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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
3章 ダクリア2区編
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第81話 グレナライオン

 セイヤたちが馬を走らせ街に近づいていくと、そこには大きな門があり、門番がいた。


 セイヤは門番たちを気にせず、進んでいくのだが、セレナたちは内心で大丈夫かと、心配でしょうがなかった。


 「とまれ」


 二人の門番がセイヤたちのことを止める。


 「今日は外から来るものがいるという連絡は受けていない。貴様らは何者だ?」


 門番の詰問に冷や汗を流すセレナたち。門番の言い方からして、この国では外からくるものに関しての連絡が行われているようだ。


 だが、当然、暗黒領の向こうから来たセイヤたちのことについて、連絡を受けているはずもなく、門番たちはセイヤたちのことをじっくりと見る。


 門番はセイヤの次にユアとリリィのことを見たのだが、二人を見た瞬間、門番の表情が変わった。


 ユアとリリィは普通に可愛いのではなく、絶世つくほど可愛い。


 白い髪にきれいな紅い眼、小柄だがしっかりと健康そうな肢体、そしてどこか色気を持つユア。


 まるでサファイアのようにきれいな髪と瞳を持ち、幼児体系であるが、その分元気がみなぎっているようなリリィ。


 そんな二人を見て、門番たちはごくりとつばを飲み込む。


 しかし門番の衝撃はそれでは終わらなかった。


 ユアたちの後ろにいた生徒会メンバーにも目が釘付けになる。ユアたちには及ばないものの、普通に考えて見た目はかなりいいセレナたち。


 しかも全員、色とりどりな髪を持っており、誰一人として同じようなものがいない。セイヤのことを見る門番たちの目が、警戒から嫉妬へと変わる。


 そんな門番たちに、セイヤは素っ気なく答える。


 「だろうな。俺らは二区ではなく、四区に行くつもりだったんだ。だが途中で強力な魔獣に襲われた。そこで失った装備とかを、ここで補充したいと考えている」


 もちろんセイヤの言っていることは全くの嘘だ。しかし、そんなことを門番が知っているわけもなく、セイヤの言い分は普通に筋が通っていた。


 何より、ユアたちの門番たちを見る視線が、早く入れてと訴えかけていた。


 「なるほど。そういう事か。ところでお前らは何区の出身だ?」

 「七区だ」

 「そうか」


 セイヤが七区と答えた瞬間、門番たちのセイヤを見る目の嫉妬がさらに深くなる。セイヤはなぜそうなったか、わかっているようで鼻で笑った。


 門番たちは、門にある小さなカバーをスライドさせ、中にある赤いボタンを押す。


 すると大きな鋼鉄の扉がゴゴゴゴゴッッッッッッ、と音をたて、開き始めた。初めて見る光景に、セイヤたち全員が呆気をとられる。


 レイリア王国の門は、鋼鉄ではなく木でできており、開閉も人力で行っているのだが、目の前の門は人力で開けている様子はない。


 門番たちは悔しそうな目でセイヤを睨みながら見送る。そこには「七区であの女の数って……」、「そういうことだろ」、「やっぱりそうか」なんていう声がしたが、ユアたちには何のことかわからなかった。


 ちなみに、一緒に連れてきたライオンに似た魔獣はアイシィの心遣いで見えないようにされていた。具体的には、先ほどまでは檻となっていた氷が、今では箱になっており、中が見えないようになっている。


 だから門番たちはなにかの物資と思い、スルーしたのだ。


 そしてセイヤたちは第一目標であった、ダクリア二区への潜入に成功した。


 「すごい街……」

 「こんな街が存在するなんて」


 街に入るや、すぐにそんな声を上げたのはユアとセレナだが、思っていることは皆一緒だった。


 ダクリア二区を一言で表すなら、機械化された街だろう。街中にはレイリア王国にはないほどの高さの建物や、魔法ではないと一目でわかる街灯がある。


 見たことのないものたちに、興味を持っていかれるが、セイヤはほかのメンバーにも注意して移動を始める。


 「最初にどこ行くの?」


 そう聞いてきたのはユアだった。ユアも見たことのない物たちに興味を持ったが、他人に比べて好奇心が低いため、そこまで感動することはなかった。


 逆に目を輝かせていたのはリリィだ。リリィはアクエリスタンに来た当初も見たことのないものに興味を示していたが、どうやら今回はそれ以上だったらしい。


 しかし、セイヤたちは先を急がなくてはいけないためアイシィがリリィを宥める。


 「まず最初に行くのは金稼ぎだ」

 「「「「「「金稼ぎ?」」」」」


 セイヤの金稼ぎと言う言葉に、一同は自分たちが連れてきた魔獣のことを思い出す。門番にスルーされてから、全員、魔獣のことを忘れていた。というよりも、正確には街並みがすごすぎて、魔獣のことなど気にしていなかったのだ。


 魔獣はいまだ沈静化により意識ははっきりとしないが、クゥ~ンという鳴き声が、セイヤには聞こえた気がした。






 その後、セイヤたちはダクリア二区にあるギルドへ到着する。そこは機械化している街に比べると、どこか古い感じはするが、建物の中からはワイワイと楽しそうな喧騒が聞こえてきた。


