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第12話 「素直に受け取りなさい」 ~the honestly man~

タイトルを変更しました。

 車で少し行ったところにあった、その見晴らし台。

 それほど高くない丘の頂上に建てられている様だった。


「さあ、どっちにします?」


 と、差し出されたのは、ボスのブラックコーヒーと微糖。

 僕は迷わず、


「微糖の方で、お願いできますか。」

「こっちですか、・・・はい、どうぞ。」


 多少驚いた顔の銀橋さんが居た。

 

「チッチッチ、銀橋さん、成人男性の中にだってブラックが駄目な人もいるんですよ」

「は、はぁ。それはそうでしょうね、冬海さんがまんまその例ですし。」


 かっこつけた方が負けのようであった。



 と、見晴らし台の端の方にベンチを見つけたらしい銀橋さんが、座るよう促してきた。

 促されるまま座った僕は、銀橋さんにおごってもらったそのコーヒーをチビチビと飲んでいた。


 その間も、銀橋さんは黙ったまま、ボスのブラックコーヒーを飲んでいた。

 あまりにずっと黙っていて、埒が明かないので、僕が話を切り出すことにした。


「・・・ええっと、お話があるんじゃないんですか?」

「・・・ええ、まあ。」


 何か含みのある言い方をしたまま、黙っている。


「さっきはあんなに話していたじゃないですか。何かあるんですか?」

「ああ、まぁ。あるんですが・・・」


「冬海さん、落ち着いて聞いてください。いいですね。」

「は、はぁ。わ、分かりました。」


 銀橋さんはただならぬ気配を漂わせていたので、僕は少し緊張してしまい、居住まいを正した。


「冬海さん、今日の春乃を見て、どう思いました?」

「いや、え、その。」

「ちゃんと答えて。」

 

 銀橋さんがじっとこちらを見てくる。どうやらごまかすとかそういうわけにもいかないらしい。


「郵便配達をしている春乃は頑張っていた?」


 僕が答えられずにいると、銀橋さんがもう一度尋ねてきた。


「いいえ・・・楽しそうでした・・・」


 郵便配達をしているときの佐藤さんは、"頑張っている"という感じでは確かになかった。

 今日の業務時間の間、いろんなところで時折見る、佐藤さんの横顔は、どことなく楽しそうだった。

 それに、あの少女の時も、その家族の事まで考えて運んでいた。

 その時の佐藤さんの顔からは無理をしている様子なんて無かった。


「そう・・・じゃあ、どこで冬海さんは春乃が無理しているって感じたのですか。」

「それは・・・僕のためにあれこれ動いていたことです。

 まだ、新人研修を行ったことすらもないのに、僕にいっぱいの事を教えようとして・・・

 僕のために、飲み会まで開いてくれて。」

 

 そうだ、いつ辞めてしまうか分からない僕なんかのために、飲み会を開くなんて、相当気を使わせたに違いない。

 それこそ、新人研修を担当するのだって、もしかしたら・・・

 好意なんて僕は言ったけれど、本当はただの"無理"だったのかもしれない。


「それは本当に春乃が"無理して"やったのかですか?」


 飲み干した、ボスのブラックの空き缶を回しながら、銀橋さんはもう一度僕に問いかけた。


「本当は"無理して"なんてやっていないんじゃないですか?」

「そんな・・・」


 口先でつい反論してしまうが、思考はもっと冷静になっていた。


「私は、あくまで私の考えですけど。

 あの子、多分嬉しくって、舞い上がっちゃたと思うんです。

 昨日、初めての後輩が出来て、直属の部下みたいなのが出来て・・・」


「私にも、さっき言ったようなことを言ってきたり・・・

 それこそ、冬海さんが来るって知ったときは、ジョージさんに、どうやったらいい先輩らしくなれるか、なんて訊きに行っていたりもしましたし。」


 そうして、僕の手ブラックボスの空き缶を乗せる。

 僕の微糖ももうなくなっていた。


「冬海さんは、春乃の好意を深く勘ぐりすぎなんですよ。

 もっと受け入れても、良いんじゃないんですか?」


 顔を見上げると、優しそうな笑顔で、僕に手を差し伸べてくる銀橋さんの姿があった。



・・・



 その後、僕は銀橋さんにビジネスホテルまで送ってもらった。


 帰りに一応、佐藤さんに謝っていたと伝えてほしい、と銀橋さんに伝えておいた。



 そうして今は、例のビジネスホテルの506号室。

 そこに佇んでいるのは、一人の表情を失った、少し気弱そうな青年、冬海信。

 今日もまた、隣の部屋には誰もいないことはさっき確認済みである。

 サッ、っと、カバンを投げ捨て、ベットに潜り込み・・・


「はああああぁぁぁ・・・疲れたぁ・・・」


 昨日の叫びは何処へやら、力のない声でそう言ったのだった。



・・・



 土日を挟んだ月曜日、OJT二日目。

 土日の間に引っ越しなどの手続きも済ませ、あとは我が家に荷物が届くのを待つだけとなった。


 そんな日の朝、8時30分。

 3日目ともなると、流石に慣れてきて、いつものようになんてことが言えるようになった。

 

 と、いうわけでいつもの様に職員室に入る。

 まだ、人は少ない様で、端っこの方に一人。


「佐藤先輩、おはようございます。」


 前の事もあったので一応、爽やかな挨拶というものをしてみる。

 

 すると、佐藤さん突然顔を赤らめて、黙って逃げて行ってしまった。


「え・・・ちょっと待ってください!!」


・・・


 後に、銀橋さんが佐藤先輩に、何やら僕が佐藤先輩に気があるらしいなどと言う嘘を吹き込んだということが発覚する。

 銀橋さんに直接説明させて、佐藤先輩の誤解を解くためには、1日を要した。


 因みに、この佐藤先輩という呼び名は、佐藤先輩が気に入ったらしいので、そのまま使うことになった。


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