夢を叫べ
「俺の夢は、アルマを元の生物に戻した上で、人間が外に出ることができる世界を作ることです。
そして、まだ経験したことのない外の世界を渡り歩きたい、そう思っています」
レンがその言葉を言い放つと、そこにいる人々は誰もが冷笑した。レンは隊長になるつもりは全くないが、自身の夢を笑われことに怒りを覚えた。冷ややかに笑った議長が持論を展開し始めた。
「君は一度今までこの世界で起こった惨劇を鑑みた方が良かろう。夢や希望など、この現実では無意味でしかない。夢を持てば未来を変えられるのか、希望さえあれば地上に群がる天敵を殲滅させられるのか。
否、何も変えられない。君のような未熟な少年にはこの場にいる隊長のような先見の明があると期待はしていないが、真っ白な理想に縋りつくようなら、隊長への就任は賛成できない」
「人類の生存区域として、地上を取り戻すという目標を持たない限りはそれは不可能です。夢や希望を持つということはその目標を持つということ。それは必ずしもいつかは必要になるのではないでしょうか」
「だが、それが君にはできるのか。その根拠はあるのか。人類がどのような手を尽くしたとしても、生物の範疇を超えたエラマスキアには勝てない。それは人類に立ち塞がる絶対的な障壁だ。それを容易く乗り越える術があると言うのかね?」
「根拠はありません。……ですが、鬱屈とした地下で人類はこのまま使命を終えるのですか。これじゃ何のために生まれてきたのか、俺にはわかりません」
「死ぬためだよ。この世界は弱肉強食の世界だ。弱い者が死に、強い者が生きる、それだけだ」
レンは理解した。このような考えには至ってはいけないと。死ぬために生まれてくる生命などいない。エルナの家族に助けられて、今ここにいる。生きるためにここにいる。レンは何かを成し遂げるために生きている。
「夢を持たないと這い上がれません。向上心が無ければ弱いままです。このまま弱者に成り下がっていても良いのですか? 俺はそうは思いません」
議長は更に声を荒げ、その声は広大な部屋に響き渡った。
「お前は何がしたいのだ。この老いぼれに夢を持てと言うのか。向上心を持てと言うのか。私は弱者と位置付けられようと、残存する人類を生へと導く義務がある。お前には、弱者であろうと人類を生へと導く力があるのか。ないのなら、口を閉じて黙っていろ!」
レンはその言葉に答えようがなかった。あまりにも価値観が違いすぎた。話は平行線上を辿っていくだけだと感じていた。レンは助け船を求めたかった。
いつの間にか腕を組んでいたハルは眉を寄せて、少し憤怒の色を滲ませた声を放つ。
「議長、流石に僕は今の発言を黙認できません。
まず、僕もですが、レンはまだまだ若い。卓越した統率力を求めることこそ、不合理ではないでしょうか。誰であっても未熟な時期はあります。彼はまだまだ未熟です。貴方にもありましたよね。これから成長していく芽を摘むのはこれからの人類の未来を捨てているのと同義です。貴方はグランドクロスで人類の未来を支えているなら、理解できますよね。それに私自身の年齢も十九歳です。私が許可されて、レンが許可されないのは不合理です。
そして、この場は誰もが平等に討論し合う場。公平な立場であるべき議長が権威を振りかざすとは何事でしょうか。平等に意見を交わす気がないのなら、こちらも平等に振る舞うつもりはありません。そうするのならば、私達の本業である戦闘、人器を以て採択を強行します」
レンはハルが肩を持ってくれるとは到底思っていなかった。きっと肩を持つつもりはないのだろうが、レンにはそう感じられた。ハルに続いて口を開いたのはカムイだった。
「私もハルに同じくして、貴方の意見は聞くに耐えません。貴方自身、幼い頃夢を抱いたはずです。それは純粋無垢で綺麗で清らかな宝石だったはずです。その夢は叶わずとも、その夢を持ったということは儚くとも今も微かに光り輝いているはずです。しかし、レンにはそれを抱くなと言うのですか? この世界の未来を担う若者に希望を抱くなと言うのですか?
それは間違っている。若者は夢や希望を抱き、未来へ前進するべきだ。その力が原動力となって、生きる力となります。現実は甘くなくとも、偉大なる夢を持つのは自由です。その自由すら略奪するのは暴君の圧政です。私はそれに対して一人の隊長として、大人として、人間として異議を唱えます。
レン、お前の夢は何だ?」
カムイの言葉はレンに全ての人々の視線を集めさせた。レンは深く呼吸をし、力強く言い放った。
「俺の夢は、アルマを元の生物に戻した上で、人間が外に出ることができる世界を作ることです。
その夢はこの場の誰に何と言われようと、何があろうと変わることはない! 俺の夢を変えられるなら、変えてみろよ!」
レンの夢に反応するかのようにカムイの懐が光り輝く。カムイは懐にあるものを取り出す。それはクリスタル【サーティーン】と思わしきものだった。
「クリスタルは隊長の象徴と言ってもいいものです。このクリスタルの輝きがレンを選んだということを語っています。この意味がわかりますね?
レンが隊長に就任することに異議がある者はいるか?」
これ以後、レンを隊長とする意見に異議を唱える者はいなかった。
「これを以て議決を終了する。解散」
議長は年齢に見合わない身のこなしで椅子を強く蹴って、その場を立ち去って行った。
スカイシーカーが公開している情報2
・第13隊の排除
約二十年前に大きな事件が存在し、当時の第1隊隊長と第13隊の隊員全員が犠牲になった。総隊長が亡くなったことを補うことが精一杯であったため、13隊は時が経つにつれ存在しないこととした。