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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
3章 ダクリア2区編
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第76話 創魔記

 創魔記。それは文字の通り、魔法ができるまでの歴史である。かつてレイリア王国ができる前、そこには一人の神がいた。人々は神のことを崇め、神の子供である二人のことも崇めていた。


この時の人々に、魔法という概念はなく、魔法を使える者はいなかった。


 そしてある日、何百年も世界を治めて来た神が死んでしまう。人々は当然ながら次の指導者は、神の息子である二人だと思っていた。だが神の子供たちはお互いのことを邪魔だと感じていた。


 よって、起こることは神の息子同士による戦いだ。


 神には特別な力があった。ある時は「ものを生み出し」、ある時は「ものを消し去り」、ある時は「衰えたものを治し」、ある時は「痛みに苦しむものの痛みを和らげ」、ある時は「もろい骨を固くした」。


 これこそが神と呼ばれる所以でもあった。


 その力は当然、子供たちにも引き継がれており、神の子供たちはその力を自分たちの戦いに使った。それにより、人々は世界の終わりを感じ、戦いが早く終わることを祈り始める。


 しかし、神の子供たちの戦いはそう簡単には終わらない。神の子供にはそれぞれ持つ力が違っていた。片方の神には『ものを消し去る力』がなく、もう片方の神には『ものを生み出す力』がなかった。


 互いに異なる力を持った神の子たちは、お互いを自分の天敵と認め、相手を殺そうとする。


 終わらない戦いを見守っていた人々は、いつの日か、戦いに加わり始める。それは長年の恐怖が終わらない戦いを、自分たちで終わらせるという覚悟からによるものだ。


 人々は自分の信じる神の子供に付き、一緒に戦いだす。その際、神の息子たちは自分の方に着いた人々に加護を与えた。


 それこそが魔力である。人々は魔力を受け取ると、神と同じような力を得られたのだが、『ものを生み出す力』と『ものを消し去る力』を持つ者だけは現れなかった。


 この戦いはいずれ全人類を巻き込む大戦争になり、人々は己のために戦いを繰り広げていき、そしてやっと決着がついた。それは神の子供たちの戦いが始まってから、三十年の月日が経とうとしていたころだった。


 ついに『ものを生み出す力』を持った神の子供が、『ものを消し去る力』を持った神の子供を殺したのだ。


 これにより新たな指導者が決まり、世界に平和が訪れた。『ものを生み出す力』を持つ、新たな神は自分たちの敵であった『ものを消し去る力』を持った神の仲間を次々と処刑していき、ついに自分の派閥だけの世界を作り出した。


 その後、新しい神は人と結婚し、自分の子供たちに世界を任せていった。それが今のレイリア王国の始まりである。しかし、そんな平和も、いつの日か突然現れた魔獣によって、新しい神の一族の血は絶えてしまう。


 神の一族が絶え、残された人々は、神の一族で王族に仕えていた者たちに国を任せるようになった。これこそが現在も存在する聖教会の始まりだ。


 そして、聖教会は神と同じ『ものを生み出す力』を持つ者を見つけると、そのものを新たな指導者として、聖教会に向かい入れた。だがなぜか女性しかいなかったため、いつの日か女神と呼ばれるようになったのだ。


 そうしてできた世界が、私たちの生きるレイリア王国である。


 学園の座学ではこのように教えられる。レイリア王国ではこの歴史が当たりのことだ。ちなみに、王族がいないのに王国とつける理由は、神の一族を忘れないためとされている。


 「でもどうして急に創魔記なんて持ち出したの?」


 セレナの疑問は、セイヤ以外が思っていることだ。レイリア王国の一部の者を除いて、ダクリア大帝国の存在を知るものはいない。そもそもそんな存在を考える者さえいないのだ。


