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第14話 住む家が、無いっ! ~the wonderful girl~

「はぁ……」

 

 トボトボと例の歌原湾を歩く、一人の青年。

 

「まさか、あれ以上の物件がないなんて言われちゃうなんてな……」


 冬海信、28歳。

 現在、田辺さんに紹介された物件がいまいち気に入らず……


 と、言うより田辺さんが用意していた物件が幽霊が出る4畳半の畳の1部屋のみの洋館だったり、

 この町に不釣り合いなほど、とんでもない高級マンションだったり……


「田辺さん、仕事は良いの選んでくれたけど、物件となるとダメダメなものしか選べないのか……」


 どうやら、田辺さんの不動産屋としての才能はダントツにない様である。

 

 そうして、信は田辺さんに見切りをつけ、二件目の紹介の後、


「あ、すいません。ちょっとトイレに行きたくなったので、コンビニに行ってきますね。

 そうそう、僕が5分くらい経っても来なかったら、もう帰ってもいいですからー」


「ええ、分かりました。5分ですね。

 まあ、待ってますから。早く来てくださいよ。」


 と、コンビニに行く振りをして、こうして逃げ出したわけである。



・・・



 歌原湾をしばらくの間海岸に沿って歩いていると、


「ぷるっぽー、ぷるっぽー。」

「デーデーポッポー、デーデーポッポー」

「……」

「ぷるっぽー、ぷるっぽー。」


 一組のカップルらしき鳩(キジバトっぽい容姿である)と、白いコートに身を包んだ可愛い少女が、どうやら無意味な鳴き声の連呼を行っていた。


 オスの方だろうか、首を上下に振って、メス鳩に近づいている。

 メス鳩に求愛を行っているようだ。

 ……幸運を祈るぞ、オス鳩よ。

 

「こらこら、そこの鳩は今求愛行為してるんだ。ちょっとは邪魔しないようにやってくれよ。」


 由希のコートの端をつまみながら小さく囁く。瞬間、


「ぷるっぽぉぉぉぉっ!!!」


 と、驚きの声と共に由希は暴れだし、鳩約一組は求愛行動を即時中断し、バサバサッ……。

 飛んで行ってしまった。



「もお、何するんですか。全く迷惑です。」

「何言ってんだ、君が暴れたせいだろうが。」

「いいえ!冬海さんが呼びかけなかったら、そのまま掛け合うことが出来たのに!」

「ああ、そうですか。すいませんでした。じゃあ、僕帰りますね。」


 立ち上がった途端、腕を取られ、そのままかなりの力で引っ張られる。


「うわあああ!」


 どうやら、僕よりも力持ちらしい。

 この元気な少女は、僕を倒しておきながら、


「ごめんごめん!私が悪かったです!」


 と、ウインクに合掌という、なんとも新しい修行僧のポーズでも決めながらそう言い放った。

 あ、これどっかのアニメでよく見るわ、そういえば。



・・・



 と、言うわけでまた由希の遊び相手をしてくれと頼まれてしまった。


「んで、なんで今日また鳩と遊んでいたのさ。」

「鳩と遊ぶのが趣味なのよ。

 ところで、なんで貴方はどうしてこんなところにいるの?水死でもするつもり?」

「どうしてそう突飛な理由が出てくるんだ……」


 水死って、ここ自殺の名所でもないだろうに……

 

「ちょっと、家探しで思わぬアクシデントにあってしまってな……」

「アクシデント?何々?住む予定家が燃えてしまったとか?」

「だからどうしてそう突飛なんだ……」


 とはいっても、今僕が置かれてある状況も、


 求職案内人が不動産を案内してくれると誘ってくれるのでついて行ってみると、どれもダメダメ物件だったから飛び出してきた


 うん、かなり突飛してるな。

 あんまり大っぴらに言わないようにしよう、田辺さんの名誉のためにも。

 

「ちょっと、紹介してくれた不動産が思っていたのと違うというか、気に入らなかったというか……

 そういうわけで、今家を探すのに疲れて海岸線を歩いていたら、君がいたってわけさ。」

「へぇー」


 由希はにやにやしている、何だ、僕をバカにしようってのか。


「ねえ、良いこと教えてあげようか。」

「え?良いこと?なんか可笑しなこと考えているんじゃないんだろうな。」


 さっきの件もある。結構突飛したこと言ってきたしな……

 ボロ屋作ってあげるとか言いそうだ。

 一応警告してみたが、そこはやはり、突然遊びに付き合えとかいう尋常じゃない精神を持つ狐島由希である。

 手を前に差し出し、そのまま僕の警告を無視して、満面の笑みで


「ジュース奢ってくれたら、教えてあげる。」


 そう、自信満々に言い放った。


 ジュースを奢るのもなんか癪だが、このまま帰るのも由希に何か言われそうな気がしたので、一応奢ってやることにした。


 近くにあった自動販売機にお金を投入。

 因みに、由希は付いてきている。彼女曰く


「あなたが選びそうなの、微妙に趣味に合わないものな気がするから、私が選ぶの!」


 だ、そうだ。全くわがままな奴である。


「うーん。」

「好きなの選んでいいからな、あ、お釣りは返せよ。」

「うーん。」


 全くの無視。どうやら聞こえていない様であった。



・・・



「んで、良いことってなんだよ。」


 自分用に買って、一口だけ飲んですぐ止めた、ブラックのボスを片手に、今飲み干して満足げな顔を浮かべる由希に訊くことにした。

 由希が選んだのは、「普通のオレンジジュース」と銘打った明らかに普通じゃないジュースだった。


「あ、そうだった。いいことっていうのはね……」

「溜めてないで早く言え。」

「うー、こういうのがコミュニケーションにおいて大事なんです!」


 ブー、と、由希は頬を膨らませ、あからさまに起こったふりをする。


「いいです。分かりました。とっとと言いますよ。」

「それで、何だ?」

「はい、ええっとですね、私の住んでるアパートに住みませんか?」


……は?


「アパートですよアパート、今、家、無いんでしょ?」

「あ、まあ。そうだが。」

「丁度今、私の隣の部屋が空いてるんです。大家さんに頼んであげてもいいですよ?」

「まじですか。」

「まじです。」

「そこは幽霊が出る畳一部屋だったりしないか?」

「しないです。」

「風呂なしとか、トイレなしだったりしないか?」

「しないですよ。」

「ジャグジーとか、明らかな高級マンションだったりしないか?」

「するわけないじゃないですか、アパートなのに……

 いったいどんな物件見てきたんですか、全く……」


「よし、その話乗った!乗らせてください!」


 最大級の謝辞をと、由希の手を握り、熱意の限りを尽くしそういった。

 ちゃんとした家なら、今の僕には何であったって受け入れられる自信があったからだ。

 

「熱い!熱いから!コート羽織っているから!」


 どうやらその熱意は由希の体感温度にも影響している様だった。




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