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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
3章 ダクリア2区編
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第82話 交渉



 セレナの使った魔法は、火属性中級魔法『照波』といい、火属性の魔力で超音波を作り出し、それを撃ち出すという魔法だ。


 火属性の魔力でできた超音波には当然、活性化作用があり、対象を体内から活性化させることができる。けがの治療などにも使われることがある魔法だ。


 受付の青年はグラナライオンの咆哮を見て、目の前にいる魔獣は本物のグラナライオンだという事を理解する。しかし同時に違和感も覚える。


 それはグラナライオンを生け捕りできるくらいの実力を持つにもかかわらず、グラナライオンの商品価値を知らないという事だ。魔獣の生け捕りを仕事にするのは冒険者だ。


 冒険者なら当然、魔獣の価値を知っているはずだが、知らないという事は素人……そんな予想が、青年の心に悪魔を生み出す。


 「わかった。本物らしいな。換金の対象だ。状態を見ても問題なさそうだし、2万グレラでどうだ?」


 青年が提示した額はレートで言ったら破格の安さだった。グラナライオンの場合、亡骸でも32万グレラはする。


 それが生け捕りとなったらその額は60万グレラになってもおかしくない。しかし青年の心の中の悪魔は、レートを知らないことが悪いと囁きかけ、青年はその悪魔に負けてしまった。


 食事処にいた魔法師たちにも聞こえていたらしく、青年のことマジマジと見ていた。


 セイヤはこの時、初めて通貨がグレラという事を知る。しかしこの通貨が二区限定なのか、全国なのかはわからない。だが今はそんなことはどうでもよかった。


 まずは資金を作るのが先だったからだ。セイヤはそれでいいと言おうとしたが、受付の青年を見て違和感を抱く。


 受付の青年は先ほどまでセイヤを前に、雄弁に話していた。それはグラナライオンを見せても変わらなかったのだが、今の話し方は短く切れている。


 そこでセイヤは周りの客の様子を見て大体を察した。セイヤは目をスッと閉じて青年に言う。


 「舐められたものだな」


 セイヤは目を開き、受付の青年を殺気の籠った目で睨む。その目を向けられた瞬間、青年はガタガタと震え始め、椅子から転げて落ちてしまう。


 だがセイヤは殺気を引っ込めず、倒れこんでいる青年のことを睨む。その姿は哀れな青年を見下しているようだった。


 「今ならまだ許してやる。本当のことを言うか、それともこのまま死んでいくか選べ」

 「あうう……」


 セイヤの言葉に謝罪しようとする青年だったが、セイヤに向けられる殺気が凄まじ過ぎて、言葉を出すことができない。


 セイヤは倒れこみながら震えている青年を見て、完全に確信した。それはグラナライオンと戦った時にも感じたことだ。


 セイヤの殺気は、レイリア王国よりもダクリア大帝国の方が効果を発揮するという事である。理由はわかっていないが、セイヤは暗黒領を通っているとき、レイリア王国から離れれば離れるほど、自分の殺気が鋭くなっているのを感じていた。


 それは対人でも変わらず、今もこうして一人の青年のことを抑えてつけている。殺気には物理的な拘束力はないはずなのだが、どうやらセイヤの殺気は、物理的拘束力があったらしい。


 セイヤはそんなことを考えていると、後ろから怒声が聞こえた。振り向くと、先ほどまで食事処や掲示板の前にいた中年の魔法師たちが、セイヤのことを睨んでいた。


 「おい、小僧。ここではギルド職員に手を出すのはタブーだぜ」

 「今すぐやめないと、ここにいる魔法師全員が許さないぜ」

 「ここにはAランクもいるから覚悟した方がいい」

 「いくらグラナライオンを捕獲できるからといって、この人数はきついだろ?」

 「謝るなら今のうちだぞ」

 「そうだ餓鬼の分際で」


 そんなことを言っている魔法師が五十人ほどいた。


 全員武器を持ちセイヤに好戦的な態度をとってはいるが、その視線の先にはユアやリリィ、セレナやモーナにアイシィに向いている。


 中年の魔法師たちは、セイヤが問題を起こしたことにより、ギルド職員を守るという大義名分ができた。といっても、ギルド職員である青年を心配しているものなど一人もおらず、目的はセイヤを懲らしめ、ユアたちをいただこうという魂胆だ。


