第73話 犯人は誰か
バジルはセイヤと二人きりになったところで、現在わかっている事件の情報をすべて伝えることにした。
「それで、詳細っていうのは何だ?」
セイヤの問いに、バジルが一瞬だけ答えるのをためらう。
なぜなら、セイヤにこれから伝えることは、聖教会でも上層部しか知らない事実が含まれており、一般の魔法師はおろそか、特級魔法師にも伝えることが躊躇われる内容だったから。
しかしだからと言って、このことをセイヤに言わないわけにはいかない。バジルは重い口を開き、わかっている内容をセイヤに教える。
「お前は暗黒領に住む人々のことを知っているか?」
「ああ、少しはな」
セイヤは暗黒領に住む人々を知っていると答えた。
もしここに、事情を知らない者がいたとしたら、バジルの言ったことに対して大声で笑うだろう。
暗黒領に住む人などいるわけがない、というのがこの国の常識だ。仮にそんな人がいたところで、魔獣に食われて死ぬのが関の山。それが常識だった。
では、セイヤがなぜ暗黒領に人が住んでいることを知っているのか。答えは初めて魔王モードになったときである。
魔王モードとは、ダリス大峡谷でセイヤが見せたもう一つの姿のことだ。ちなみに命名したのはその時戦っていたリリィ。なんでも、魔王みたいだったから、という理由らしい。
そんな魔王モードになった時、セイヤの中で失われた記憶の一部が戻った。それは父親らしき人物から教えてもらった記憶。
父親らしき人物は、暗黒領にあるダグリア大帝国の構成や、詳しい場所をセイヤに教えていた。
「そうか、なら話は早い。その人々たちは国を作り、国名をダクリア帝国と名乗っている。この情報はつい最近手に入れた情報だから、もちろん他言無用だ」
バジルの言った情報はレイリア王国内でもほんの一部の人間しか知らない機密情報だ。もし、セイヤに流したことが発覚すれば、バジルもただでは済まないだろう。だが、セイヤはそんなバジルの発言を訂正する。
「それは違う。ダクリア帝国はこの国でいう中央王国に当たり、本当の国名はダクリア大帝国だ」
「なに? なぜおまえがそんなことを知っている?」
「企業秘密だ」
セイヤの訂正に、バジルが理由を聞くが、セイヤはもちろん真実を言わない。
バジルはセイヤが聖教会でも認知できていない情報を持っていることに対し、不信感を抱く。しかし今はそんなことを思っている時間はない。
今はダグリアのことよりも、モカ=フェニックスの救出が最優先事項だから。
「まあいい。それよりモカ=フェニックスだが、連れ去った犯人はそのダクリア大帝国の人間の可能性が高い。理由はいろいろあるが、フェニックス家に張ってあった特殊な結界が、消滅させられた痕跡が見つかったのが最大の理由だ」
バジルたち教会側は、状況証拠からそう推察していた。
「なるほどな。それで最大ではない理由は?」
「犯行の手段だ。普通に考えて、レイリア国内の人間による犯行ならもっと緻密にやるはずだ。というより、普通に考えて『フェニックスの焔』を狙おうとは考えない。
だが、犯人は白昼堂々と家を壊して連れ去った。これはレイリア国内でのフェニックス家の立ち位置を理解していない者による犯行だ」
バジルの根拠にセイヤが頷く。
「確かにな。この国で聖教会を敵に回す馬鹿なんていない」
『フェニックスの焔』は特別な魔法だ。
その焔はあらゆる傷を治す奇跡の焔として知られている。しかし、その絶大な効果ゆえに、代償も大きいため別名、「命の焔」と呼ばれ、聖教会に管理されていた。
命の焔とはつまり傷を治す際に、自分の寿命を費やすことだ。血迷った人間がその焔を悪用しないようにと、『フェニックスの焔』は危険指定魔法と認定され、誰であろうと手を出すことを禁じられていた。
「それで、どこに捕らわれているんだ?」
「それはもうわかっているはずだろ? 逆にこっちが教えてもらいたいぐらいだ」
実のところを言うと、バジルたち教会はモカがどこに攫われたか、詳しくはわかってはいない。
現時点でわかっていることは、モカがダクリアの人間に攫われ、暗黒領に連れ出されたという事だけ。だがセイヤはモカがダクリアの人間に攫われたと聞いたとき、すでに大体の目星をつけていた。
「ああ、予想はしている。だが、情報が古いからあっているという確証はない」
「それでもいい。場所を教えてくれ」
バジルはそういうと、大きな地図を持ってくる。
地図をよく見ると、左端の方にレイリア王国が見て取れた。しかしレイリア王国は小さく書かれているため、レイリア国内を見るには不便そうだ。
だが、この地図は暗黒領を見る地図だ。問題はない
「ほう、これはまた、すごいな」
「このことは誰にも言うなよ。本来この地図は十三使徒以上か、特級魔法師しか見ることのできない代物だ」
