全隊遠征
マグノリアと出会ってから一週間が経ち、今日は全隊遠征の日。人類に希望をもたらす日。今回の遠征が成功すると、人類の地下生活が終焉を告げる可能性も大いにある。レンはその希望に胸を高鳴らせる。
「スカーレット、行ってくるよ」
スカーレットに手を振ると、スカーレットは笑顔で手を振り返してくる。
右手に装着しているシューターの位置を何度も修正しながら重厚な鉄扉があるエリア1に向かう。エリア1はグランドクロスが管轄する、地下世界唯一の建物がある場所でもある。地下世界にはエリア1からエリア10まで存在し、エリア2とエリア3は生活区域、エリア4とエリア5は商業区域、エリア6からエリア9は資源発掘区域、エリア10は牢獄区域となっている。エリア10のみ、地下の奥深くに位置しており、凶悪な犯罪者が収容される区域となっている。
第6隊隊長室からエリア1はそれほど遠くはなく、到着するのは約束の三十分前頃になるだろう。レンはその時間でシューターの再点検や準備運動をしようとしていた。レンは一番に約束の場所に着くだろうと予想していた。
しかし、予想とは全く逆だった。
「レン、遅かったな。全隊遠征はやる気なしか? 大丈夫、俺も最初はそうだった」
レンに話しかけたのはシオンだった。シオンは戯れるようにレンを羽交い締めにする。
「あれ、俺が最後?」
「そりゃそうだろ。スカイシーカーの変人どもは全隊遠征のために生きてるようなもんだからなー。普段の任務ではこんなにやる気は見せないのにな」
シオンはそう言うと、ケラケラと笑いだす。ユウはレンとシオンが話している姿を見て、二人に近づいて話の輪に入ってくる。
「レン、シオンさんの言葉はあんまり気にするな。全隊遠征は初体験なんだし、集合時間の二時間前には集まってる奴がいるなんて知るはずがないからな。
……まあ、頑張ろうぜ」
ユウは全隊遠征で必ず一人は死傷者が出ているということを口にしかけたが、レンのためにそれを飲み込んだ。
「お前、隊長のくせに、こんな時間に来るとは舐めてるのか? 遊びに来たのなら、帰れ。今すぐに。
さもなければ、死ぬぞ」
静かな罵声をレンに浴びせたのはクリスだった。
レンはその言葉に言い返すことができなかった。それはクリスの言葉が正論でしかなかったからだ。
「クリス、落ち着けよ。レンは新人なんだ。悪気があってそうしたわけじゃない。
それにこいつは骨があるよ。一年目で隊長になったことに不満はあるだろうが、人一倍の覚悟はあるぞ」
クリスの肩を掴み、クリスを落ち着かせようとしたのはレオだった。
クリスは冷酷な表情を一切変えずに自身の肩に置かれたレオの手を払い、強く言い放った。
「覚悟があって世界は変えられるのか? じゃあ今まで死んでいった奴らにも世界は変えられるだろ」
「確かにそうだが、まだ一年目なんだ。これからに賭けてもいいだろ」
「これからに賭ける時間があるならな。地下世界には時間がねえ。俺が世界を変える。俺がアルマから世界を守る。お前らが俺の目の前に立とうものなら、問答無用で殺す。それを記憶に刻みこんでおけ」
クリスの自信は異常なものだった。レンはそれ以上に、クリスが結果に急いでいる理由に気になった。急ごうと今までといる場所は変わらない。今ではなければならない理由があるはずだ。
「お前の脳筋具合は変わらないな。ただ、死ぬなよ」
クリスは鼻で笑っただけだった。これが無敗の余裕。
「俺が死ぬ? 笑わせんな。俺が死ぬときはこの地下世界が屈するときだ」
「言ってくれるじゃねぇか。ま、背中はいつも通り俺に任せろ」
レンは瀕死に追いやられたレオの攻撃能力を思い出す。しかし、その彼があっさりと席を譲るほどの攻撃力。スカイシーカー最強の男だということは知っていたが、レオのような人物をも防御に徹する程余裕を生む男だとは思ってもいなかった。
「誰も出番はねえよ」
この時、クリスの言葉が覆る事態が起こることは誰も予期してはいなかった。全てを無に帰していた彼の言葉をその場の全員が信じきっていた。
数十分後、カムイが率いる第1隊が到着する。カムイは全体を一通り見ると、一人ひとりのライフォンに作戦の全体図を映して話し始めた。
「全隊揃っているな。では、今回の目的を伝える。
今回の遠征は基地の西に位置する森へ向かう。そして、現状の調査を行う。ここは今までの遠征で行くことが少なかった場所だ。開拓はあまりされておらず、必然的に危険も多くなる。十二分に気を付けて、自身の無事を最優先にすること。
もし危険が迫るようなら、ライフォンで周囲の人物に危険を知らせ、被害を最小限に抑える努力をしろ。
では、各隊の作戦だ。まずはクリス率いる第5隊とシオン率いる第8隊。先陣を頼む。シオンはクリスの援護をしてくれ。
次にレオ率いる第3隊。最前線を担うクリスとシオンを少し後方で護衛をしてくれ。
その少し後ろに俺達が統率班として機能する。そのサイドを隠密機動の第4隊と捕獲班の第11隊が敵を通さないように見張りを頼む。
そして、脳を担う第2隊と全てのメンバーを補う第6隊が俺達の後方支援をする。
索敵部隊の第9隊は敵を見つけ次第、前にいる第2隊に報告。その横に第12隊が回ってくれ。
最後に救護班の第14隊と前衛の攻撃から免れた敵を迎え撃つ第7隊が後衛に回ってくれ。
そして、第10隊は戦線から離れた伝達役を任せる。
以上が今回の作戦だ。今回はできるだけ敵を避けていくことにする。地形があまり把握できていない。そのため、多くのアルマを敵に回すのは危険だ。くれぐれも、森林伐採などと安直な考えに至らないように。
最後に一言。全員、生きて帰るぞ。これが俺の命令だ」
最後のカムイの一言に、スカイシーカーの一同が雄叫びを轟かせた。
地下世界の基本情報3
・年齢
数え年換算になっている。ただ、正月に年が増えるのではなく、誕生日に一つ歳を取る。また、政府直轄の教育機関は一切なく、実年齢と比べて精神年齢やIQも低い。
・身体
地下世界には十分な食料がないため、平均身長や平均体重はかなり低い。満足に食事をしている人口は三割程度。飢餓に苦しむ人口は四割を超えている。




