第78話 脱ツンデレ!?
各グループで見張りを決めた結果、最初の三時間の見張りはリリィとアイシィになった。
最初の見張りになったアイシィは、若干だがいつもよりにやけている。一方、リリィの方はおびえた様子でアイシィを見ていた。
「リリィ、よろしく」
「うっ、うん」
この時、リリィにはナーリの家に泊まった時のトラウマが呼び覚まされていたが、セイヤたちは休息をとっているため知る由もなかった。
約三時間が経ち、セイヤは目を覚ました。セイヤの隣では、ユアが眠っている。寝ているユアのことを起こさないようにと、セイヤはそっとテントから出ようとするが、寝ているユアがセイヤの袖をつかんでいたため、簡単には抜け出せない。
仕方がないので、セイヤは制服の上着を脱ぎ、ワイシャツ姿でテントから出る。
その後、ユアは寝返りを打ちながら、残されたセイヤの上着をそっと抱きしめ、意識を闇に落としていった。
ワイシャツ姿で出たセイヤは、先に見守りをしていたリリィと代わり、川原に座り込む。
アイシィと一緒に見守りをしていたリリィは眠たそうにしながらテントへと戻っていった。おそらくすぐに寝てしまうであろう。
セイヤが自分たちのテントの方を見ていると、その隣のテントから、一人の少女が出てきた。
「生徒会の見張りはお前か」
セイヤの目の前には、いつものようなツインテールではなく、髪を下しているセレナの姿があった。
髪を下したセレナにはいつものような厳しさは見られず、どっかお淑やかな雰囲気を纏っている。セレナは一瞬だけ嫌そうな顔をしたが、セイヤに隣まで来て腰かけた。
「そっちこそ、ロリコンだったのね。その辺はやっぱり紳士なのね」
「そういうお前こそ義理堅いな」
「仕方ないじゃない。だって今回の作戦は私のためでもあるんだから」
「それもそうだな」
二人は川原に座り込みながら、そんな話をする。
二人が話していたのは見張りの順番についてだ。通常、見張りを三分割した場合、一番負担が大きいのは真ん中の番である。
特に夜の見張りになってくるとなおさらである。理由は単純に睡眠の問題だ。
今回の例で言うと、最初に見張りを務めたリリィたちは仕事が終わるとそのまま六時間睡眠をとることができる。
最後に見張りを務めるユアたちは、六時間睡眠をとってから見張りをすることになる。
しかし真ん中のセイヤたちは三時間睡眠をとり、見張りをしてからもう三時間睡眠をとることになり、ほかの番に比べて辛い。だからこそ、セイヤはあえて真ん中の番をとったのだ。
「まあ、三時間頼むわ」
「ええ、こっちこそ」
二人の間には沈黙が生まれる。
聞こえる音は流れる川の音だけであり、ほかの音は一切しない。沈黙が起きてしまうのも無理はない。
見張りといっても、セイヤたちはここまでくる間に好戦的な魔獣はほとんど倒してきた。そのため、近くの魔獣はセイヤたちを警戒して襲ってくることはない。
たとえ襲ってきたとしても、セイヤの実力であれば、視認する前に倒すことだって可能だ
「星がきれいだな」
「えっ?」
セレナは隣で空を見上げているセイヤを見て、自分も空を見上げる。すると
空には一面に星があり、きれいな星空があった。
一つ一つの星が、ほかの星と良くも悪くも喧嘩するように輝きを競っているため、とてもきれいである。
「本当だ。きれい」
「なんかこの星空を見ていると不思議と暗黒領にいることを忘れてしまうな」
「そうね。ねぇ、ロリコン」
「なんだ?」
急にセレナが優しい声音でセイヤのことを呼ぶ。
「ありがとう」
「どうした急に?」
急にセレナにお礼を言われ、セイヤは困惑する。だが、困惑したのはセイヤだけではなく、セレナもであった。
