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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
3章 ダクリア2区編
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第85話 ユアの悩み

 静かに心地の良い風が吹く深夜三時、セイヤはふとベッドの上で目を覚ました。セイヤの隣には、セイヤの腕を抱き枕替わりにして、とても気持ちよさそうに寝ているリリィの姿がある。


 セイヤはそんなリリィの姿を見て、セイヤはやれやれといった顔をする。


 セイヤたちがとった宿の部屋には、セミダブルのベッドが四つあった。普通なら、三人でセミダブルのベッドを四つも使えるのだから、一人一つのベッドで寝ればいい。


 しかしセイヤたちは、なぜか三人で一つのベッドを使っていた。


 時は少し遡り、セイヤとセレナがモカの情報収集から帰って来た頃、すでに時刻は新たな日付になろうしていた。


 さすがにセイヤも朝から魔獣と対峙し、ギルドでは詐欺未遂にあい、宿をとってからの情報収集と様々な出来事に、疲労の色を隠せずそのままベッドインした。


 疲労のあまりタキシード姿のままベッドに入ってしまったセイヤを見て、ユアはセイヤのことを着替えさせ始めた。


 その手際はよく、数分もしないうちにセイヤの姿はタキシードから、ラフな就寝着へと変わる。自分の服装を変えてくれたユアに、セイヤはお礼を言って、そのまま意識を闇に落とそうとした。


 しかし問題はそこで起きた。


 十三使徒の部下だけが着ることのできる黒い制服を着ていたユアが、なんと自分の服を脱ぎ始め、ピンクの下着姿へとなったのだ。


 すでにセイヤは意識を失いかけていて、ユアの姿を見ていなかったセイヤだが、着衣の擦れる音で、ユアが着替えていることを理解する。


 セイヤの意識が限界に達し、いざ意識を闇に落とそうとした、その瞬間、セイヤの右腕に温かく柔らかいものが触れた。セイヤは微力ながら残った最後の力を振り絞って、目を開けて自分の右腕を見る。


 するとそこには、ピンクの下着姿のまま、セイヤの右腕を抱きしめて、幸せそうな顔をするユアがいた。セイヤは自分のベッドで寝ろと、注意をしようとしたが、言葉を発する直前、今度は左腕に暖かなものに挟まれる感覚を覚えた。


 その温もりは、右腕よりも温かい気がして、セイヤはものすごい勢いで襲ってくる睡魔に抗いながら自分の左腕を見る。


 するとそこには、一糸まとわぬ生まれたままの姿で、セイヤの左腕を抱きしめるリリィの姿があった。下着を着けていない分、リリィの胸の感触がじかに伝わってきて、その温もりがセイヤの左腕を包み込む。


 セミダブルのベッドに、三人はきついと思ったセイヤだが、ユアとリリィがスレンダーなせいか、あまり狭く感じなかった。


 こうなってしまっては、どうしようもないと思ったセイヤは仕方がなく、そのまま寝ることにした。だが一瞬だけ右腕を包む温もりが消えたと思った直後、先ほどよりも温かく柔らかい感触がセイヤの右腕を包み込む。