 もちろんそんなことをわかっているセイヤは、先ほどまで溜まったストレスをぶつける。


 「やりたきゃ勝手にやれ。どうなっても知らないぞ」

 「ふん、餓鬼が調子に乗るなよ。お前らやるぞ! これで女たちは俺たちのものだ!」

 「「「「「「オオオォォォ-」」」」」」


 次々と詠唱して魔法陣を展開していく者たち。


 中には無詠唱で魔法陣を展開しているものもいる。おそらく彼らがAランク冒険者と言われるものたちなのであろう。


 セイヤはそんな魔法師たちを一瞥すると、受付の青年に対する殺気を解いた。青年は殺気を解かれることを認識すると、今更になって汗がダラダラと流れ出すのを感じる。


 そして何とか椅子にしがみつきセイヤと多数の冒険者たちの乱闘を見ようとした。


 さすがに五十人近い魔法師による魔法陣は壮大だった。ユアとリリィは安心してみているが、セイヤの本当の力を知らないセレナたちは、自分たちも応戦する準備を見せている。


 そんな三人に、リリィが「大丈夫!」と言った。


 次々と魔法陣を展開していく魔法師たち。しかしセイヤには律儀に魔法を受けてあげるほどの優しさはない。


 パチン


 セイヤが指を鳴らした瞬間、冒険者たちが展開していたすべての魔法陣が、跡形もなく消滅する。それはセイヤの『闇波』によるものだ。


 冒険者たちは一瞬、何が起きたのかわからなかったが、すぐにセイヤが『闇波』を行使したのだと理解する。


 こういうところはダクリアの人間なので動揺はしない。ただ、冒険者たちは気づくべきだった。


 セイヤの『闇波』が一瞬で全員の展開していた魔法陣を消滅させたことの異常さに。いくら闇属性が常識だと言っても、同時に五十人近い冒険者の魔法陣を消滅させるのは異常だ。しかも魔法陣の一部ではなく、跡形もなく消し去ることは。


 冒険者たちは魔法陣が消されたことで、セイヤが闇属性の魔法を使うことを理解し、攻撃手段を魔法から武器へと代える。


 ある者は刀を、ある者は剣を、ある者は弓を、ある者は鎖を、武器は様々だった。しかし結局、一人としてセイヤに攻撃できた者はいなかった。


 ゴンッ!


 まるでそんな音がしたかと思うと、次の瞬間、冒険者たちのことを物理的圧力が襲う。それはセイヤの殺気であった。


 しかし先ほどまで青年に向けていた殺気とは桁違いだ。ユアたちを厭らしい目で見たことに怒りを覚えたセイヤの殺気が、次々と冒険者の意識を刈り取っていく。


 その後、かろうじて意識を保っていたのは五、六人だが、すでにセイヤに対して戦闘の意思はなさそうだった。


 「まだやるか?」

 「「「ヒッ、ヒィィィィィィィィィ」」」


 意識がある冒険者たちは、次々と無様に四つん這いになり、ギルドの外へと逃げていく。セイヤはその様を見ると、満足したようにユアとリリィの頭を撫でる。


 ユアとリリィはセイヤに頭を撫でられると、嬉しそうな顔をしてセイヤに抱き着いたが、セレナたち生徒会メンバーは、何が起きたのか理解できておらず、茫然としている。


 そんなセイヤに話しかける者がいた。受付の青年だ。


 「えっと、グラナライオンのことだが、60万グレラで買いたいと思う」


 セイヤはその言葉に眉を顰める。


 先ほどの三十倍という事はわかったが、それが正しいレートなのかわからない。周りの反応を見て決めようにも、気絶していてわからない。


 仕方ないので、セイヤはかまをかけてみることにした。


 「ほう、それで売れと?」

 「なっ、何言っているんだ? 適性レートだぞ!?」


 青年の態度から察するに、適性レートで間違いはなかった。しかしセイヤたちには少しでも資金が必要だったため、セイヤが再び交渉に出る。


 「俺が言いたいのはそういう事じゃない。お前が最初の査定をふざけたことに関してだ。もしかして迷惑料無しってわけじゃないよな?」

 「うっ、それは悪かったと思っている」

 「ならわかっているのだろ?」


 セイヤは騙された被害者のはずなのだが、これでは受付の青年のほうが被害者に見えてしまう。


 「65万グレラでどうだ?」

 「…………」

 「68万グレラ」

 「…………」

 「じゃっ、じゃあ70万グレラだ。これでどうだ? これがこっちの限界だ。それ以上は無理だ!」


 無言のセイヤに対し、受付の青年は出せる限度額を言うが、セイヤはそれくらいで許してくれるほど、優しくはない。


 「そうか。それが限界か。なら誠意を見せるには、限界を超えないとな?」

 「うっ、いくらを望むんだ?」

 「80万グレラ」

 「ふざけるな! いくらなんでもそんな額!」

 「60万を2万といったのは誰だ?」


 セイヤの殺気こそこもってはいないが、青年のことをにらむ視線に、怯む青年。


 「それとも言いふらしてもいいのかな? ここの査定は……」

 「わかった。80万だ」

 「どうも」


 セイヤはそういうと、グラナライオンを檻ごと受付の青年に渡し、代わりにパスケースほどの箱を受け取った。


 それは箱というよりも端末に似ていたが、ボタンなどは見られない。


 「これは?」

 「これは? って、ICゲータだろ。仮想グレラを使うときに使う」

 「そうか。ついでに詳しい使い方を教えろ」

 「はっ? もしかして知らないのか?」


 使い方を聞くセイヤに、信じられないといった表情を浮かべる青年。


 「文句あるのか?」

 「いや、ない」


 その後、セイヤはICゲータの使いかたを受付の青年から教えてもらい、本日の宿をとるために移動した。


 いつも読んでいただきありがとうございます。今回からダクリアの人々も登場です。といってもレイリアの人間とは変わりませんが(-_-;)

 ここで説明したいと思いますが、ダクリアにはレイリアのような一族制度はなく、冒険者としてのランク制度が存在します。まあ、簡単に言ってしまえばランクはレイリアで言う初級などの急に当たるという事です。その辺はおいおい書きたいと思います。次は街中で情報収集の予定です。よかったら次のお話も読んでみてください。

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