絵本
二人は募る話もあったが、何から話し始めればいいのかわからず、妙な緊張感が張り詰めていた。結局一言も話さず、ギャラントリー家に着く。地下世界の中では豪邸と言っても過言ではなく、中の部屋は貴重な木で造られていた。
レンはスカイシーカーに入る前は毎日座っていた椅子に座っていても落ち着かなかった。
「エルナ、絵本、今も持ってるか?
久し振りに一緒に読まないか?」
「どうしたの、急に」
エルナは驚いた表情を見せつつも、少し嬉しそうな声色だった。
「俺、自分のことでいっぱいだったから、自分を見つめ直したい。ちょっとした原点回帰かな」
「わかった、急いで持ってくるね」
エルナは部屋の中から絵本を見つけてきて、レンに差し出す。絵本はクレヨンで塗ったような優しい筆跡で書かれていた。レンはエルナも読めるように机に置いてから開く。
王様はとてもえらい人でした。悪い化け物から国を守っていました。だから王様は人気者でした。
でも、家来からは不人気でした。なぜなら、王様は家来にひどいことをしていたのです。
そこに、あるきれいな女の人が現れます。その女性は王様とよくケンカしました。彼女は王様のえらそうな態度が気に入らなかったのです。
ある日、女の人は王様に話しました。
「わたしはね、あなたに空を見せたい。空を知ったら自分が小さな小さな人だってわかるから」
王様は空を見たことがありませんでした。
「おれだって、空を見てみたい」
「いっしょに見に行きましょう」
その夜、王様と女性は空を見に行きました。
王様は空を見ておどろきました。それは星空という、キラキラとかがやく空です。
「こんなにきれいなものがあるなんて」
「世界はもっと広いわ」
王様はそのとき女性を好きになりました。そして、自分がちっぽけなことに気づきました。
王様は女性に好きになってもらおうと、家来への態度をなおしました。
その姿を見た女性は王様を好きになりました。
王様と女性はキスをして、永遠に結ばれました。
「こんな話だったっけ。なんか、ちょっと恥ずかしいな」
レンは心にむず痒さを覚えていた。それはエルナも同じだった。
「なんかちょっと不思議な感じだね。
私はこの絵本の絵が好きだったな。特に、この星空。黒の中に赤色や青色、黄色でキラキラしてる星ってものがあって、とても綺麗。だから私は空を見たいのかなぁって」
「俺もこのページ好きだったな。いつかこんな景色を見れたらって思ってた。
いや、今もその思いは変わらない」
「約束、覚えてる?」
エルナの質問に対して、レンはゆっくり首肯する。
「いつかエルナと一緒に星空を見る、だろ。覚えてるよ。エルナだけじゃない、ミシアにもこの空を見せるよ」