最強の戦士 最弱の戦士
しばらく歩くと、平原に出た。その平原には疎らにアルマが彷徨しているのが見えた。森を目指すには、その平原を横切る必要がある。
「さあて、準備運動の時間だ。犬っころ! 俺に敵を集めろ」
「犬っころじゃない、ショウって名前がある!」
レンにはなぜショウが犬っころと呼ばれているかよくわからなかったが、犬を育てているからだろうと想像した。
「どうでもいいからやれ」
犬が囮となって走り回り、アルマをクリスの前に集める。五十数体ほどの集団のアルマだ。人器を持っているからといって、到底太刀打ちできるとは思えない量だ。
「あんな量倒せるわけないって、今すぐやめるべきだ!」
レンはカムイにそう進言する。しかし、カムイは落ち着いてレンを制する。
「レン、静かにしてろ。ここからはあいつの独壇場だ」
「母なる大地を味わって死ね」
クリスはその言葉を冷酷に放つと、彼の左手の腕輪が光り出す。すると、クリスを中心に半径十メートル程の距離に隙間なく剣や斧が出現する。それがクリスの周囲を超高速周回し、耳を塞ぎたくなるような、甲高い音が鼓膜を強く振動させる。その冷酷な、銀色の光輪の中にアルマが吸い込まれる。
その場には赤い雨が一帯を覆った。無慈悲な光景。緑の草原には血飛沫が舞い上がり、その上に一人立つのは、赤い水滴を浴びる戦場の悪魔。レンの開いた口は塞がらなかった。
「これが最強の戦士の力だ。彼の能力は武器を創出し、自由に操作する能力。スカイシーカー最強の能力だ」
レンはその光景に見入っていた時だった。辺り一帯全てのアルマが集まっているはずだったが、その群衆から外れたアルマが横から飛び出してくるのに反応が遅れてしまった。
「レン、危ない!」
すぐに気付いたのはユウだった。しかし、それ以上に早く気付き、アルマを仕留めた者がいた。それは先頭に立つ皇帝、クリスだった。光輪の中の一本の剣が飛び、アルマの胸に突き刺さる。その返り血がレンの頰を濡らし、ゆっくりと伝う。
「お前、そいつに気付かなかったことがどういう事態を招くことかわかってんのか? お前だけの問題じゃない。ユウも殺すことになるんだぞ。
アルマを殺すことは俺達が生きることだ。殺す気がないなら、スカイシーカーをやめろ。お前みたいな隊長なんかいらねえんだ。
ユウも今のスカイシーカーの中じゃ、ベテランだろ。こいつにアルマを、殺させろ」
レンはその言葉をいつか言われる日が来ると知っていた。戦えない戦士。それは地下世界を救う人間にとっては不必要な存在なのだから。
レンは頰を流れる赤い雫を拭うことなく、ゆっくり流れ落ちていくのを感じていた。人間と何一つ変わらない液体。自身の中に脈打つ血潮が速くなるのを感じる。クリスの言っていることは至極当然のこと。どのようにして、その死生観を得たのかはわからないが、自分が生きるためには生きる命を殺すことも必要なのだ。だが、この鼓動する心臓を貫き、その鼓動が徐々に小さくなる感覚を思い出す度に吐き気を催す。レンには二度とアルマを殺すことなどできなかった。
「悪い、クリス。気を付ける。だが、アルの頼みでレンにアルマを殺させることはできない」
「アルはもう死んだ。死人に口はねえよ」
クリスの言葉にユウは閉口する他なかった。そして、クリスに反対する声も上がることはなかった。
仲間を守るためには、隊長として敵を殺さなければならない。しかし、アルマは殺したくない。震える手をレンは強く握れなかった。
クリス (ナンバーなし)
年齢:24歳
身長:173cm
戦闘能力:50
行動力:6
優しさ:1
協調性:2
頭脳:4
(10段階で評価)
第5隊隊長。ナンバー無しで出身地不明。地下世界最強の戦士。戦闘狂ではあるものの、他のことには意外と消極的。第2隊長にハルを猛推薦した人物でもあり、最もハルを評価している人物。ショウのことを犬っころと呼ぶが、犬を保護し飼育している彼のことは気に入っている。実はアルと同期で、動物の本能を解放したような強さから狂人扱いされている。名前の綴りはKrissで、Chrisではない。




