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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
3章 ダクリア2区編
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第75話 暗黒領でお泊り

 太陽が地平線に沈もうとしている頃、セイヤたち六人の姿は暗黒領にある山岳部付近にあった。


 山岳部にはきれいな川が流れており、川原には二つのテントや、焚き火などが見られる。一見すると川原にキャンプに来ている集団のように見えるが、もちろん遊びではない。モカ=フェニックス救出のための先遣隊だ。


 セイヤたち六人は教会を出発して、半日ほど馬を走らせた。


 途中、数か所で門番たちに不思議そうな目で見られたりもしたが、バジルの発行した『十三使徒依頼書』を見るとすぐに態度を改め、セイヤたちを通してくれた。


 そして暗黒領に出たセイヤたち六人は、ノンストップで馬を走らせ、太陽が沈みかけたところで、やっと止まったのだ。


 川原にはセイヤたち以外の人の姿はおろそか、魔獣の姿なども見受けられない。川は緩やかに流れ、中には魚が泳いでいる。セレナたち生徒会は、初めて見る暗黒領に終始驚いているばかりだ。


 実はセイヤたち六人が乗ってきた馬は普通の馬ではなかった。十三使徒たちやその部下たち、または特級魔法師たちだけが使用を認められている『魔装馬』という特別な馬をセイヤたちは使っていた。


 『魔装馬』とは普通の馬とは違い、魔力を使えることのできる馬のことだ。と言っても、馬自身は魔力を生成できないため、乗り手などに魔力をもらう必要がある。


 魔力をもらった馬は、その魔力を動力源としていつも以上の力を発揮することができる。だからセイヤたちは馬を走らせていたのは半日だが、通常の馬では五日ほどかかる道のりを進んでいた。


 もちろん速さを出せば反動もあるため、『魔装馬』は全頭が川原で休んでいる。


 そして当然ながら馬を走らせている途中、セイヤたちは魔獣と交戦した。といっても、一方的な殲滅に近いため、馬を止めることはない。


 セイヤは魔獣を基本的に生徒会に任せ、生徒会が厳しいようなら自分が殲滅するというスタイルをとっていた。これは単に面倒くさいとはではなく、暗黒領初体験の生徒会に、魔獣との交戦を経験させておくためだ。


 生徒会は襲ってきた魔獣のほとんどを殲滅することができたが、中でも飛び道具である『魔装銃』を使うセレナは圧巻だった。


 馬を走らせながら魔獣を見つけると、すぐに『魔装銃』一丁を腰から抜き、魔獣へ向かって魔力弾を撃つ。魔力弾はそのまま魔獣の頭に当たり魔獣は絶命。


 高速で走る馬から寸分の狂いもなく魔獣にヘッドショットを決めるセレナの姿は、カウボーイさながらであった。


 おかげでセイヤの出番は数回しかなかった。ちなみにセイヤが担当したのは、あの魔法のきかないイノシシ頭のクマの姿をしたボアドである。


 その際はセイヤがボアドの足元を闇属性で消滅させ、落とし穴の落とす形で仕留めて来た。


 そして魔獣を倒しながら進んできたセイヤたち六人は川を見つけると、水の確保のため川原で一夜を明かすことを決めた。


 当初はセレナが休んでいる暇はないなどと言っていたが、モーナの説得によりしぶしぶ了承した。一夜を明かすことが決まっても、寝床をどうするかという問題になったが、そこは聖属性使いのユアがいる。


 ユアは聖属性の発生のを使い、テントの骨組みになる鉄の棒や布などを次々生成していき、組み立てた。なぜ、ユアは最初からテントを生成せずに部品から生成したかというと、それはテントの骨組みと布部分があまりのも違いすぎるからだ。


 『聖成』で生成できるのは基本的に一つの材質のものだけ。ユリエルなどの武器は金属を基本としているが、テントは金属と布を必要するため、同時に生成することは難しかった。なので、テントの骨組みと布を分けたのだ。


