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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編集

白雪姫の話って知ってる?

作者: 巫 夏希

「白雪姫の話って知ってる?」


 彼女の言葉に、僕は、もちろん知っているよ、と答えた。

 ワイングラスを持ったまま椅子から立ち上がった僕は、ホテルの一室から見える摩天楼を眺めながら、やがてワイングラスを傾ける。

 彼女は小さく溜息を吐いて、話を続けた。


「じゃあ、白雪姫のストーリー。当然ながら知っているよね?」

「有名すぎる話だし、愚問だね。それがいったいどうかしたの?」


 質問を質問で返すのはどうかと思ったけれど、僕と彼女はそういったことは気にしない関係だ。

 彼女は僕の言葉を聞いたかどうか分からないけれど、話を続けた。


「この世で美しいのは白雪姫と知った王妃は、最後に毒林檎を食べさせたのよね。けれど、結局王子のキスで目を覚ました……というお話」


 それは僕も知っている話。

 ただのあらすじを語っただけに過ぎない。

 でも、どうして今急にそんな話を?

 僕はグラスに残ったワインを飲み干して、グラスを弄びながら彼女のほうを見る。


「それがどうしたんだい。ハッピーエンドこの上ないと思うけれど」


 彼女の話はたまに的を射ないことがある。

 何でそんなことを言うのかな、なんてことは思っていたけれど。


「そうかしら」


 彼女はテーブルに置かれたパソコンを見つめる。僕の仕事道具であり、相棒といってもいいだろう。今回は取材も兼ねて彼女と二人で旅行に洒落込んだ、というわけだ。


「……でも、それって一面だけ切り取ったハッピーエンドのように見えるのよね」

「え?」


 目がくらみ始めたのは、ちょうどそのタイミングだった。急激な眠気で立つことすらやっとだ。


 ――彼女は、いったい何をした?


 膝から崩れ落ちた僕は、彼女を見つめる。

 というか、笑っていた。

 普通なら呆然とするとか、助けを呼ぶとか、あるのかもしれない。

 でも、彼女は笑っていた。

 そして、彼女は僕を見下して、こう言った。


「……王妃のほうから見れば、ハッピーエンドになっちゃいない。ただのバッドエンドよ」


 ああ、そうだったのか。

 彼女は僕を羨んでいたのか。

 きっとワインに何かを仕込んで、僕を妬んでいたから殺してしまおう、と。

 そして死にゆく様を見ていよう、と。

 まったく、ほんとうに、くだらない考えだ――そんなことを考えていた僕の意識は、そこで途絶えた。

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