気付き
全部隊が外の世界へ出る。その時、ショウは十匹もの猟犬のように背が高く勇ましい犬を解き放った。それ以外に動物は一切使用されず、馬に乗る人物もいない。馬を飼育していないわけではないが、困窮が問題視されている地下世界では馬に与える食料を確保することが難しい。今回の遠征は森という危険が潜む場所に行く。そして、場合によっては木々を切り落とし視界を良くすることもある。その倒れた木々で馬が怪我をしないように置いてきている。また、もう一つの理由として、全員分の馬を飼育していないことも挙げられる。全員が乗ることができないとなると、速度の違いで離れてしまうことが必至になってしまう。その場合も考慮している。
移動中は静寂に満ちていて、話す者はほとんどいなかった。聞こえるのは地面を踏む足音と小鳥のさえずりだけで、ただ照り渡る夏の暑さに耐え凌いでいた。この真夏の猛暑日を選んでいるのにも訳がある。夏は昼の時間が長くなり、安全に行動できる時間が総じて長くなる。全部隊の安全を図るためにもこの時期が適していると言える。
配置的にレンの近くにいる隊長は、カムイとハル、イブ、ショウの四人となった。カムイ以外にあまり接点はなく、レンは他の隊長と話しようとはあまり思わなかった。かと言って、側にいる第6隊のメンバーとも話したいと思っておらず、移動する際も口を開くことは少なかった。
「先程から何も話してないですけど、緊張でもしてるんですか?」
レンが話し掛けられたのは意外にもイブだった。
「え、ああ、いや、そうじゃないです。話しにくい雰囲気だなと思って」
「いつもそうですよ。特に新人さんは。私も昔はそうでしたよ。ほとんど一番先頭にいるクリスさんが一掃して終わりでしたので、雰囲気を味わっただけでしたね」
イブはレンを励まそうとしているのだろうが、表情の変化はなく励まされているようには感じていなかった。また、新人の時に緊張していたのが嘘のように感じられた。
「レンさんと話すのは初めてですね」
「え、あぁ。そう、ですね」
イブはアルが言うような傾奇者には見えず、大人しそうで何も興味がないような人物だとレンは思っていた。言葉を悪くすると、顔が鉄でできているような無表情。一人の兵士なだけあって、顔立ちは整っているものの、そこからは感情が感じられない。だからこそ、話しかけられた際には接し方に困ってしまった。
「なんかよそよそしいので、私の前では敬語は使わないでください」
レンが敬語を使うことを忌避したが、そのイブが敬語を使うことに気になった。他のスカイシーカーの隊長もレンが敬語を使うことを躊躇う傾向がある。これはスカイシーカーの暗黙の了解なのだとレンは思った。
「わかりまし……わかった。
……クリスって自信満々だったんだけど、どんな能力なんだ?」
「うーん。もうすぐ見れますよ。あの人の能力は簡単に言うと、最強です。どれほどのアルマが集団でかかっても、いとも容易く鎮圧します。カムイさんとジンさん、レオさんが三人がかりでやっと倒せるんじゃないですかね」
レンは話題を模索したが、イブの趣味などは全く知らなかったため、言葉に詰まる。
「……なんで俺に話し掛けようと思ったの?」
だからこそ、思ったことを率直に聞くことにした。イブは何か目的があってレンに話し掛けてきた。会話を何度か交わしてから、質問しようと思っていたが、回りくどいことは抜きにして単刀直入に聞いた。
「……レンさんは人類が全滅せず、地下に生き延びることをできたか知っていますよね」
イブはレンに知っているのが至極当然だという言い方で尋ねる。唐突な質問で、レンは少々戸惑ったものの、知っていることを明確に返す。
「そりゃあ、まぁ、一般知識だから。この建物があって、ここからアルマが嫌う電磁波を発することができたからだよね」
「では、何故、生き延びるための建物が元からここに建っていたのかを考えたことがありますか?」
イブの表情は微動だにしなかったが、瞳の奥の熱意や真剣さはレンにもひしひしと伝わってきた。レンはその熱意に心を動かされ、その疑問について真剣に考える。レンの脳裏には即時的に疑問が浮かぶ。
「なんで、あるんだ。何故、この地下世界を構築することができたのか。人類はアルマから生き延びるために、この建物を建てた。でも、こんな大きい建物を建てる暇なんてあるのか。順序が逆だ。まるでアルマがいることを予期していて、この建物を事前を事前に作っていたのか」
レンはイブに言われて初めて気付く。まるで避難するための施設が準備されていたように人類は生き延びた。イブはレンの言葉を聞いて、少しだけ首を縦に振った。
「この世界は元々作られていたとしか考えられない。偶然そこにあったなんて、高さじゃない。そして、地下も偶然張り巡らされた通路があったなんて考えられない。私はこの世界の真実に辿り着きたい。あなたもそうですよね?
私は第6隊の隊長議決の時、あなたが夢を語るのを聞いて感銘を受けました。そして、私はあなたと同じなんだと実感しました。絶対に成し遂げられないことを追い求めようとする人間なのだと。
だからこそ、忘れないでほしいのです。この世界には偽りの事実が張り巡らされていること。そして、その事実を知ることは危険だということを」