 まさかと思い、セイヤは自分の右腕を再び見る。するとそこには、予想通りピンクの下着を外し、一糸まとわぬユアがいた。


 セイヤも男だ。いくら疲労があったとしても、両腕を絶世の美少女が一糸纏わぬ姿で抱きしめていたら、体の一部が元気になってしまう。


 しかし翌日のことを考えると、睡眠をとらなくてはいけない。そんな葛藤したセイヤは死にそうな声で二人に懇願した。


 「せめて……何か着てくれ……」


 今にも死にそうなセイヤの姿を見た二人は、セイヤのお願いを無視することができず、部屋に備え付けられていたベビードールを着ることにする。


 ベビードールを着た二人の姿は、なぜか先ほどよりも色っぽく感じられ、セイヤは己の中の欲望を押し込めるのに必死になる。服こそ来ているが、いろいろと透けていていた。


 そして現在、セイヤの左腕には、水色っぽいベビードールを着たリリィがセイヤ寝ている。しかし、セイヤの右にはユアの姿はなかった。


 セイヤは部屋の中を見渡すが、ユアの姿を見つけることはできない。代わりに、ベランダの扉が開いていることに気づいた。


 自分の右腕に抱き着いているリリィのことを起こさないように腕を抜き、ベッドから出るセイヤ。


 ベッドから出たセイヤはそのままベランダへと出る。スイートルームと言うだけあり、ベランダもかなり広く、街を一望できた。


 セイヤはベランダに出るとすぐにユアの姿を見つける。


 ピンクっぽいベビードールの上に、カーディガンのようなものを羽織っているユア、優しく吹く風が、ユアのきれいな白い髪を揺らしている。


 ユアはベランダから街を一望しているようだったが、すぐにセイヤに気づく。セイヤはそのままユアの隣へと行き、街を一望する。


 深夜だけあって、街の明かりは少ないが、ところどころ光があり、きれいな夜景ができていた。


 「眠れないのか?」


 セイヤは夜景を見ながら、隣にいるユアに話しかける。しかしユアから返事はなかった。なので、セイヤは先にお礼を言った。


 「ありがとな」

 「何が……?」


 セイヤの言っている意味が分からず、首をかしげるユア。その姿をとても愛らしく思うセイヤ。


 「俺の疲労を回復してくれただろ?」

 「気づいたんだ……」


 セイヤは目を覚ました際、不思議と疲労感を感じなかった。いくら睡眠をとったからといって、三時間程度でなくなるような疲労ではない。


 その時、セイヤは微弱ながら自分の体内に残るユアの魔力を感じた。それでセイヤは、ユアが自分の疲労回復をしてくれたのだと理解したのだ。


 「ああ、かすかにユアの魔力を感じたからな」


 その言葉に、少し嬉しそうな表情を浮かべるユア。そんなユアの態度を見て、セイヤは違和感を覚える。


 正確には、ユアに対して違和感を覚えたのは朝からだった。ユアが何かに悩んでいるという事は、明確だとセイヤは感じている。だからこそ、セイヤはユアに聞いた。


 「なあ、何か悩み事でもあるのか?」


 セイヤのその言葉に、ユアはビクッと反応した。


 「どうして……?」

 「だってユアがリリィに対抗するなんておかしいだろ? それにいつもより、どこか消極的だしな」


 セイヤが感じていた違和感はユアの態度だ。


 今までのユアならリリィに行動に対抗せずに、ありのままの自分でセイヤに触れあってきた。それは言ってしまえば、正妻としての余裕だ。


 だが今のユアにはそんな余裕など感じられず、必死なように感じられた。しかしその割には、行動は消極的なところが目立ち、セイヤに違和感を抱かせていたのだ。


 「問題ない……」

 「嘘をつくな。相談しろよ。俺はユアの婚約者なんだから」

 「セイヤ……」


 そっけない態度でそのまま部屋の中へ帰ろうとしたユアだったが、セイヤの言葉に足を止めてしまう。セイヤはユアの後ろ姿を見ていたが、その後ろ姿から小さく光るものが落ちていることに気づいた。


