救護部隊
「……うっ、ここは?」
レンが目覚めたのは見知らぬベッドの上だった。レンが住んでいる家よりもずっと綺麗で清潔だった。
「起きたのね。ここは医療室よ。あなたは派手に攻撃されてしまったのよ。私が行った時はほとんど死にかけだったんだから」
動物のぬいぐるみが沢山置いてある机の前に座っていたのは、第14隊隊長のエルだった。
「骨が折れていない……? あんな重い攻撃を受けたのに……」
レンはエルから医療室という単語を聞き、身体中を触りだした。数時間前、レオの人器の能力で、全身の骨が折れるまで殴られた。しかし、これといった異常はなく、違和感しかなかった。
「何本も折れてたわよ。でも、私の人器の能力で治したわ。私の能力は一ヶ月のうちに三回なら、どんな病気や怪我も完治させる能力。三回規定以外としては治癒能力を高めるという能力があるわね。カムイとレオのせいで、今月は残り一回よ。私の能力の無駄遣いなんてしてほしくないのに」
エルは躊躇など一切せず、自分の秘密を話す。
「自分の能力を打ち明けてもいいんですか?」
レンは自身の能力を打ち明けることに物珍しさを感じた。レオがしていたように、スカイシーカーの隊長は自身の能力を隠す。しかし、エルは隠す気がなかった。
「私の場合はね。私の能力は隠す必要がないから。むしろ、公言することで、危機が迫る仲間を助けることができるでしょう。
あとは、私自身隠すのが苦手というのもあるわね」
レンはエルの言葉に納得すると共に、アルの能力について少し気になった。なぜ隊の仲間に公表しなかったのか、それが疑問だった。
「あ、そうだ。あなた、無理しちゃダメよ。そこの新入りちゃんがあなたのことを心配してうるさかったんだから」
エルはベッドを見て、思い出したように話し掛ける。レンはその視線の先にいる人を見た。その姿は長年見知った者だった。
「え、エルナ? なんでここに」
美しく長い黒髪が右頬を隠すように波打っている。エルナはベッドの横の椅子に座り、レンが寝ていたベッドの上に体を預け寝静まっている。
「あなたは鈍感な男の子ね。この子はあなたを一人にさせまいとして、スカイシーカーに志願したの。それもあなたを助けられる医療部隊としてね。
余程あなたの力になりたかったのでしょう。その子の上達は早かった。だから規定の一ヶ月が経たないうちに、私からカムイに頭を下げて彼女をスカイシーカーに入れてもらったの。
彼女の瞳はあなたの瞳のように真っ直ぐだった。そんな目を見せられちゃ、私も揺らいじゃうわ」
エルは困惑した表情を浮かべながらも、少し嬉しそうに話していた。
「そうだったんですか。何も知らなかった。目の前のことに夢中だったばかりに」
レンは自分のこと以外に盲目だったことに気付いた。それが原因で、身内の人に心配を掛けてしまっていたことを申し訳なく思った。
「あなたとエルナ、どっちが似たのかしらね。この世界の人の目とは違うから。私が前の仕事で相手をしていた目とは反対の純粋な目」
「前の仕事って?」
そう聞くと、エルは目を曇らせた。
「この世界には知らなくてもいい世界があるのよ。光もあれば闇もある。光が強いほど、闇は見えなくなるの。でも、それはもっと暗く狭いところで勢力を伸ばす。今は分からなくても、いずれ分かる日が来るわ」
「そう、ですか」
レンには言葉の意味が全くわからなかった。
「ふああ。寝ちゃってた。あれ、レン、起きてたの?」
エルナは大きな欠伸をしてから、体をゆっくり起こした。起きたレンを見つけると、少し恥ずかしそうな表情を浮かべた。
「エルナも起きたみたいね。じゃあ、二人に飴をあげる。
また二人でおいで。あなた達は昔の私に似てるから。なんとしても守ってあげたいの」
「あ、でも、私、仕事が残ってます!」
エルはエルナの言葉を気にせず、右手で追い払うようなジェスチャーをした。
「さ、帰った帰った。残りは私がしておくから。
あなた達二人、募る話はあるでしょう?」
レンとエルナは顔を見合わせて、エルの言葉に甘えることにした。
エル(ナンバーなし)
年齢:28歳
身長:158cm
格闘能力:1
行動力:8
優しさ:8
協調性:8
頭脳:5
(10段階で評価)
スカイシーカーが誇る救護部隊(第14隊)の隊長。エリア4と5の間で生まれた。彼女がいることで、助かった命は数知れない。カムイとは長年の付き合い。カムイは彼女の秘密を唯一知っている人物で、エルもカムイの秘密を握っているため、一種の緊迫状態になっている。スカイシーカーの隊長には女性が数名いるが、男勝りな性格が多いため癒しを求める隊員も少なからずいるらしい。
他の隊長の過去は後に描かれる予定にしていますが、エルに関しては描写がガイドラインに引っかかりかねないので、ヒントを散りばめるだけで終わらせる予定です。この回にもヒントがあるので、是非考えてみてください。