 このようにして、セイヤたちは教会を出発してから順調にモカ救出作戦を進めていた。寝床を確保したら次に準備するものは食事である。


 幸い、川があるため水には心配する必要はないが、食糧は全くと言っていいほどなかった。そこでセイヤたちは川の中の魚の狙うことにする。


 「ユア」

 「わかった……」


 セイヤに呼ばれたユアはすぐにセイヤの意図を察した。そして、『聖成』を発動して大量のモリを生成する。セイヤは大量のモリをもって川の付近へと歩み寄る。


 「あんたまさか……」

 「さすがにそれは難しいと思うわ」

 「無謀」


 セイヤの考えていることを察した生徒会メンバーは、セイヤのことを馬鹿かと思う。素人がモリで川の中を泳いでいる魚を仕留めようなど、無理に決まっているから。


 そんなことをするよりは、まだ釣りのほうが釣れると思う生徒会メンバー。しかし、セイヤは生徒会メンバーの考えていることをやってのける。リリィの援護のもとに。


 「リリィ、思いっきりやってくれ」

 「うん!」


 セイヤに言われ、リリィは川に向かって思いっきり両腕を上げた。直後、川の一部が川底から盛り上がり、大きな水しぶきを上げる。


 リリィは水の妖精ウンディーネだ。水を操ることなど朝飯前に近い。リリィに操られた水は空中で一瞬だけ止まると、そのまま川へと落ちていく。そして川の水の中には当然、魚も含まれている。


 いくら魚が水中では速いとは言っても、空中では何もできない。セイヤは空中でパタパタしている魚たちに、次々とモリを投げていく。そしてセイヤはあっという間に二十匹ほどの魚を仕留めてしまった。


 「嘘でしょ……」

 「これはすごいわ」

 「馬鹿じゃなかった」


 驚きの光景に言葉を失う生徒会一同。


 「さすがセイヤ……」

 「リリィも頑張ったもん!」

 「ああ、ありがとうなリリィ」

 「うん!」


 ユアに労われながらリリィの頭を撫でるセイヤ。そしてセイヤに頭を撫でられてうれしそうにするリリィ。リリィが頭を撫でられるのを見て、自分もと言うユア。


 そしてその様子を見ている生徒会は、自分たちの常識を疑うのだった。


 「さて、材料は獲れた。あとは調理だが……」


 セイヤは捉えた魚を見ながら、どうするかを考える。なぜなら料理の経験のないセイヤにはどうしていいかわからなかったから。


 そこで自分の婚約者を見るが、セイヤはユアが料理をしているところを見たことがなかった。案の定、ユアはできないと答える。リリィにおいては、本来食事を必要としていなかったため、当然、料理など無理だ。


 そうなってくると、頼みの綱は生徒会になるのだが。


 「仕方ないわね。私がやるわよ」


 そういったのはセレナだった。






 そして数十分後、セイヤたちの前には数々の品が並んでいた。焼き魚、煮魚、魚のスープなどいろいろな種類が。


 「これ、全部鳥女が作ったのか?」

 「そうよ。なんか文句でもあるの?」

 「いや、すごいなと思って」

 「そっ、そう?」


 一瞬、眉をしかめるユアだったが、それに気づく者はいない。セイヤたちはセレナの作った夕飯を食べ始めている。


 セイヤはまずスープを一口口に含む。セイヤがスープを飲んだ瞬間、セイヤの目が鋭くなる。


 「うまい! 本当にすごいな、鳥女!」

 「そっ、そう?」

 「ああ、これなら毎日食べたいぐらいだ」


 スープのおいしさに、セイヤがつい満面の笑みとなる。セレナの作ったスープは出汁がちゃんと取れており、味もまとまっているのも関わらず、どこかインパクトを感じさせるような味だった。


 一口飲んだ瞬間、全身を温かく、包み込むようなそんな感じだ。セイヤの感想を聞いたセレナは、


 「まっ、毎日!? 別にあんたのために作ったわけじゃないんだからね!」

 「ああ、わかっているよ。ただ毎日食べたいぐらいおいしいっていう事だ」

 「わかってるわよ」


 そんなセレナの様子を見ながら、自分も料理の腕を上げようとひそかに決心するユアであった。


 「みんなちょっといいか」


 しかし、そんな和やかの空気も終わりだ。セイヤが全員に向かって、これからの方針を話し始める。


 「これからの方針について話したい。だが、その前に創魔記は知っているか?」

 「創魔記ってあの魔法ができるっていう話?」


 セイヤの問いに、セレナが疑問を返す。


 「そうだ。レイリアができる前、この世界には一人の神がいた。人々はその神のことをあがめ、生活をしていた」

 「しっています。その神には二人の子供がいて、神の子と呼ばれていたって話ですよね?」


 モーナも創魔記については知っている。と言うより、創魔記は魔法学園の座学で最初にならう歴史であった。


 だから授業を聞いていれば、誰でも知っていることだ。知らないという事は、授業を聞いていないという事になるのだが、生徒会を務める三人が、そんなわけない。


 ユアも知っている様子で、残るはリリィだけだったがなぜかリリィも知っていた。


 そしてセイヤは静かに創魔記について、語りだすのであった。

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