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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
3章 ダクリア2区編
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第84話 モカの情報探し



 セイヤとセレナの姿はダクリア二区の中心部にあるバーにあった。


 バーの収容人数は50人ほどの広さで、たくさんの人で賑わっている。セイヤは端の席に座りながら、白い炭酸のようなものを飲み、セレナはピンクがかった炭酸飲料を飲んでいる。しかしセレナの顔はどこか不満そうだった。


 「何をそんなに怒っているんだ、鳥女。そんなにさっき恋人扱いされたのがいやだったのか?」

 「べっつに~。なーんとも思っていませんよーだ」

 「恋人と言っておかなきゃ不自然だろ」

 「わかってるわよ」


 セレナはセイヤが恋人扱いしなければ不自然と言うのは理解している。問題はそこではなく、セイヤがあまりにも鈍感なところだ。その鈍感さゆえに、セレナはご機嫌斜めにしていた。


 「そんな顔をしていると、可愛い顔が台無しだぞ」

 「えっ?」


 セレナはそっぽを向いていた顔をセイヤに戻す。


 しかしセイヤは、「どした?」と言った顔でセレナのことを見ていた。あれ?  と思ったセレナは、すぐに今のセリフが隣のカップルから聞こえてきたことに気づき、さらに機嫌を悪くした。


 そんなセレナに、いったいどうなっているんだ?  と困った表情をするセイヤ。


 そして時刻は午後10時を回ったところだろうか、セイヤたちの姿は依然バーにあったが、バーにいる客はそろそろ変わってきていた。


 セイヤたちが来る前からいた客たちは、既にほとんどが会計を済ませ、新たなバーへと向かったようで、セイヤたちの後に入って来た客も帰り始めている。


 「ねえ、さっきから何もせずジュース飲んでいるだけだけど、聞き込みしなくていいの?」


 不安になるセレナ。実はセイヤはこの一時間半ほど、ただジュースを飲んでいるだけで、一向に聞き込みをしなかった。


 しかも、セレナが聞き込みしようとしたら、止めたりもして、セレナはセイヤに考えがあるのかないのかわからずにいた。


 「まあ、待てって。それより魔装銃はちゃんと持っているか?」

 「ええ、スカートの中に」

 「ならいい。もうちょっと待っていろ」

 「うっ、うん」


 セイヤはセレナが魔装銃を持っていることを確認すると、また黙り込んでジュースを飲み始める。セレナはそんなセイヤの姿を見て、自分も三杯目になろうかというジュースを飲む。


 ドレス姿になったセレナだが、しっかりと魔装銃は持っていた。いつもは制服の腰に巻き付けている魔装銃も、ドレスになるとそんなことはできない。なので、スカートの中、太ももにホルスターを巻き付けしまっている。


