謎多き少女
レンは人器の能力が発動するか不安に思っていたが、杞憂に終わり、無事に医療室に着いた。目の前にいたエルは突然目の前に現れたレンに驚き叫ぶ。
「驚かせてごめんなさい。至急、この女の子を診てくれないかな」
エルはレンが抱える少女を認識するや否や能力を発動させ、レンが少女をベッドに下ろすと同時に治療を始めた。
「はー、びっくりした。
私はこの子を見たことがない。一体どこで?」
エルはその子の傷を治しながら、レンに事情を訊く。
「アルマ討伐の任務中に、この子が倒れていたんだ」
「……そう。外に居たのはおかしいわね。
レン、悪いけど水と食べ物を持ってきてくれない?」
「ああ、わかった」
何故、少女が外で一人倒れていたのか。
レンは自分の過去について思い出す。レンの捨てられていたという過去を。誰かが見つけて、裕福なエルナの家で養われた。両親に昔のことを聞いても、事細かには教えてもらえないが、自分の両親は既に亡くなっていることだけを知らされていた。レンは自分の推測では両親は自分を養うことができないから捨てたのだと思っていた。そのため、両親を憎むことなどしていなかった。
医療棟の食品管理室に向かう際、レンは少女と自分を重ね合わせることをやめられなかった。
食品管理室に着くと、そこにはエルナがいた。どうしてレンがというような顔で、レンを見ていた。
「エルナ、飲み物と食べ物をくれないか。俺用じゃなくて、怪我人用」
エルナは心配そうな顔色になる。レンはエルナが怪我をした人のことを見捨てられないことを思い出した。
「私も行った方が良い?」
「いや、エルナも仕事中だろ。邪魔しちゃ悪いよ。それに俺が行く。怪我人を見つけた俺の仕事だ」
「そう、なら任せるね」
エルナの笑顔を見て、レンは微笑む。しかし、レンは同時にエルナの右頬の傷がチラッと見えて、心が痛んだ。怪我人を見捨てられないのはレンもだった。
レンが治療室に着くとエルは少女を治療し終えていた。
「飲み物と食べ物を取ってきました。彼女、大丈夫でしたか?」
エルはにこりとしながら、こくりと頷いた。
「ありがとう。とりあえずはアルマになることはないし、重体ではないから安心して」
レンはほっとした。張りつめた緊張感が緩んだ。しかし、レンは少女の側に寄り添うことにした。エルナがアルマに襲われた時のことを思い出していた。
「レン、その子の調子はどう?」
唐突に後ろから話しかけられて、レンの心臓が上に跳ね上がったように感じた。レンは後ろを見ると、エルナが立っていた。
「エルナか、びっくりした。大丈夫だよ」
「ごめんごめん。あっ」
エルナと話していると、少女はゆっくりと覚醒した。
「おはよう、気分はどうかな」
レンはその子に話しかける。しかし、少女は首を傾げる。
「ドヨーサーリャン?」
レンは何を言っているかわからなかった。レンはエルナの方を見たが、わからない様子だった。聞き間違いではない。話す言語が違う。しかし、地下世界は言語は一つしかない。
「えーと、どうすればいいかな……んー、俺は、レン」
「あっ、そうか。私は、エルナ。エルナ・ギャラントリー」
レンは自分の胸を指すジェスチャーを入れながら、少女に話しかける。エルナもレンに続いて自己紹介をする。少女は意味を理解したようだった。そして、彼女は自身の名を二人に伝えた。彼女はハッとした表情をし、二人の意図を理解したようだ。そして、自分の胸元を指差しながら告げた。
「スカーレット・アレクセイ」
レンもエルナもアレクセイという名字を聞いたことがなかった。この世界の名前としては珍しすぎる名前だった。
レンはこの時地球上で、地下世界以外に生きている人間がいることに確信した。