「だろうな。こんなのが民衆にばれたら一大事だ」
それほど重要な地図をセイヤに見せているという事は、バジルがセイヤのことを信頼しているという証だ。だからセイヤも、バジルのことを裏切る気はなかった。それにセイヤはバジルにかなり助けてもらっている。
闇属性のことを聖教会に報告してないのもそうだが、昨日の生徒会との決勝戦でも、いろいろと助けられていた。
実は昨日、決勝後にリリィの姿が変わっていることが話題になった。
さすがにリリィが妖精と言う者はいなかったが、大人の魔法師が魔法で訓練生に化けて参加していた、とか、あの年であの実力はおかしい、などと言う、セイヤたちの不正を疑う声が上がったのだ。
それに対し、バジルは解説で水によって姿を変えることによって自己を高める一種の自己暗示と紹介した。
十三使徒がそう言うならば、正しいのだろうと皆納得して、不正の声は一気に収まったのだ。
さすがにバジル自身もこの説明はどうなのかと思ったのだが、リリィが妖精と言うわけにもいかないので、ああ言うしかなかった。何はともあれ、セイヤたちはバジルのサポートによって何とか力を隠すことができていたのだ。
「さて、居場所だが、ここだと思う」
「ここか?」
「ああ」
セイヤの指さした場所何も書いていない更地だった。しかしバジルの目は真剣だ。
「では、すぐに部隊を」
「やめておけ。教会の主要部隊でも、この辺には通用しない」
セイヤの考えを聞き、バジルは考えを改めなおす。確かにセイヤの指す位置に教会の部隊を派遣したところで、結果が得られるとは思えなかったから。
「わかった。現在暗黒領に派遣している部隊を一度すべて帰投させ、その後周辺の警備のでも当てさせよう。キリスナ=セイヤ、この辺の魔獣を倒すにはどれくらいの力が必要になる?」
セイヤは少し考えて、大体の見積りを答えた。
「少なくとも、魔獣一体には上級魔法師が十人弱は必要だな。下手したらもっと必要になるかもしれない」
「そんなにか?」
「ああ、だがこれは希望的観測も含んでいる。実際はもっと手ごわいだろうな」
セイヤの言葉に嘘はない。
「わかった。つまり教会の主要部隊では相手にならないという事だな」
「そうなる」
策を考えるバジルに、セイヤが聞く。
「どうする?」
「警戒態勢をアルセニア魔法学園に要請したいが、この祭り中では難しいだろうな」
「それにあんまり部外者を関らせたくないんだろ?」
「まあな。十三使徒としては少数での解決を希望したいが、さすがに派遣する部隊がお前たち六人と言うわけにもいかない」
バジルの言葉を聞き、セイヤは少し考えるそぶりを見せる。
「なあ、バジル。お前の部隊が来るとしたらどれくらいだ?」
「私の部隊か? 早くてもここに着くのが一日、それからここに行くにしたって準備があるから三日以上はかかる」
セイヤはその言葉を聞き、すぐにどうするかを決めた。
「それなら大丈夫だ。俺らが先遣隊としていく」
「しかし」
おそらくセイヤの策が一番効率的であり、犠牲も少ないだろう。だが、それは同時にセイヤたちの危険が高まるということでもある。そんな作戦をバジルが了承できるわけもない。
「安心しろ。俺らにはまだ隠している力がある。いざとなればあいつらの前だろうと闇属性を使うし、力を隠したりはしない。最優先事項を六人の無事に設定するから問題ない」
「だが、それでは」
立場的に認められないバジル。しかしセイヤはそんなバジルに大事なことを言う。
「わかっていると思うが、救出作戦は時間との勝負だ。時間が経てば経つほど、被害者の生存が怪しくなる」
セイヤは心の中で自分が捕まった時のことを思い出す。
捕まって三日ぐらいは大丈夫だろうと安心していたが、実際にはすぐに臓器提供のために殺されそうになった。
その記憶から、捕まったら安心できる猶予などはないと勉強させられた。だからこそ、セイヤは焦る。
それはバジルにもわかっていることだ。
「仕方がない。お前たちには申し訳ないが、先遣隊を頼む。こちらも十三使徒を三人は連れていくように、上と掛け合ってみる」
「了解した」
「それとこれを持っていけ」
「これは……」
バジルがセイヤに手渡したのは一つの青く輝く石。
「念話石だ。と言っても繋げる先は私一人だがな。何かあったらその念話石を使え」
「ありがたく受け取っておくよ」
「では、聖教会十三使徒バジル=エイトの名をもってキリスナ=セイヤ以下六名に依頼をする。暗黒領に行き、我ら聖教会の部隊が到着するまで持ちこたえよ」
「依頼を受諾する」
これにより、セイヤたちはバジルからの依頼を受けたことになる。
「任せたぞ、キリスナ=セイヤ」
「ああ、お前が来る前にすべて終わらせてやるさ」
「ぬかせ」
話し合いを終えたセイヤとバジルは小会議室から出た。




