少女の行方
スカーレット・アレクセイと名乗った少女が再び眠りについた後、この少女を知る者のみで会議が始まった。
「皆、無事で安心したよ。スカーレットは寝ているよ」
第6隊の全員は傷一つなく地下世界に戻ってくることができた。
「この子も無事で良かったよ! 色々話すことがありそうだけどね……」
スズの言う通り、話すべき問題は複数ある。しかし、優先順位は存在する。
「とりあえず、彼女をどうするかだよね」
ユウの言う通り、最優先は少女の安全を確保すること。
「スカーレットちゃんは地下世界に住んでいる子なの? もしかしたら、地下世界の他に住人がいるのかも」
「ミオの言う通り、多分この子はこの世界の人間じゃない。俺の言葉が通じなかったんだ。意味もわからない言葉を話してたよ。身振りで名前だけはわかったんだけど……」
「でも、グランドクロスの遠征で人間は見つからなかったんだよね。異世界から人間が来たって言っても、言い逃れとしか判断されないよね」
外界に足を踏み入れるのは大罪。死刑に処される例も少なからず存在する。裁判権を持つのはグランドクロス。少女であろうと容赦ない判決が下るだろう。
「エルさんに完治するまで面倒を見てもらえるのが俺達としても安心できるのですが」
「そうですよ、ユウさんの言う通り、エルさんがこの子を隠してくれるのが一番です!」
エルは腹部を隠すように腕を組み、青ざめた顔でユウとスズの話を聞いていた。
「私は……ダメなの。私は傷を癒すことはできるけれど、守ることはできない。私には守れなかった幼い命があるの。私にはそれ以来、守る勇気なんてない」
ユウは何かを知っているのか、エルの表情を見て悟ったのか見当もつかないが、エルに少女を預ける判断は却下した。
「カムイさんにこの話を預けるのが最も手っ取り早いんだが、そうはいかないよな。この出来事が赤の他人に知られると、この少女は無断で外に出た犯罪者になる。そうならないためにも、誰かが匿わないと」
その場にいる全員が黙り込む。ギャラントリー家に預けるという判断もあるが、スカイシーカーに所属するミシアもいる。エルナだけならまだしも、情報が漏れる可能性が高くなる。エルナもそう考えて、黙っている。ユウとミオはスカーレットとは話していないため、打ち解けられるかが問題になる。エルナとレンとエルは起きた時に居合わせていたため、恩人だと思っているだろうが他のメンバーはそうではない。言葉も伝わらないため、スカーレットがどう認識するかはわからない。その懸念が残っているのだろう。スズはスカイシーカーに入ったばかりで金銭面も不安が残る。
「……俺が彼女の面倒を見ます」
この場で一番適任なのは、レンだと自覚した。そして、重い腰を持ち上げ、声を発した。
「レン?」
エルナはずっと黙っていたが、レンが名乗りをあげると同時に反応した。
「俺は隊長になったし、彼女をいざという時に守れる人器もある。だから俺が彼女を受け入れるよ」
「却下だ。この子の存在が他に知られると、お前は共犯者として地位を奪われるぞ。それだけじゃない。お前を隊長に推薦した人々も罪に問われる。その覚悟はあるのか」
レンも発言する前から、ユウがレンに頼まなかった理由に気付いていた。隊長という権限を得たために浮かび上がるデメリット。それはスカイシーカーに強い悪影響を及ぼしかねないこと。
「この少女を養おうと決めたのは俺だ。スカイシーカーの判断じゃない。だから、カムイやシオンは共犯者じゃないし、ここにいる皆も犯人じゃない。
それに、俺はこの少女と同じ境遇にあった。だから、見過ごせはしない。皆に迷惑は掛けないから、俺に世話をさせてくれないかな」
ユウはレンの覚悟を聞いて、緊迫した表情を綻ばせた。
「その覚悟があるなら、安心したよ。
なぁーに、お前一人に責任を取らせるつもりはないさ。スカーレットちゃんがこの世界の人間じゃないってバレたら、俺が犠牲になるから安心しな」
