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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
3章 ダクリア2区編
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第87話 朝からトラブル全開!?


 食堂では新たなトラブルが生じていた。五人で朝食をとっていたユアたちの隣に、許可を取らず、三人の男たちが座っていた。


 男たちは茶髪や黒髪の二十代前半のようで指輪やネックレスをつけ、見た目からしてチャラい。そんな男たちは、自分たちのことを拒絶しようとするユアたちに無理やり近づいていた。


 ユアたちはユア、セイヤの分の席、リリィ、正面にモーナ、セレナ、アイシィと言う順に座っていたのだが、三人のチャラい男たちはユアの隣、つまりセイヤの分の席に座りながら、ユアたちに話しかけていた。


 「なあ、名前だけでも教えてくれよ」

 「……」

 「俺たちこの部屋の七階に泊まっているんだぜ?」

 「……」

 「よかったら、これから一緒にどこか出かけない?」

 

 セイヤの分の席に座る茶髪の男が、ユアに声をかけるが、ユアは男を完全無視していた。


 本当ならセイヤの席に無断で座った男のことを蹴散らしたかったのだが、無暗に光属性の魔法を使うわけにもいかず、トラブルにするのも面倒だったので完全無視をすることに決めたのだ。


 茶髪の男はユアに相手にされないと踏むや、今度は反対側に座るリリィにちょっかいを出し始める。


 「ねえ、君、可愛いね。名前なんて言うの?」

 「えっと……」


 リリィは嫌そうな顔で男を見る。その姿から、男のことを心の底から拒絶していることは男自身もわかっていたが、ユアと違い、反応してくれたリリィから攻略を始めようとした。


 「俺のこと知らない? 俺はグリスフォンって言うんだ」


 その言葉に、ユアたちではなく周囲にいたほかの客が驚く。


 「おい、グリスフォンって?」

 「ああ、だろうな」

 「まさかあのAランク冒険者の?」

 「じゃああのほかの二人はBランク冒険者か」

 「あれが最近話題の超新星冒険者ファミリー」

 「グリスフォンファミリーか……」


 周囲の客の反応に、にやりと笑みを浮かべる茶髪の男グリスフォン。男たちは、自分たちの噂がここまで広がっていたかと気分を良くしていた。


 周囲の客たちは、茶髪の男がグリスフォンファミリーだとわかった時点で、何もできなくなってしまう。それほど彼らのレベルは高かった。


 グリスフォンは自分の強さをもっと誇示しようと、リリィに手を伸ばし、肩を組もうとする。この時、グリスフォンの中ではリリィは自分のものになっていた。


 それは今までの女たちが自分の名前を聞いた瞬間、すぐに自分のものになったという経験からだ。


 「あんたいい加減にしなさいよ!」


 ドン! ドン!


 今にもリリィに触れそうなグリスフォンに対し、正面に座っていたセレナが腰から魔装銃を抜き、魔力弾を二発グリスフォンに対して撃った。


 あまりにも場違いな行動に、周囲の客は驚くが、当のグリスフォンは手を広げ呟いた。


 「『闇波』」


 次の瞬間、セレナの撃った二発の魔力弾は跡形もなく消滅した。グリスフォンはセレナのことを舐めまわすような目で見ながら言う。


 「安心しろ。この子が終わったら、お前の相手もしてやる。そう急ぐな」


 どうやらグリスフォンの中では、すでにセレナたちも自分の女になっていたらしい。セレナは自分の魔力弾を消されたことに驚きながらも、再び魔装銃の引き金を引き、魔力弾を撃つ。


 ドン! ドン! ドン! ドン!


 今度は先ほどの二倍、四発の魔力弾を撃ったが、グリスフォンは再び手を広げて呟く。


 「『闇波』」


 グリスフォンがそう呟いた直後、セレナの撃った魔力弾は跡形もなく消え去って、何も残っていなかった。グリスフォンはセレナの無意味な行動に、少しだが、苛立ちを覚える。


 「無駄だ。お前に俺を倒すことはできない。静かに自分の番が来るのを待っていろ。そうしたら十分可愛がってやるから」


 グリスフォンはそう言うと、リリィの頬に触れようとする。セレナはリリィを守るために再び魔装銃でグリスフォンを攻撃しようとするが、リリィの言葉がそれを止める。


 「大丈夫」


 セレナは一瞬、リリィが何を言っているのか理解できなかったが、リリィの顔からは確かな自信がみなぎっていた。


 その言葉に何かあると確信したセレナは、魔装銃をしまう。そんな二人の行動を見たグリスフォンは、ついに二人が覚悟を決めたかと思い、リリィの頬へと自分の手を持っていく。


 しかし次の瞬間、


 ズドン‼


 そんな音がしたかのような圧力が、グリスフォンたち三人に降り注ぎ、椅子から転げ落とす。


 その際、グリスフォン以外の二人のBランク冒険者は、あまりの圧力に意識を失ってしまった。グリスフォンは何とか意識を保っているが、立ち上がることはできず、無様な姿をさらしている。


 「俺の連れに、何か用か?」


 そんな言葉が食堂内に響く。周囲の客は何が起きたかわからず、ただ黙って目の前の状況を見ている。


 食堂内に入って来たのはセイヤだ。食堂に入るや否や、グリスフォンがリリィに触れようとしていたので、セイヤは問答無用で殺気を全開にしたのだった。


 「セイヤ……」

 「セイヤ!」


 セイヤの登場で、声を喜ばせるユアとリリィ。


 実は二人とも、セイヤが来ることがわかっていた。ユアは非科学的なセイヤセンサーで、リリィは完全契約の副産物であるお互いの居場所が分かるという能力でだ。


 だからリリィはセレナに大丈夫だと言い、ユアも手を出さなかった。


 「俺の連れに手を出すとは、いい度胸だな。雑魚が」


 グリスフォンを睨みつけるセイヤの瞳には確かな怒りが宿っていた。


 その瞳は見る者を蔑む目でもあり、侮蔑するものでもあった。そんな目を向けられたグリスフォンは、自分のプライドを保つためにセイヤには向かおうとする。


 だがこれが彼の人生の中で最大の失敗だった。


 「『闇波』」


 闇波で自分のことを押し付ける正体不明の圧力を消滅させて、立ち上がるグリスフォン。セイヤはグリスフォンのことを一瞬だけ見るが、すぐに自分に抱き着いてきたユアとリリィの頭を撫で始めた。

