足掻く
[この世は神の祝福で包まれている。何故なら、この世は神よって生まれ、神よって生かされているからだ〕ロクでもない人間とその死体で溢れたこのスラムで、そんなたわ言をぬかした牧師がいた。体は豚のように肥え、汗と皮脂でテカテカに光った顔は、酷く醜かった。まぁ、そんな見た目なんかよりも、奴の口から吐き出される言葉の方が、悪臭漂って聞いていられるものじゃない。
奴はそんな臭い息を撒き散らしながら続け様に言っていた。[この街が死と悪で満ちているのは、神への信仰心がないからだ。皆で神を讃えなさい。さすれば、この地にも神のご加護が満ちるであろう]その発言を最後に、奴も地面に転がる数多の死体の一部になっていた。
その後だ。その牧師が実はお偉い司教様であった為に、王国から騎士団が派遣され、スラムはその日の夜に王族騎士団に襲われて壊滅する事になる。
生まれ育った街だが、悲しみや悔しさもない。ただ、この先どうやって生きていこうか?
俺にとっては、それだけが問題だった。
スラム街、そのまた奥にある王都に背に向けて、暗闇の森を駆け抜ける。
おそらく、生き残る可能性は低い。
きっと、森の方まで、王族騎士が第二陣をひいて待ち構えてるに違いない。見つかれば間違いなく殺される。もしその包囲網を抜けられたとしても、魔物が棲んでいる森で子供の自分が生きていくのは難しい。人と魔物じゃ、殺し方も、生きるという事に関するスタイルも違い過ぎる。俺なんて、簡単に殺されてしまうだろう。
でも、俺はそこに行かなくてはいけない。
他者に対して命乞いも出来ない。神に対して祈る事も出来ない。なら、ほんの少しでも生き続けるために、俺は、目の前の生にすがるしかないのだから。