「いーつも、ユウばっかり格好つけるんだから。私だって第6隊なんだから、責任の一端はあるわよ」
「そうですよ。レンだけ責任を持つなんて許せないよ。私も助けた一人なんだから!」
第6隊の協調性を見たエルは朗らかな表情を浮かべていた。
「流石、アルが作った第6隊ね。
大丈夫。そんな時は私も貴方達が疑われないように工作するから」
レンは一人で現実と戦う覚悟をしていたため、心の底から安心していた。
レンはすやすや眠っているスカーレットを背負って、狭い自室に向かっていた。スカーレットは軽いはずであるのに、体が少し重く感じた。それは人器の力で筋力が増加していたものが、元に戻ったからであろうか。
何がともあれ、第6隊の隊長室なら二人ぐらいは生活できるスペースはあるので、そこに引っ越そうかと考えていた時だった。目の前からフードで顔の半分を覆った男が目の前に立ち塞がっていた。
「へえ、そんな年で子連れねえ。最近の若者はそんなに年増なのか」
レンの命を救った恩人でもあり、見知ったばかりのレンに横暴な態度を取ったカルディアだった。
「俺の子どもじゃない。彼女は……親戚の子どもだ」
レンは咄嗟に嘘をつく。こいつにはスカーレットの存在を知られてはいけないと思ったから。
「なるほど、それなら別の家族の子守り、ご苦労さん。
とでも、言うと思ったか。
ギャラントリーの親戚に子どもなんかいねえよ」
「なぜ、それを知って」
ギャラントリーは名字を持つ一家であるが、家族構成を知るほど物好きは少ないだろう。それも人間に全く興味を示さないカルナが知っているのはおかしい。
しかし、こいつはカルナの中でも異質な存在と聞いている。カルナはアルマの上位種である。普通の人間はウイルスに感染するとアルマになる。しかし、ウイルスに抗体を持った人間はウイルスを服従させることで、人間を超越した存在になる。その力を悪用しないために、カルナには掟が存在する。その掟を守りながらも単独で行動するカルディアは明らかに変だった。
「安心しな。誰にも公言しやしねえよ。その少女はこの世界の匂いはしねえからな。
お前は俺を敵だと思ってるかもしれねえが、敵でも味方でもない。利用できるものを利用するまでだ。
この少女はこの世界を変える鍵になるかもしれない。だから、生かすまでだ」
カルナはこの世界の秘密を隠蔽するために掟を作った。アルマの天敵であるカルナは地下世界を抜け出すことに加担しない。その理由はこの時誰も知る由がなかった。
「カルディア。お前は、何を目指しているんだ」
「知りたいか? 俺はこの世界に革命を起こしたいだけだ。この世界は全てが謎に満ちている。俺はその全てを知ってしまった。その秘密を誰かに暴かせたいだけだ」
レンはその瞬間、カルディアに共感するものがあると悟った。
「ああ、そういやぁ、お前。前会った時よりも良い目になったなぁ。どうでもいいが」
その口調は少しミシアに似ている気がした。しかし、ミシアとは似ても似つかぬ赤い瞳孔がこちらを向いていた。その真紅の瞳は何を考えているかわからなかった。
・地下世界の生活
三日に一度、太陽の光を浴びることを義務付けられている。これは地下世界で住むため、目が退化しかねないことから行われている儀式のようなものである。ただ、外の世界へ行くわけではなく、建物の中で太陽の光を浴びることになる。しかし、権利を与えられていないものはこの限りではない。
・宗教
人類を超越する存在であるカルナは身分の最高位に位置する。しかし、これは国を統治する王を除いた順位である。そして、このカルナへの信仰は一部の民からは厚く、カルト的な人気を博している。他の人々は無信仰である(地下世界には教育機関がなく、多くの人が字を読めないことも一つの原因である)。