 「そろそろか」


 それから三十分後、急にセイヤがそう言って会計を済ませた。


 「行くの?」

 「ああ」


 セレナは戸惑いながらも、セイヤに着いて行き、店を出る。その後、二人は街の中心部からホテルの方へと続く道を並びながら歩いていく。


 セレナは、本当にデート見たい、と思いながら歩いていたのだが、角を曲がると、急にセイヤに腕をつかまれた。


 「えっ?」


 セイヤは角を曲がる瞬間、セレナの腕を引っ張り、走ろうとしたが、角を曲がった後は、すぐに急停止をする。


 その際、いきなりの出来事にバランスを崩したセレナが転びそうになったが、セイヤが抱きしめて受けとめる。


 セレナは最初こそ何が起こったのかわからなかったが、徐々に状況を理解していく。自分がセイヤの腕の中に抱きしめられていると。


 どんどん赤くなっていくセレナの顔。すでに耳まで赤くなっていた。


 「ちょっと待って、心の準備が……」

 「悪い。静かに」

 「えっ、嘘?」


 セイヤの真剣なまなざしに、顔をさらに赤くするセレナ。心の中で「婚約者たちがいるでしょ!?」と思うが、次の瞬間、セイヤの視線はほかのところを向いていた。


 「俺たちを着けているようだが、何のようだ?」


 セイヤの視線の先には、三十代前半の男の姿があった。セレナはセイヤの視線をたどり、その男のことを見る。


 小太りにひげを生やし帽子をかぶっている男はどこか探偵のような男だ。この世界に探偵などいないと思われるが。


 「ちっ、いつから気づいていた?」


 男はそんなことを聞いてきたので、セイヤは腕の中にいたセレナのことを立たせながら答える。


 「バーに入る直前だ。一瞬だが、お前は鳥女のことを見て驚いたような表情をしたな。しかも俺らがバーにいるときはずっと反対側からこちらのことを伺っていた」


 それはセイヤたちがずっと観察されていたことを指す。


 「なるほどな。正直に話すよ。そこのお嬢さんが可愛くて驚いたんだ。もしよかったら、お茶でもどうかなって思って」


 男の言葉を聞き、セレナはセイヤの背中に隠れる。それが意味している答えが男にもわからないわけもなく、こめかみがピクッと動いた。


 しかしセイヤが考えていたことは全く違う。それはこの男が本当にセレナのことを好いているとは思っていなかったからだ。


 セイヤは常日頃から絶世の美少女と言ってもおかしくないユアやリリィと行動を共にしている。その際、初めて二人のことを見た人たちの驚きの表情を、セイヤは何回も見てきた。


 その顔は全員一致で「こんな美少女がいるなんて」と言う顔だ。しかし、目の前の男がセレナを見たときの顔から感じたのは「なんでこいつがここに?」という顔だった。


 「振られちゃったら仕方ないな~。おじさんはそろそろ帰るよ。じゃあ、ごゆっくり」


 男はそう言って去ろうとした。セレナからしてみれば、しつこく付き纏われるようなストーカーよりは全然うれしいので、さっさと消えて欲しかった。


 だが、立ち去ろうとする男を止めた者がいた。セイヤだ。


 「待てよ」


 ドンッ‼


 そんな音とともに、男をその場に留める重力が働く。もちろん最近ますます便利になってきた、セイヤの殺気だ。


 濃密な殺気を当てられている男は、その場で立ち止まりながら、だらだらと汗を流し始める。助けを呼ぼうにも、この時間帯で人気のないこの場所に、人が通るはずがないと、男自身が知っていた。


 ドスン‼‼


 セイヤは殺気の濃密さを、さらに上げる。


 男はとうとう立っていられず、その場で座り込んでしまった。立って逃げようにも、体が言うことを聞かず、魔力全解放でもするかと考えたが、セイヤの殺気は魔力を練ることさえ許さない。