 

 「貴様、俺を誰だと思っている? Aランク冒険者のグリスフォン=エグノザードだぞ。殺されたくなかったら、すぐに俺の女を置いて立ち去れ。出ないと俺が消滅させるぞ?」


 自分が『闇波』を使える限り、セイヤは自分の相手ではないと思っているグリスフォン。


 セイヤはそんなグリスフォンに対し、完全に興味を失っていた。もしユアたちに手を出していたのなら、問答無用で消していたが、ユアたちを見る限り、そんな様子はないので、相手にする気がないのだ。


 だが、関わってくるなら話は別だ。


 ダクリアはレイリアと違い、セイヤたちの価値観は通じない。もし選択のミスで取り返しのつかないことになったら困るので、セイヤは常に歯向かう者には厳しく接すると決めていた。


 「魔晶石を使った『闇波』で、ずいぶんと大きく出たものだな。本当の『闇波』はこう使うんだ」


 ズドン!


 セイヤは最大濃度の殺気をグリスフォンに放ちつつ、無詠唱の『闇波』で、グリスフォンのつけていた指輪などを消滅していく。


 実はグリスフォンのつけていた指輪は魔晶石であって、彼はその魔晶石に保存していた『闇波』を使い、あたかも無詠唱で『闇波』を使っていたかのように演じていたのだ。


 セイヤから殺気を浴びせられ、再び跪くグリスフォン。その顔からは汗がだらだらと流れ出し、体はぶるぶると震えており、呼吸も苦しそうだ。


 身に着けていた魔晶石を消滅させられたため、無詠唱で『闇波』を発動できなくなったグリスフォン。彼はここに来て、初めて自分が手を出してはいけない者に手を出してしまったという事に気づく。


 すぐに駆け出して逃げたいと思ったグリスフォンだが、セイヤの殺気がそれを許さない。なので、無様は承知で『闇波』を詠唱から行使する。


 「えっ?」


 『闇波』を発動したグリスフォンだが、セイヤの殺気を消滅させることはできなかった。


 そもそも『闇波』では殺気などといった物体のないものを消滅させることはできない。一回目に消滅できたと思ったのは、グリスフォンが『闇波』を発動したと同時に、セイヤが殺気を解いたからだ。


 「無様だな。忠告しておこう。もし次にこいつらに手を出したら、問答無用でお前らのことを存在ごと消す。俺はお前のように魔晶石などは使わない。わかったか?」

 「あ、あ、わかった。わかった。もう手を出さない。本当だ」

 「ならそこに転がっている奴らを回収して、さっさと消えろ」


 セイヤはそこで殺気を解き、グリスフォンを解放する。解放されたグリスフォンは、仲間を引きずりながら無様に走り去っていった。


 残された周囲の客は、目を真ん丸にしながらセイヤのことを見つめる。


 「あいつ何者だ?」

 「さあ、知らない」

 「もしかしてSランク冒険者か?」


 などと言う会話もできるような雰囲気ではなく、ただ、ただ、セイヤのことを見つめるだけだった。


 そんな空気に嫌気の刺したセイヤは、ユアたちを連れ、宿から出て、街の店へと向かい、そこで朝食をとることにした。






 新たに来た店で、セイヤは朝食を食べながら、バジルとの会話の内容を伝える。


 「以上がバジルとの話し合いの結果だ。俺は十三使徒たちとの合流を待たずに救出に向かう。ここからは強制することはできない。作戦遂行には危険が伴う。

  もしかしたら死人が出るかもしれない。だから自分で考えてくれ。決して周りがそうするからそうするではなく、自分の意思で選んでくれ」


 セイヤはそう言い、ユアたち五人の目を見る。答えはすぐに返って来た。


 「私は行く……どこまでもセイヤに着いて行く……」

 「リリィも!」


 セイヤが行くなら絶対行くというユアとリリィ。その瞳からは、絶対離れないという意思を感じた。


 「私はお母さんを助けたい。すぐそこにいるのに、増援を待ってお母さんを失うなんて嫌だ」

 「私も行きますわ。それが私の意思です」

 「私も行きます。おばさんにはお世話になっていますから」


 生徒会メンバーも行くと決意する。


 「そうか、全員参加か。後悔はないな?」

 「うん……」

 「うん!」

 「ええ、ないわ」

 「はい、ありません」

 「はい、大丈夫です」


 全員の目には覚悟が感じられる。セイヤはその覚悟を確認して言った。


 「わかった。作戦決行は今夜だ。すぐに出発するぞ」


 こうして、モカ=フェニックス救出作戦は六名の少年少女によって決行されるのであった。

 いつも読んでいただきありがとうございます。ここにきて何をしていいかわからなくなってしまった高巻です。なぜか最終話と四章のあらすじしか考えられなくなって、全く話が書けなくなってしまい大変でした。

 話はここから終盤に入っていきます。いよいよ魔王の一人が登場です。お楽しみに!



 なお、作者は今夜から廃人になる予定です。正確には今夜が終わるころには難しい民となっているでしょう……。ああ、最終羽ってつらいな……

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