 セイヤは扉を開けて中へと入っていく。


 ギルドの中は、入って左側は食事処になっているようで、かなり広くなっており、たくさんの人がいる。


 一方、右側には大きな掲示板があり、そこには様々な依頼書が張ってある。魔法師らしきものたちが、その掲示板から依頼書を探しているのがわかった。


 ギルド内はどこかアクエリスタンの教会と似ていた。しかし、ここではセイヤたちに向けられる視線が、非友好的な視線ではなく友好的な視線だった。


 特にユアとリリィに対して。無理もない。ギルドにいる連中は急に入って来た五人の美少女たちに興味津々だったのだから。しかもここはダクリア大帝国だ。帝国という名もあって、強い者が上に立ち、女たちも強い者に寄り付く。


 それはつまり、セイヤを倒せばユアたちは自分のものになるという認識だ。そんな認識を持った大人たちが多数いる。


 セイヤは気にせずカウンターへと足を運ぶが、ユアたちはニヤニヤと笑みを浮かべながら、自分たちのことを見てくるオジサンを気持ち悪く思い、セイヤに近づく。


 それはユアとリリィだけでなく生徒会メンバーも同じだった。


 受付のカウンターには坊主頭の青年がいた。年はセイヤよりも少し上といった感じで、この青年もまた、後ろにいるユアたちのことを見て気持ち悪い笑みを浮かべる。


 「ここで換金はやっているか?」


 そんな青年に対し、セイヤはやや高圧的に尋ねた。青年はセイヤの態度が気に食わなかったのか、セイヤのことをギロリと睨む。


 「ああ、やっている。それで何を売りたい?」


 青年の目には「どうせお前みたいなのが持ってくるのはちっぽけなものだろ?  さっさと出せや」と物語っていたが、セイヤは気づかないふりをする。


 一方、食事処では中年の魔法師たちが「俺が行ってくる」とか、「あんな餓鬼なんてちょろい、ちょろい」とか、「これであの女もいただきだ」とか、「俺にも貸してくれよ?」などと言う声がした。


 その声が聞こえていたのか、ユアとリリィはセイヤの袖を握り、セレナたちもより一層セイヤに近づく。


 セイヤは食事処にいる中年の魔法師たちを一瞬だけ見ると、すぐに視線を氷の箱へと移し、カウンターの前に運ぶ。そして、アイシィに頼んで氷の箱を氷の檻に戻してもらう。


 「「「「「「なっ…………」」」」」」


 アイシィが氷の箱を氷の檻に変えた瞬間、ギルド全体がざわつく。ギルドにいた全員が魔獣を見てざわざわと話し始めた。


 「換金したいのはこの魔獣だ。今は寝ているが、死んではいない。それと傷もとくにはない。いくらで売れる?」


 セイヤの言葉に、ギルド全体がさらにざわつく。


 一体どうやって? という声が多いが、中にはどうせ似ている魔獣だろ? といった声が聞こえてくる。


 「こっ、これはダクリア二区周辺のサラルの森に縄張りをもつグラナライオンじゃないか。この周辺には一頭しか存在せず、サラルの森の王だぞ? まさかお前が仕留めたと?」


 受付の青年はセイヤのことを見つめながら、そんなことを聞く。それに対して、セイヤは平然と答えた。


 「仕留めたじゃない。生け捕りだ。それでこれは売れるのか?」


 セイヤは早く鑑定をしない受付の青年に苛立ちを覚える。それはこんな中年の気持ち悪い視線を浴びるところに、ユアとリリィを置いておくのは嫌だったから。しかしなかなか青年が鑑定をしない。


 青年はセイヤが苛立っているのがわかっていたが、この時、青年はセイヤが偽装をしていて、それが発覚する前に換金をしようとしているのではないかと考える。


 よくよく考えてみると、セイヤぐらいの年の少年少女では、生け捕りはおろそか仕留めるのも不可能だ。青年はそう考えると、できるだけセイヤをとどめようとする。


 「ああ、売れる。だがまずは生きているという証明をしてもらいたい」

 「わかった。おい、鳥女。こいつを覚醒させろ」


 急に呼ばれたセレナはビクッとしたが、すぐにセイヤの言いたいことを理解した。魔装銃を腰から一丁抜き、寝ている魔獣へとむける。


 「いいの?」

 「ああ、仕方ない」

 「わかったわ。火の巫女の加護を今かここに。『照波』」


 セレナが魔装銃の引き金を引くと、魔装銃から一種類の波が発生し、寝ている魔獣へと降り注ぐ。


 そしてその波を受けた魔獣の体内はみるみる活性化していき、あっという間に魔獣は元気になる。


 グルゥァァァァァァァァァ


 グラナライオンがそんな咆哮を上げると、先ほどまでざわついていたギルド内が一瞬にして静寂に包まれる。


 それはまさに百獣の王の威圧だった。


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