 「なあ、あんたが驚いた理由は鳥女が可愛かったからじゃないよな?」


 がくがく震える男は、首を振るのが精いっぱいだった。男はこの時感じた。自分は手を出してはいけないものに、手を出してしまった、と。


 こんな化け物を、自分がどうこうできる問題じゃない、自分の命は、自分の後ろにいる金髪の少年に握られている、と。


 「あんたが驚いた理由は、鳥女と同じような顔をつい最近見たからだろ?  そしてその人の居場所を知っているからだろ?」


 鳥女という言葉がセレナを指していることを、男は何とか理解していた。けれども、これ以上セイヤの質問に答えることは主を裏切ることになる。


 そうなるよりは、ここで自決したほうが……と考えるが、セイヤの殺気は舌をかむことさえ許してくれない。


 セレナはただ黙って男を見ていた。それはセイヤに対する畏怖もあったが、やっとモカの情報が手に入れられるという期待から、セイヤに任せていたのだ。


 「答えないというなら、ただでは帰れんぞ」


 パチン‼


 セイヤが指を鳴らす。次の瞬間、男の左耳が跡形もなく消滅した。


 「んんんんんんんんんん」


 絶叫を上げようにも、言葉を発することも許されない男は、ただ自分の左耳が消し飛んでいく痛みに耐えるしかない。


 「次はどこがいい?  指か?  鼻か?  それとも眼か?」


 男は恐怖で首を思いっきり横に振る。


 左耳から血が飛び散るが、そんな事はお構いなしだ。セイヤの指定する場所が、即死はおろか、一応なくてもこの先も生きて行ける場所という事に、男はさらなる恐怖を覚える。


 そしてセイヤに言われた部位がない生活を想像してしまった。


 「言う気になったか?」


 セイヤの言葉に男は勢いよく首を縦に振る。男からは生きたいという狂気さえ感じるほどだった。


 その姿にセレナは言葉を失いないながらも、セイヤの袖を握っていた。


 セイヤは殺気を弱めて男が話をできるようにしたが、依然動くことはできない。


 「わかった。話す。話すからこれ以上はやめてくれ」

 「お前次第だ」


 男は必死に話し始める。


 「確かにそこの嬢ちゃんと似た人を昨日の晩、見た」


 セイヤはそのことに驚く。魔装馬で二日の距離を、一日で移動するこの国の技術力に。男はそんなセイヤの様子など気にせず話を続ける。


 「その人はお嬢ちゃんよりも年上で、拘束されていた」

 「どこにいる?」

 「それは……」


 答えるのに戸惑う男に対してセイヤは目を細める。そんなセイヤを見た男は慌てて言った。

 

 「わかった。言う、言うから許してくれ。場所は魔王の館だよ」

 「魔王の館?」


 セイヤは聞いたことのない単語に、首をかしげる。男はそんなセイヤの様子などお構いなしに、生きるために次々と話し始める。


 「そうだ。ここから山を越えたところにあるブロード様の館だ。ブロード様は外から連れてきた大切な素材だと言っていた。詳しい内容は俺にもわからない。ただ、ブロード様はさぞ喜ばれていたので、似ているそこの嬢ちゃんを渡せば褒美をくれると思ったんだ。本当だ!  信じてくれ!」


 男は必死に言う。とにかく生きるために必死だ。


 「そのブロードと言うのは、ブロード=マモンで間違いないな?」

 「ああ、間違いない」

 「そうか。もういい」

 「じゃあ!」

 「ああ、解放しよう」


 セイヤはそういうと男に聖属性魔法を行使して、無くなった左耳を再生させる。


 男は自分の左耳が治ったことに驚きを隠せない様子で、セイヤのことを見つめた。


 それは横にいたセレナも同じだ。セレナは今の魔法が何かは知らないが、これがセイヤの秘密に関係あると理解する。同時に、触れてはいけないことだとも直感的に感じた。


 「今までの出来事は誰にも言うな。もし言ったら、次は今よりもっと大変なことになる」

 「あっ、ああ」


 最後は盛大に濃密な殺気をお見舞いし、男は走り去ってどこかへ行く。セレナはそんな男を哀れに見つめながら、考えていた。


 「さて、場所もわかったし帰るぞ」

 「うん」


 ホテルへ帰るために歩き出すセイヤ。その後ろ姿にセレナが言う。


 「ねえ、ロリコン」

 「なんだ?」


 振り向きながら、こっちを見てくるセイヤ。セレナはあの力は何なのか?  あなたは何者?  そう聞きたかったセレナだが、言葉を発する直前になって、言葉が引っ掛かり、言えない。


 「なんでもない」

 「そうか」


 二人はそのままホテルへと帰っていった。

 いつも読んでいただきありがとうございます。今回はセレナとセイヤのデート的な話です。作者最近セレナにデレデレしているような気が……。アンチセレナの方、申し訳ありません。でも次の話はユアとセイヤの話を書くつもりです。良かったら読んでみてください^^

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