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第8話 OJT2 ~to the afternoon~

2017/04/06 改行修正しました。

 もらった緑茶を一気に飲み干す。


「ちょ、ちょっとぉ、一気飲みは危ないですよぉ。」

「それはビールの話ですよ、お茶では大丈夫ですって。」

「そ、そうですけどぉ・・・」


 沈黙が海風に乗って二人の間を流れていく。

 ちょうど今日は快晴のようだった。


「・・・」


 佐藤さんは沈黙自体はそんなに嫌いではないらしく、ボーッと海のほうを眺めている様だった。

 それにつられて、僕も昨日見たようなこの景色に浸ることにする。



 今日は人っ子一人いない訳ではない様だった。


「おーい!こっちだこっち」

「・・・おい!待てよ!」

「足の遅いお前が悪いんだよ、バーカバーカ!!」

「あー!バカって言ったほうがバカなんだよバカバカ!!」


 仲の良さそうな二人組が追いかけっこをしていた。

 ゆっくりと流れる時間の中で、無邪気に。

 

 また、ちょっと先のほうでは、カラスたちが何匹か止まっていた。

 僕のよく見ていたカラスとはどこか違うようだった。

 あの忙しなさ、煩さはあまりなく、また彼らはこちらに気づく様子もなく、のんびりと時間を過ごしているように思う。


 ふと、海のほうを見る。波が揺れている。

 その瀬戸際を追っていると、昨日の少女を思い出した。

 鳩と遊んでいた、あの不思議な少女、独りぼっちなのに、独りぼっちじゃなかった。

 孤独なのに、孤独じゃない、今の僕にはそう思える。

 

 もしかしたら、彼女もまたこのゆっくりとした時間の流れの中で・・・



 と、なんとも恥ずかしい様なことを考えていると、


「そろそろぉ、行きましょうかぁ。」


 佐藤さんの呼ぶ声がした、さあ、仕事再開だ。


「はい、行きましょう。」



・・・



 昼休み、12時前後くらいに郵便局にいったん戻る。

 ここで、いったん休憩を挟み、新たな荷物を受け取り、また街のほうへ配達していく。


 因みに、昼間までに配達する予定だったものは、あの後一件だったのですぐに終わった。

 なんであそこで休んだのかは謎である。


「あれぇ、案外何でもないんじゃぁ?」


 佐藤さんが何を言っているのかは分からない。

 今は職員室の端っこで弁当を食べている。


 一方僕は先ほどコンビニで梅味のおにぎりとハムたっぷりシャキシャキレタスサンドを買ってきた。

 味の方は・・・存外悪くない様だ。

 

「いい働きをしているぞ、レタスよ。

 ハムも存外旨いじゃないか・・・

 おっと、梅よ。君は主張が強すぎるから、後にお預けだ。」

 

 恥ずかしい28歳独身の妄言である。



 と、佐藤さんは弁当を食べ終えると、どこかへ行ってしまった。


「まあ、いいかぁ。ちょっと、僕も探索するかな。」


 と、いうわけでつかの間の探検である。ワクワク。



・・・



「おう、やって来ました。」

「あ、銀橋さん。こんにちわです。」

「ちょうど、朝に言っていた郵便物の仕分けが終わったところです。」

「へぇ・・・」


 そこには、たくさんの棚が取り付けられており、それぞれの棚には村名までの記載がそれぞれプリントアウトされて貼られてあった。


「ああ、これですか。これは仕分け作業の時に使うんですよ。」


 と、ひょいっと一通の手紙を取り出した。


「ほら、宛先見てください。」


 歌原町歌原道32-3 と、書かれてあった。


「そそ、それでちゃんと分けられているでしょ?」


 棚のほうには歌原町歌原道と確かに記されてある。


「ああ、確かに。」


 それにしても、驚くのはそこではない。

 その棚にはおおよそ一人では仕分けられないだろう量の手紙が仕分けられていた。

 どうやって仕分けているのか謎なのである。


「ああ、これは慣れですよ、慣れ。」

 

 ケロっと銀橋さんは手紙をもとの位置に戻しながら言う。

 その目線はこっちに向けたままだ。


「はあ、どのくらいやってらっしゃるんですか?」

「これ?これはまだ1年くらいよ。ここはあんまり多く郵送物が届くところじゃないから、これくらいやればなんとかなるんですよ。」

「なるほどぉ。」


「おっと、ところで、午前中、大丈夫でした?」

「え?」

「いやあ、普通だとこのあたりでへばっちゃう人もいるからね、思っていたより暑いでしょ。」

「ええ、まあ。」


 確かに驚くほど暑かった。つい口に出てしまうほどに。


「まあ、でもその様子だと、春乃はちゃんと先輩しているみたいね。」


 どこか安心そうな表情を浮かべて、呟く。


「いや、わかんないか、まだ。」


 今度は少し訝しげな表情を浮かべる。


「あ、それじゃあ、これで失礼します。」

「午後も頑張りなさいよー。」



 一日目から、優しい先輩のようだ。そういやバイトでこんな先輩いなかったな。

 こう、さわやかな感じの人とかいっぱいいたし、個性的な人たちも多かったように思う。

 でも、こういう風な送り出しをしてくれる人は・・・あ、そうだ母さんしかいなかった!

 そうか、母さんか、母さんと呼ばせてもらおう。

 

 というのはいささか慣れなれしいか、と思いながら、もうすぐ休憩時間が終わるので、職員室へと向かった。



・・・



「あ、はい。座敷で予約をぉ。はいぃ・・・ではぁ。」

「ただいま戻りました。」

「ひゃっ!」


 部屋に戻った途端、目に飛び込んだのは、リスがごとく身を縮こまらせる佐藤さんだった。


「だ、大丈夫ですか?」

「お、驚かせないでくださいよぉ。」


 どうやら驚かせてしまったらしい、なんか申し訳ないな。


「す、すいません。」

「い、いえぇ、そんなつもりはぁ。」


 と、キュッっと帽子を被り、


「で、ではぁ、気を取り直して、行きましょうぉ。おー!」


 朝同様、ポーズを決める佐藤さん、その表情は何処か恥ずかしそうである。


「お、おー!」


 ちょっと、元気のないようだが、僕の中では一応羞恥心があったので、それと相まって少しだけ気が引けているだけだ。

 別に引いているとかではない。



 そんな少しおかしいOJT、午後の宅配便の始まりである。


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