 だから直後、セイヤの話す内容に、生徒会メンバー全員が言葉を失う。


 「なあ、もし『ものを消し去る力』を持った神の子が生きていて、逃げ延びていたとしたら、どうする?」

 「セイヤ……?」


 闇属性を知っているユアでさえ、このことには驚きを隠せない。ライガーは闇属性魔法のことは教えてはいたが、外の人間については教えたことはなかった。


 何かの拍子にダクリアの存在を知っていることがわかってしまえば、どうなるかわからない。なので、闇属性の存在とその対処法についてしか教えていなかったのだ。


 「…………」


 リリィは言葉を失うというよりも、何かを思い出したという感じだ。しかし、その顔は何かに不安を感じる顔だった。ダクリアの存在を教えられて驚くという仕草は全くない。


 (思い出しちゃったのね……)


 リリィの中、もう一人のリリィは、誰にも聞こえない声でそうつぶやく。大人姿のリリィはつらそうな顔をしている。しかし、大人版リリィの声は、子供版のリリィにも、聞こえることはなかった。


 「そんなことありえるの?」

 「いくらなんでも証拠がないと思います」

 「信じられません」


 生徒会メンバーは、セイヤの言ったことの可能性を完全に否定しようとする。


 無理もない。闇属性の存在を知っているユアなら今の話を聞いて、『ものを消し去る力』が闇属性であるなら……と考えることができるかもしれないが、闇属性を知らない生徒会にとっては、そんな事実を受け止めることができないから。


 自分たちが今まで習ってきた常識を否定されているのだ。そんなの「実は昔、羽が生えていた人間たちがいて、今も空を飛び回っている」と言うのを信じろと言われているようなものだ。到底信じられるわけがない。


 「まあ、確かにそうだな。でも、この話は本当だ。聖教会の一部では信じられている」

 「それなら、証拠はあるのですか?」


 アイシィが鋭く指摘する。確かに証拠を説明するのが難しい。


 例えばセイヤがここで闇属性を見せて「俺がそのうちの一人だ」と言ったら信じるかもしれないが、その後の信頼関係に問題が生じ、救出作戦に支障をきたすかもしれないためできない。


 セイヤは仕方がないので、そのまま話を進めることにした。


 「今ここで見せることができる証拠はない」

 「では信じることは……」

 「ああ、今はそれでいい。だから、まず最後まで話を聞いてくれ」


 セイヤの真剣なまなざしに、一瞬怯むアイシィ。セレナとモーナは何も言わない。それを見たアイシィも話は聞こうという態度になる。


 本音では、三人ともばかばかしい話と思っていたのだが。


 「『ものを消し去る力』を持った方の神の子は何とか生き延び、今のレイリア王国がある周辺から離脱した。そして、その後、一部の仲間と共に、現在の暗黒領の奥の方へと移動していった」

 「その時に魔獣と戦わなかったの?」


 セレナは静かに話を聴くつもりだったが、暗黒領の移動などできるのか、と疑問に思った。


 それはいくら神の子だからといって、使える力は魔法と変わらない。しかも話を聴いていると、当時の魔法は魔法と言うより魔力のままに近い。そんな状態で暗黒領の奥などに行けば、魔獣が出てきてやられるのが関の山だ。


 そんなセレナの問いに答えたのは、セイヤではなくモーナだった。


 「その頃は魔獣と言う存在はまだいません。魔獣はレイリア王国王族の血が絶えた原因になった問題で、神の子たちの時代にはその存在さえ記されてはいませんよ、セレナ」

 「その通りだ。当時の暗黒領には魔獣などはいなかった。いたとしてもせいぜい野生のクマや虎とかだろうな」

 「なるほど。話を途中で止めて悪かったわね」


 モーナの指摘に納得するセレナ。創魔記は何となく覚えておけばいいものだったので、セレナは時系列をしっかりとは覚えていない。実を言うと、ユアも同じ疑問を抱いたのだが、セレナが聞いてくれたので聞く必要がなかった。


 「気にするな。暗黒領を進んでいた神の子の一団は、レイリアとかなり距離が離れたところに新たな国を建国した。その国の名前はダクリア大帝国と言われている。その国は今も存在している」


 そこでモーナが気付いた。


 「まさかモカさんを攫ったのは……」


 モーナは一瞬にして先ほどまでの余裕を失う。先ほどまでセイヤの言っていることを馬鹿馬鹿しいと思っていたが、セイヤの話は辻褄が合いすぎていた。


 モーナはモカ誘拐の際に疑問を覚えていた。


 それは「なぜこのタイミングに、しかもモカを狙うのか?」などである。この疑問はいたってシンプルだ。現在アクアマリンが行われているモルの街には、数々の観光客が来ている。


