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第13話 土曜日で何が悪い ~the dangerous man~

 さて、今日が何曜日であるか、皆は分かるであろうか。

 そう!土曜日である。

 あの、教育課程の内、あるいは完全週休2日制の奴らなら、泣いて喜ぶ土曜日だ。


 そんな雰囲気に飲まれてか、ここ歌原南公園前駅の人口密度も、僕が知る限りではぶっちぎりの一番を記録していた。

 とは言っても、都会のそれに比べたら屁にも及ばないが。


 今は朝8時、平日ならとっくにスーツに着替えて、運動靴に履き替え、完全に郵便配達員としてのスイッチを入れているところだ。

 しかし!僕は"完全週休2日制"を手に入れているのだ。

 僕も、この余暇の日を存分に楽しむことが出来る。

 今日は・・・そうだ、あのショッピングセンターに行こう!

 あそこのネットカフェなんてどうだろうか、最近読んでなかったジャ〇プ系の漫画を読んでみよう。

 一日中GDGDライフだぜ・・・


「あー、もしもしー?冬海さーん?」

「あ、はい。なんでしょうか?」


 おっとしまった、あんまりに今日が楽しみすぎて、今電話中だったのを忘れてしまっていた。

 って、電話?あれ、可笑しいな。

 僕の電話番号知っているのって、お母さん、お父さん、斎藤くん、田辺さん・・・

 なんで今電話してるんだ?


「いや、ですから。住居ですよ、じ・ゅ・う・き・ょ!」

「ああーそうでしたねー。」

「急に棒読みになりましたか?!」


 そうだった・・・この郵便局に勤めて最初の土曜日は、地方が初めての僕が、元々この町で住んでいた田辺さんから紹介された物件を見て回るって、そういう約束を取り付けたんだった。


「いや、それでですけどね、冬海さん。」

「は、はい?なんか言いましたぁ?」

「急に態度が悪くなりましたね・・・まあいいです。

 それでですよ、冬海さん、結構その物件がですね、結構距離があるんで、車ででいいですかね?」

「あ、別にいいですよ。あ、でも僕レンタカーを局の方に置いて来たんで・・・」


 カチカチとキーボードの音が響く。おそらく今も仕事しているんだろう。ご苦労様です。


「分かりました。車はこちらで手配するんで。

 えっと、それじゃ、集合時間と場所ですけど・・・」

 

 と、一瞬声が止まる。その瞬間、部屋のノブが動いたような気がした。


「もう来ているので、大丈夫ですよね!」

「って、来てるんだったら、そこから説明しろ!」


 どうやら、さっきの音はエレベーターのボタンを押す音のようだった。

 俺の尊敬返しやがれ。コノヤロウ。



・・・



 その後、田辺さん運転による、不動産ツアーが開始された。


「もうちょっとで着きます・・・はい、ココが一件目の物件ですね。」


 大型タブレットを持って、わちゃわちゃ指を動かしながら、さながら体が白い魂のように見えなくもない田辺さんが一件目の物件を紹介してくれた。

 そこは、外装だけで言うなら、昔ながらの洋館、と言った所だろうか。


「ここはですね・・・ふむふむ。

 駅から徒歩で35分、車だとなんと10分みたいですね。

 歌原町の物件にしては珍しい山に立つ洋館だそうで、何と幽霊の噂も立ったこともあるみたいですね。」


 何それ気味悪い。というか、海の町で宣伝してるはずなのに山に立ってるのってアピールポイントなのか?


 なんて馬鹿なことを考えていると、白い田辺さんは、大家さんに許可をもらったらしい。

 現在空いている最上階、二階の端っこの部屋を見せてもらうこととなった。

 

「おお・・・それなりに和風ですね。」


 内装は、外装とは打って変わって純粋な畳部屋だった。

 書院造も意識したそうで、謎の本棚のようなものも確かに作られてあった。


「あれ?ほかにお部屋は無いんですか?」


 僕が相談すると、明らかに嫌そうな顔をした田辺さんがそこに立っていた。


「え、ええっと。ここはLルームで・・・」

「え?今なんと?」

「ここはこの部屋一つしかありません。はい。」

 

 途端に僕が不安になる。え、ココしかないの?


「え、それじゃあ、トイレとか、お風呂とかは?」

「無いそうです☆」

「水道は?」

「通ってないそうです☆」

「ガスも?」

「通ってないそうです☆」


 ピッカピカな笑顔を浮かべる田辺さん。その白さと相まって見えなくなりそうだ。


「ええっと、じゃあ、この部屋は・・・」

「勿論却下で☆」


 ピッカピカな笑顔で答えてやった。風呂とトイレがない、幽霊が出る畳一部屋の洋館なんて流石にお断りだ。



・・・



「ふざけてるんですか、全く。」


 あの一件目を見せられて、僕は少しばかり憤怒していた。あれはないだろう。


「いやぁ、流石にあれは無いと思ったんですがね・・・」

「それだったらちゃんと次はやってくださいよ。

 絶対にトイレとお風呂は個人でなきゃ駄目です。」

「え、ええ。勿論ですよね。」


「あと、幽霊とかもでちゃだめです。」

「ごもっともです。」


 そうはにかみながら、必死にタブレットを操作している。

 ああ、今検索条件変えてるんだなぁ。

 今必死に絞っているんだなぁ・・・


「え・・・なんですかそのジト目。」

「あ、いえ。何でもないです。」

「次は大丈夫ですから!ちゃんとしたところですし!」



 と、言うわけで、次の物件である。


「おお・・・」


 今見ているのは、タワーマンションの5階部分の部屋である。

 今、外装と内装、両方とも見てきたが、とても綺麗に整備された、まさに新品同然のような部屋であった。

 水道、ガス、お風呂、トイレ、全部ちゃんとついてあった。

 と、言うよりとても豪華であった。


 まず部屋、ここは3LDKで、一番広い部屋に関しては20畳もの広さがあった。

 そして、お風呂。なんとジャグジーが付いている。さぞかし気持ちいいんだろうな。

 更にサウナまでついてくる始末だ。



・・・「って、何考えてんだ!田辺さん!」


 明らかな高級マンションを紹介された僕はさすがに怒ってしまったのだった。










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