 それは夜景の光が反射しているユアの涙だ。


 「ユア……」


 セイヤはユアのことを後ろからそっと抱きしめる。セイヤに抱きしめられたユアは、今まで溜まっていた思いから、さらに涙を流してしまう。


 「教えてくれよ、ユア。ユアが何に悩んでいるのか、何がそんなにユアのことを泣かせるのか」


 セイヤの言葉に、ユアはポツンと言った。


 「セイヤは私のこと好き……?」


 その言葉を、セイヤは最初、理解することができなかった。自分は心の底からユアのことを愛している。それは紛れもないセイヤの本心だ。


 しかしその本心は、ユアに届かなかったのかと不安になる。セイヤは本音を言った。


 「ああ、心の底からユアのことを愛している」


 それは紛れもないセイヤの本心。嘘や偽りなど全くない心の底からの本心だ。その言葉を聞いたユアは一瞬だけ驚いたような表情をするが、すぐに次の言葉を続ける。


 「セレナよりも?」

 「なんでそこでセレナの話になるんだ?」


 セイヤはいきなりセレナの話になって驚く。ユアはそんなセイヤに対して、自分の思っていることを素直に打ち明けた。


 「だって、セイヤはセレナと一緒に行動してる……セレナが援護したら嬉しそうだった……。私が着いて行くと言ってもダメだったのにセレナはよかった……。

  私はセイヤのことを助けられていない……足手まといになっていると考えちゃう……。そう思えば、思うほど、セイヤの対しての行動が消極的になる……。

  これ以上嫌われたくないから……でも私の本心はセイヤのことを求めていて、ついリリィに対抗しちゃった……」


 普段は無口なユアがこんなにも話すのは珍しかった。しかし、それほど思い詰めていたのかと、セイヤは感じ、自分のことを責める。


 なぜ自分は、ユアがこんなにもなるまで気づかなかったのだ、と。


 「ユア!」


 セイヤは後ろから抱きしめていたユアを回転させ、彼女の唇を奪った。突然のことに驚くユア。まるでルビーのように綺麗な紅い瞳が、大きく開かれる。


 セイヤはユアの唇から自分の唇を離すと静かに言う。


 「ごめんな、ユア。俺、婚約者失敗だな」

 「えっ……」


 婚約者失敗。その言葉はユアが思っていた言葉であると同時に、セイヤから一番言われたくない言葉だった。もしかしたら、このまま私はセイヤに捨てられてしまうかもしれない。


 そんな不安がユアのことを襲う。


 「俺はユアのことを大切に思っているからこその行動だと思っていたのに、それがユアのことを傷つけていたなんて」

 「セイヤ……」


 いつ別れようと言われるのか不安になるユア。


 自分はもう、セイヤ無しでは生きていけない。人生の中で初めてできた心の底から好きと言える少年と、一緒に過ごせないなんて嫌だ。だけど、こんな自分だったら……。


 ユアの心の中が荒れ狂う。もしかしたら、これが最後の機会かもしれない。勝手にそう思ったユアは、自分の本音をセイヤに打ち明けた。


 例えそれで、セイヤに今まで以上、嫌われたとしても。ユアは自分の本音を、セイヤにぶつけた。


 「私はずっとセイヤと一緒がいい……初めてできた、愛する人だから失いたくない……誰にもセイヤを渡したくない……自分だけをセイヤに見てほしい……リリィなら少しはいいけど……でも私を一番に愛してほしい。これが私の本音……」


 ユアの本音を聞いたセイヤは一瞬、驚いた表情を浮かべるが、すぐに自分の本音をユアにぶつけた。


 「俺だって、こんな異端な力を持っている俺のことを受け入れてくれたユアのことが好きだ。ユアがほかの男のものになるなんて考えられないし、誰にも渡すつもりはない。だから俺の隣にずっといろよ、ユア」


 それがセイヤの本音。


 「セイヤ……ありがとう……」


 ユアの顔からは涙が消え、とてもかわいらしい笑顔が浮かぶ。


 セイヤは右手でユアの頬に触れる。その後、二人は自然と唇を重ねた。今度の口づけは、先ほどよりも優しく濃厚なものだ。セイヤはそのまま、ユアの羽織っているカーディガンのようなものを脱がそうとするが、ユアによってとめられてしまう。


 「リリィが起きちゃう……」

 「大丈夫だ。ぐっすり寝ているから、簡単には起きないさ」

 「セイヤ……大胆……」


 そう言って、ユアはセイヤの手から自分の手を放し、自分の身をセイヤに任せる。その後、深夜のスイートルームのベランダには、愛らしい声と、生々しい音がしばらく響くのだった。






 セイヤたちが誰もいないと思っていたベランダには、一人の少女がいた。正確には仕切りを挟んで隣のベランダなのだが、仕切りは薄く音も聞こえている。


 少女は今日一日に起きた様々な出来事に、心が落ち着かず、寝れなかったため、ベランダから夜景でも見て心を落ち着かせようとしていた。


 しかし隣から聞こえてきた愛らしい声と、生々しい音が、少女の心を落ち着かせるどころか、さらに興奮させてしまう。


 その少女はさらさらとした赤い髪を耳に押し当てながら、隣から聞こえてくる音を遮断しようとしている。


 (あの二人はこんな時間に何やっているのよ。しかも外で……)


 耳をふさぎながらも、そんなことを思うセレナ。しかし彼女は、決して部屋の中に入ろうとはせず、ベランダで耳を抑えている。


 心なしか耳を抑えているセレナの手に多数の隙間があったのは、誰も知らない。


 いつも読んでいただきありがとうございます。今回はユアの本音について書いてみたのですが、想像以上に重い女になってしまいました。初期設定とどんどんかけ離れていくユアです……。

 まあ、それは置いておいて次からは街を出てモカ救出へと向かう予定です。(もしかしたらもう一話街でのお話をやるかもしれませんが)よかったら次のお話もよろしくお願いします。

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