン達を安心させようとしているのだ。二人の会話から、どこか家族のような雰囲気がこの隊にあることがわかった。
和やかな会話をしていると、第6隊はいつの間にかそよ風が吹く外界に出ていた。太陽が抱擁するように照っている。木々が生い茂り、空気も澄んでいた。地下の閉塞感とは縁がない、爽快感がそこにはあった。レンは地上に危険な存在がいるとは到底思えなかった。
「おい、そろそろ会話は終わりだ。集中していくぞ」
その言葉を発するアルはピリッとした空気を感じた。そして、ユウとミオの雰囲気も緊張感あるものに変わった。その空気で、レンは只者ではない生物と戦うことを実感した。
「レン、スズ。あれが見えるか。あれがアルマだ」
アルが指差す方に不気味に佇んでいたのは感情を失った人間。声にならない呻き声が口から漏れ出ている。レンはその姿を見て絶句した。
「怖いか。それを忘れるな。恐怖を忘れたら、お前らもあの姿だ」
元は生きていた人間。その生物をこの手で葬る。レンは心臓が高鳴りだした。
「さあ、赤い核を探そう。レンとスズはその部分の攻撃を。ユウとミオは援護を。俺は周囲を気を付けながら守る」
レンは震える足をゆっくり前に動かす。スズもレンに続いて歩き出す。徐々にその異形が近づいてくる。
アルマがレンの姿に気付く。レンは腰の剣を強く握る。アルマは凄まじい速さでレンに襲いかかり、アルは声を上げる。
「危ない、レン!」
レンは咄嗟の判断でアルにも教えられたように、腰に携えていた剣を引き抜き、妖しく光る赤いコアを突いた。赤い光は線香花火が火花を散らすように儚く消えた。
「ワ……デュ……イ」
アルマは気味の悪い声を残し、力なく地面に倒れ込んだ。レンはふと我に返り、アルマを見つめ直す。左右それぞれの腕にはワイヤーが巻かれていた。その方向を見ると、ユウとミオがいた。二人はシューターを使って、攻撃してくるアルマからレンを守っていたのだ。
「悪い、反応が遅れた。無事か」
「レン、怪我はない!?」
「なんとか大丈夫です」
レンは二人の気遣いに大丈夫と返答したものの、そうでもなかった。剣で一突きした感触。それは人の肌のように柔らかく、人を殺めたような生々しい感覚だけがレンの掌にこびりついた。脳内では人間の言葉のような低い声が響き続けていた。
スカイシーカーが公開している情報1
・シューター
スカイシーカーの基本装備の一つ。利き手ではない腕に装着することを義務付けられている。
この装備は様々な用途に応じて使い分けられる。まず、ワイヤーを射出することができ、これは移動手段や離れた物を取ることに優れている。またダイヤルを回すことで射出するものが変わり、煙幕や信号弾を撃つこともできる。
・ライフォン
正式名称、生存確認携帯電話。機能としては心拍などのバイタルサインを読み取り、場所を発信する。地下でもある程度は使用できるように電波が張り巡らされている。しかし、最奥部である牢獄エリアでは使用不可。