第1話 郵便局への道のりで ~the first sight~
2017/04/05 一部修正をしました。
2017/04/06 改行修正をしました。
一応、お話はここから始まります。
プロローグは設定などが入っていますので、時間があるときに読んでいただけると嬉しいです。
あれから、佐藤さんとの会話が続くこともなく、僕はただただ車窓に映るあの海の様子を眺めていた。
「起きてください・・・あのぉ、おきてくださいぃ」
気弱そうな声が聞こえてくる。
「あのぉ、もうすぐ着きますけどぉ・・・」
佐藤さんの声に目が覚める。
どうやら僕はいつの間にか眠っていた様だった。
「あ、僕寝ていましたか?」
「はいぃ、もうぐっすりと寝ていましたよぉ。」
辺りを見渡すと、確かに周りの景色がいささかあの風景とは違っているようであった。
通り過ぎていく景色の中で、少しばかり人だかりが見える。どうやら運転中のようであった。
疎らにいるのはこの町の住民だろうか。買い物の帰りなのだろう、スーパーのレジ袋を重たそうに抱えて母親を追いかける子供の姿が見える。少し右には飲食店が立ち並び、もう少し先には服飾店や100円ショップ、本屋さんまであるようだ。
車も多く、ここはどうやら市街地である様だった。
「あれ?郵便局ってここら辺にあるんですか?」
郵便局に勤めようとするのに、場所を把握するのは当然の事である。
しかし、田辺さんに教えてもらった時は、こんなショッピングモールは説明されなかったのだが・・・。
「ええっとですねぇ、もうちょっと行った先にあるのですよぉ。確かにここからは離れますけどぉ・・・」
佐藤さんは少し不安げだ。なんでなのかはわからないが。もしかして・・・
「はあ、そうなんですか。それじゃ、少し寝ていますね・・・」
睡魔は強い。睡魔に負けてしまいそうな僕はそのまま眠りに落ちようとしたが、
「ちょ、ちょっとぉ、もうすぐ着くんですから寝ないでくださいよぉ!」
横の運転席から細い腕が伸びて僕の肩をゆらゆらと揺らす、ちょっと今運転中じゃ・・・
「ちょっと、今運転中なんですから前向いてください・・・!」
「え・・・あ!きゃぁぁぁぁ!!」
丁度その時信号が赤に変わり、佐藤さんは驚いてブレーキを強く踏んだ。
当然のことながら、急ブレーキを踏まれたとき、シートベルトをしていない助手席の人はどうなるかというと・・・
「ちょ、待って、うわあぁぁ!」
「あ、危なかった・・・」
勢いが余ってフロントガラスのところに突っ込みそうになった。
もう少し目が覚めるのが遅かったら死ぬところだった。
しかし、冷静に考えてみると、これって僕が寝ようとして、それで佐藤さんが起こそうとして事故になりかけたから、僕が原因なのだ。
ここは、きちんとフォローを入れておきたい。
「だ、だいじょうぶですかぁ?!」
焦っているのか、少し語頭が強いが、しかしやはり語尾の方は消え入りそうな声で心配してくる佐藤さん、
「ええ!おかげで目が覚めましたよ。」
なかなかにうまい切り返しが出来た。我ながらうまい切り返しだな、と自惚れていた。
「ええ、それならよかったですぅ。」
ほっと胸をなでおろす佐藤さんはその切り返しに気付いているのか、いないのかは定かではないけれど。
・・・
事故になりかけた交差点から、またしばらく市街地(今度はカーショップや、ネットカフェが立ち並んで居り、客層も家族連れから中年男性の人々へとどうやら変わっていっているらしい。車種なども確かに変わっていっている。)が続いたが、その後にあった、頂点が見えない、少し小高い丘のような、一つの山道を抜けると、そこには、
「おお、一気に景色が・・・」
そこには、今さっきの景色とはかなり違った印象を受ける、というよりかはもう田舎、さっきの海の景色に似た何もない風景が広がっていた。
実際には何もないわけではない。二車線の道路が通っているだけあって、疎らにだが、自動車の行き来もあるようだった。
「ええ、もうすぐ着きますからぁ。郵便局はぁ、後交差点を2つほど行った先にありますぅ。」
「へぇ、結構、市街地以外は田舎っぽいんですね、歌原町って。」
周りには確かに人はいるが、本当にポツン、ポツンといる程度だ。
「そうでしょうぅ。過疎化が激しいんですよぉ・・・」
そういった佐藤さんの表情は決して明るいものではなかった。
その表情に、僕は何かうまい切り返しを探し出そうとしたが、その表情が、佐藤さんの表情が、あまり冗談ですまされるような問題ではない、ということを僕に強く示すようで、僕はその後何も言うことが出来なかった。
2つ目の交差点で、時折、赤信号で止まっている時に、ふと隣を見ると、ガタンゴトン、と電車が市街地に向けて通り過ぎていくのが見えた。
ここには市街地の近くにだけ駅が一つだけあるのだ。
「歌原南公園駅」、相当前に作られた駅らしく、一時はその利用人口の減少から廃駅も考えられたらしい。
「あっ。」
そこで僕が見たのは、都市部では絶対に見なかった、無人電車の姿だった。
ブックマーク、評価等、よろしくお願いします。
感想などもいただけると、尚の事嬉しいです。