なぜなら、自分でもなぜ急にありがとうと言ったのかわからなかったから。けれども、今言わなくては、と思い、不思議と口から出てきたのだ。
「ううん。ただ、私たちと一緒に暗黒領に来てくれてありがとう。あなたがいなかったら、私たちは暗黒領に来ることさえできなかったわ」
空一面に広がる星を見ているとセレナは、不思議と自分が素直になっていくのを感じた。
いつもならここでつい強くいってしまうのだが、今は自分の思っていることを素直に言える。というよりも、思ったことがすべて口から出てしまうのだ。
「気にするな。俺が一緒に来たのはナーリのためだ。それにその言葉は助け出してから言え」
「そうね」
やはり今のセレナは素直な少女だった。
いつもならここで強く返してしまうはずだが、今はただセイヤの言葉を受け止めている。これがきれいな星空によるものなのかセレナにはわからない。
しかし、今の時間はセレナにとって心地が良かった。
「ねえ、これから行くところってどんなところ?」
「さあな。俺もそこまでは知らない。だけど一つ言えることは、どんなことがあろうとも、俺らは全員無事でレイリア王国に戻ることだ」
「心強いわね」
セレナはこの心地のいい時間を終わりにはしたくはなかった。
「当たり前だ。そうしなきゃ、バジルの野郎になんて言われるかわからない」
「仲がいいのね」
「仲がいいのかわからないが、信頼はできる部類に入っている」
「そう。その信頼できる部類に私は入っている?」
普段のセレナなら慌てて撤回しそうな質問だが、今のセレナは撤回する様子もなく、セイヤの答えを待っていた。その表情には期待と不安が混じっているように見える。
「ああ、当たり前だ。お前ら生徒会を信頼してなきゃ、暗黒領までは来ないさ」
「そっか」
そう答えたセレナの表情は、どこか儚げに見えた。
その後、二人は他愛もない話をしながら過ごし、見張りの時間が終わるのを待っていた。セイヤが川原に寝そべりながら星空を見ていたので、セレナも同じように川原に寝そべりながら空一面に広がる星を見ていた。
三時間が経ったのか、テントからユアとモーナが出てくる。
ユアは川原に寝そべりながら星を見ている二人を見て、一瞬ムッとするが、すぐにセイヤの隣に横になり、セイヤの手を握る。
その様子を見たセレナが、一瞬だけ自分の手とセイヤの手を見たが、すぐに立ち上がり、そのままテントへと戻った。
「後は任せたわ」
そういいながら、テントの中に入っていくセレナ。そんなセレナの様子を見たモーナは「あらあら」と言いながらセイヤのことを見る。
セイヤはそんな視線をお構いなしにユアの手を握り返す。その後、十分ほどユアと一緒にいて、セイヤは自分のテントへと戻り睡眠をとろうとした。
セイヤがテントに戻ると、セイヤの上着を抱き枕のようにして寝ているリリィの姿があり、セイヤはリリィの頭を撫でだす。
リリィは頭を撫でられると、寝ているにもかかわらず、ニヤニヤしていた笑顔がニヘラ~という笑顔に変わっていった。そんなリリィの様子を見ながら、セイヤも横になり自分の意識を闇へと落としていく。
一方、もう一つのテントでは。
「どうしちゃったんだろう……わたし……」
顔を真っ赤にしながら、羞恥心に悶えるセレナの姿があった。
いつも読んでいただきありがとうございます。なぜか、最後の方セレナにスポットを当ててみたのですが、予想以上に作者の中でセレナに萌えました(笑)これからセレナはどうなるんだろう……
さて次からは戦闘に入るので、闇属性や聖属性も出てくる予定です。戦闘を楽しみにしていた人はお待たせしました。といっても最近アイディア不足してきてどうしようかと困っています。
何かリクエストがあったりしたら感想なので教えてもらえると嬉しいです。それでは次のお話よかったら読んでみてください。




