第2話 郵便局への道のりで2 ~the first shock~
2017/04/06 改行修正しました。
信号を超えた後、少しだけ国道を走ると、不意に佐藤さんがブレーキを踏み、右側へとハンドルを切った。
「あれ?ここで止まるんですか?」
曲がった先に郵便局があるわけでなかったので、佐藤さんに訊いてみると、
「ええ、ここは駐車場ありますのでぇ、ここから徒歩で郵便局に向かうんですよぉ?聞いてませんでしたかぁ?」
「あ、はい、地図で位置を見ただけなので・・・」
「あ、いえぇ、そんなに遠い距離ではないんですよぉ。そんなに気になさらずぅ。」
「あ、はぁ・・・そうですか。」
別に徒歩が嫌なわけではない。一度38万円で買った安物の車を壊したときに、工場の機械監察の仕事をあてがわれたことがあったが、母親に、
「自転車はかさないわよ!自分で歩きなさい!」
と、無茶ぶりされて10キロメートルにも及ぶアスファルトの道を歩かされたこともあった。
それに比べたら苦になるものなんてそうそうないだろう。
・・・まあ、その仕事は1か月でバックレてしまったが。
佐藤さんの言った通り、そんなに遠い距離ではなかったようで、目測では駐車場から一本に続く坂の道を5分ほど登った先にその郵便局はあるように思えた。
もっとも、その間の道路は舗装されておらず、革靴で来ていた僕は思っていたよりきつい道のりだったが。
そう思い、佐藤さんの靴を改めてみてみると、どうやらヒールではなく、運動靴を履いてきている様だった。
「あの、ここって運動靴とかできてもいいんでしょうか?」
恐る恐る尋ねると、
「あぁ、これですかぁ。」
自分の靴に視線を向け、すぐに、
「えぇ、ここにいる職員はぁ、皆運動靴になっていますよぉ、この坂道を革靴で上がってくるのはぁ、私の知る限りではいないですねぇ、冬海さんが初めてですよぉ?」
あれ?僕が初めてって、他の人は最初から履いてきていたのだろうか。
「皆さん、最初から運動靴で来てらっしゃるんでしょうか?」
「まぁ、そうなりますねぇ。私も新人みたいなものなのでぇ、もしかしたら皆さんは革靴で上がったことがあるかもしれないですけどぉ。」
「ああ、なるほど。そういうことですか。」
とりあえず、革靴で上ることが思ったよりもしんどかったので、上ることに専念することにした。
「ええっと、ここが郵便局になりますぅ。」
ここまで上がってくるのに5分くらいのはずだが、思ったよりも疲れてしまった。
恐るべし、新品の革靴。
「ええっとぉ、今から顔合わせの終礼の時間まで30分くらいありますがぁ、先に局長にだけ挨拶しておきますかぁ?」
「は、はい。」
そういってネクタイを絞めて背筋をもう一回伸ばす。
「あぁ、そんなに緊張しなくてもいいんですよぉ、あのバイクの人ですしぃ。」
バイクの人って・・・佐藤さん、上司なんじゃ・・・
「あ、いえ、こういうことはちゃんとしておきたいなと思っているので、こうさせてください。」
一応は僕も社会に生きる者の端くれなのだ。あまりこういった所でだれてしまうのは良くないと思っていることもあり、もう一度襟を正し、
「じゃぁ、行きますかぁ。」
「あ、はい。」
佐藤さんに連れられて、郵便局の自動ドアの前に立った。
「あ、いえぇ、そっちじゃないですよぉ。」
と、ふと、佐藤さんに袖を引っ張られる。
あまりに突然だったので少し体がよろめいてしまった。
「緊張しているんですねぇ、大丈夫ですよぉ。」
「あ、いえ、僕もそんなつもりじゃないんですけどねぇ。」
と、そこで、僕はさっきの行動に疑問を感じざるを得なかった。
「あの、さっき、そっちじゃないって言ってましたけど?」
すると、佐藤さんは指を上に上げて、
「上、見てくださぃ。」
僕に促してくる。
何があるんだ、大体ここじゃなかったらどこが郵便局なんだよ全く・・・
「え?ホ、ウ、ト、ウ、運送?」
そう、今僕が入ろうとしたビルは、あの「風景運送」で有名なホウトウ運送の支部らしかった、守れよ景観。
「あれ、じゃあ、郵便局はいったいどこに・・・?」
「ええっとですねぇ、その後ろと言いますかぁ、横と言いますかぁ。」
よく目を凝らして見てみると、ホウトウ運送の隣に二階平屋建ての建物がある。
僕はソレを指さして、
「まさか、アレ・・・だったりします?」
恐る恐る尋ねてみる。すると佐藤さんは何とも言えなさそうな顔で、
「えぇ、まあ、はいぃ。」
とだけ、言ってしまって黙ってしまった。・・・
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