 それにより教会関係者は大忙しになり、警備も甘くなると考えられているが、本当は違った。観光客の中には強力な魔法師や、聖教会の関係者なども交じっており、警備面では不安だが、何かあった際には迅速に対応することができる。


 そしてその対応は通常時よりも強力になるであろう。


 しかも『フェニックスの焔』は聖教会も気に留めるほどの代物だ。そんなものを、聖教会関係者が来ているタイミングで攫うのは挑発に近い。


 もし安全に誘拐を起こすなら、アクアマリン終了後一週間が一番いい。そのタイミングなら観光客も減り、警備も元の戻るのだが、アクアマリンを終えたという達成感で、警備が緩くなるから。


 しかし、そのタイミングを選ばなかったということは、聖教会に喧嘩を売る馬鹿か、ただの無知である。


 聖教会に喧嘩を売るということは、つまり十三使徒が出てくるということだ。そんなことをしようとする輩など、まずいない。


 そうなると、残るは無知なものになる。無知と言ってもレイリア王国内でアクアマリンはかなり有名な祭りであるため、事前に調べることはできる。そうすれば、このタイミングはいけないと気付くはずである。


なのに、犯人はこのタイミングを選んだ。それはつまり、聖教会に喧嘩を売ったか、ただの無知か、あるいはその両方である。


 セイヤの話を聴く限り、ダクリアの人間はレイリアの人間のことをいい用には思っていない。それなら今回の事件のことも頷ける。


 モーナはそう考えると、セイヤの言っていることが正しいのではないかと思えてきた。


 「そのまさかだ。モカ=フェニックスを攫ったのは、ダクリアの人間だ」

 「そんなの信じられるわけない」

 「セレナ先輩の言う通りです」


 セイヤの言った結論を否定しようとするセレナとアイシィだが、モーナが二人を止める。


 「彼の言うことは辻褄が合いすぎています。この話を否定するのは難しいです」


 モーナはそういうと、二人に自分の考えを伝える。モーナの考えを聞いた二人は納得こそしていないが、理解はしていた。


 「そんな……」

 「では私たちがこれから向かうのは……」


 言葉を失っている二人にセイヤは言った。


 「そうだ。俺らがこれから向かうのはダクリア大帝国傘下にあるダクリア2区というところだ」


 セイヤが言った目的地は、誰も想像できない場所だ。どんなところなのかもわからない。わかっていることは、ここにいる六人の協力が必須という事だけ。


 ユアはセイヤの言ったダクリアの存在についてすぐに信じた。


 それは考えれば簡単なことである。ライガーから教えられたことは闇属性の魔法についてだが、使い手がいなければ意味がない。


 存在を公表されていない魔法だというのに、教えたということは、ライガー自身が、一度は闇属性の魔法師と遭遇しているからである。


 だが、そんな話を国内で聴いたことがなかった。それはつまり、国外、暗黒領での出来事なのだという事だ。


暗黒領で遭遇する魔法師など、セイヤの言うダクリアの魔法師以外あり得ない。


 「わかった……」


 ユアは強い決心で答えた。その決心の中にはいろいろ含まれていたのだが、一番はセイヤにどこまでもついていくという決心だ。


 「リリィも!」


 先ほどまで不安の色を見せていたリリィだが、今は完全に元に戻っている。いつも通り何も変わらず元気な姿は、どこか空元気にも見えた。


 目的地を言われ改めてチームのまとまりが必要と感じる生徒会。セレナもアイシィもセイヤの言ったことを信じるしかないと認識していた。


 「わかったわ」

 「わかりました」


 二人の心の中には、まだ信じられないという気持ちがあった。しかし、同時に信じなければいけないという義務感もあった。


 残るはモーナなのだがその顔はなぜか先ほどよりも厳しかった。


 「目的地はわかりました。でもその前に教えてください。あなたは、いえ、あなたたちは何者なのですか?」


 モーナの目はしっかりとセイヤに向いている。どうやらその問いに答えないと、いけないと思うセイヤであった。


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