第1隊の矜持
「ぐああっ!!! う、腕がぁ!!!」
戦況はスカイシーカーに傾いていたときだった。悲痛な叫びが戦場を貫く。その方向には右腕を左手で抑えているカイトがいた。その腕は肘から先がなかった。そこからは血が絶え間なく流れ落ちている。
「カイトの治療を! 僕がここを止める!」
カイトと同じ隊であるリルはその声を聞き、自分の隊服を破りカイトの切れた右腕を強く縛る。
「あれは、エマさん……?」
スズは高速で移動しながら銀斧を振り回す姿に見覚えがあった。そう、第1隊の隊員のエマだ。彼女はアルマとなり、敵の味方となってしまっていた。その姿はまるで鬼神だった。エマに立ち向かう戦士達は剣でガードしようとするが、そのスピードと勢いを殺せず、剣が真っ二つに折られていたり、最悪の場合腕が切り落とされたりしてしまっていた。
「カリン、ユージン! エマは俺らが倒すぞ! あいつは隊長と俺ら以外の奴らじゃ手に負えねえ!! 俺を援護しろ!!!」
「「了解!」」
ジャンはエマと決闘の姿勢に入る。周辺のスカイシーカーのメンバーは自分の戦いに集中しつつも、その戦いを視野の片隅に入れていた。その決闘の運命は如何様かという興奮と不安が集中を掻き乱していた。
ジャンは左手に装着しているシューターからワイヤーを放ち、エマを牽制するや否や間合いに入り、激しい剣戟を繰り広げる。エマはそれに対して戦斧で防戦する他になかった。
「斧と剣となら、剣の方が振り回すスピードが速い! しかし、威力としては斧の方が上! なら、お前に斧を振らせないように絶え間ない攻撃を与え続ければいい!」
エマは痺れを切らしたのか、猟奇的な声を上げて発達した鋭利な爪でジャンを切り裂こうとする。しかし、エマの左腕はジャンには届かず途中で止まる。
「おっと、残念。こっちにもシューターはあるんだよ。そんなことも忘れちまったのか?」
ユージンがワイヤーを発射し、エマの左手を縛りつけて身動きを取れなくしていた。
エマは左腕のシューターからワイヤーを射出し、その場から逃げようとする。
「これでどうだ!」
カリンはエマのシューターから放たれたワイヤーを切り裂く。エマはワイヤーが切り裂かれたことで、地面に物凄い勢いで落下する。
「カリン、よくやった。無防備な相手には一撃で十分」
その落下地点を予測し、ユージンは正確に引き金を引いた。銃声が轟き、ユージンの弾丸がエマの脳天に向かって螺旋軌道を描く。
「流石、第1隊! 勝った!」
その場の全員がそう思っていた。
「いや、ふざけんじゃねえよ……最高の一撃だっただろうが……」
しかし、エドワルドがエマの目の前に骨の壁を築き上げ、エマの致命傷は防がれてしまう。ジャンはその様子を見て奥歯が折れるほど食いしばる。
「……ユージン、何が起ころうとも、気負うな」
いつになくジャンは真剣な声色でユージンに告げる。
「お前、何をする気だ?」
ユージンはジャンに質問するが、何も答えようとはしない。ジャンは何も言わずにその場を立ち去る。
そして、明らかに回避行動も取ろうとせずに、エマの攻撃範囲に入る。エマは間髪を入れずジャンを攻撃する。
「なぁ、エマ、一人で逝くのは怖えよな……一緒に眠ろうや……」
ジャンは胴体で斧を受け止め、ワイヤーで拘束しながらエマの体を抱きしめていた。そして、ユージンに向かって目配りをした。ユージンはジャンの真剣な眼差しを思い返す。
「……ジャン、エマ、静かに眠りな」
ユージンは逡巡する暇すらなく、ジャンとエマの頭蓋を撃ち抜く。
二人は同時に静止した。ジャンとエマは薄く笑みを浮かべながら、涙を一筋流していた。優しい微笑みだった。
「これが、第1隊の矜持だ」
喜びと悲しみは束の間だった。
地面からエラマスキアと思われる巨骨が浮かんでくる。それに伴って、肉食の動物と思われる骨が複数這い出てくる。
「ここは猛獣園かなんかか?」




