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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
3章 ダクリア2区編
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第71話 バジルを呼べ!

 セイヤの発言に対し、こいつ頭大丈夫? といった表情を見せる受付嬢。それは受付嬢だけでなく、セレナたちも一緒だった。セイヤはいきなり十三使徒を呼べ、だけではなく、バジルと呼び捨てにしたのだ。


 「ちょっとロリコン。バジル様を呼べ、って無理があるでしょ」

 「そうですよ。いくらなんでも十三使徒様を呼ぶのは」

 「しかも呼び捨て」


 生徒会の批判を受けてしまうセイヤ。だが、ユアとリリィは驚いていない。


 二人はすでにバジルのことをセイヤから聞いていた。そして同時に、バジルを呼ぶ必要があるくらいの大きな案件だと理解し、息をのむ。


 ナーリはというと、周りの大人の視線が怖くて、セレナに隠れていて会話の内容を聞いていない。


 「えっと、用件は?」

 「だからバジルを呼んでほしい」

 「だからどのような用件で、でしょうか?」

 「それは……」

 「ちょっと待ってもらおうか」


 セイヤと受付嬢の会話に入ってきたのは茶髪の大体二十代後半に見える少しチャラそうな男。男はセイヤに向かい合うが、セイヤを見ずに、セイヤの左右にいるユアとリリィを舐めまわすように見つめた。


 その目は下心丸出しで、気持ち悪い視線を感じた二人は、セイヤの背中へと隠れる。


 「へぇ、両手に花か。いいご身分だ。お前、名前は?」

 「キリスナ=セイヤ」

 「何? お前が例の特級の……」


 セイヤが名乗ると、広場がざわつく。実はセイヤ、ここら一帯の魔法師たちの間ではかなり有名になっていた。特級の娘の婚約者に突如現れた謎の初級魔法師、として注目されていたのだ。


 しかもキリスナという一族は誰も知らず、ほかの地方でも聞かないため、一体何者なのかと疑問を集めている。


 男は驚きながらもすぐに言った。


 「お前がどうやって特級の懐に入り込んだのか入らないが、十三使徒になんのようだ?」

 「お前に言う必要はない」

 「貴様」


 セイヤのぶっきらぼうな態度に対して、男が怒り露わにし始める。そしてあろうことか、魔法の詠唱を始めた。


 教会の広場で魔法を使うなど言語道断である。しかし男は、セイヤの態度が気に食わなかったため、つい詠唱を始めてしまったのだ。


 「特級の婚約者になったからって、無名の初級が図に乗るなよ。上級の力を見せてやる。わが火の魂、火の巫女のもとに顕現す、いざなの舞……」


 男は次々と詠唱をして、魔法陣を赤い展開させていく。どうやら男の行使しようとしている魔法は火属性をベースにしているらしい。


 セイヤは茶髪の男を冷ややかに見つめる。


 一方、周りの魔法師たちは、茶髪の魔法師が魔法を行使しようとするのを見るや、すぐ防御魔法を発動していく。


 それは男を止めるのではなく、自分の身を守ることを選択した、ということだ。


 「はぁ」

 「セイヤ……」

 「そうだな」


 セイヤは周りの大人たちに落胆しながらも、男を止めなくてはいけないことにため息をつく。


 セイヤに対し、男は上級魔法を発動しようとしているのか、多重に魔法陣を展開させていく。その何重にも展開された魔法陣が、これから行使されるであろう魔法の威力を物語っていた。


 しかし、誰もが強力な魔法が放たれると思った次の瞬間。


 パチン


 乾いた空気に響いた音と同時に、茶髪の男が発動しようとしていた魔法陣が跡形もなく姿を消した。


 茶髪の男は何が起きたのかを理解できていない様子で、周りの大人たちも、いまだ防御魔法を展開している。


 そんな中、セイヤだけが鳴らした指を見ながらため息をついた。


 「はぁ」


 セイヤが使った魔法は、闇属性初級魔法『闇波』である。


 本来なら魔法名を言うところを、かわりに指を鳴らすことで魔法を発動させたのだ。しかし教会の広場で闇属性魔法を使ってよかったのか、というと、答えは大丈夫だ。


 なぜならセイヤは教会に入った瞬間、建物内にいる人のレベルを図っていたから。その結果、建物内で闇属性を感知できる魔法師はユアとリリィ、そしてバジルの三人だけだった。


 どうやら教会の主要部隊はモカの事件か、アクアマリンの警護に出ているらしく、姿はない。


 そして広場にいる魔法師も、そんなにレベルが高くはなく、魔法名を言わなければ、闇属性がばれる心配もなかった。


 セイヤの闇属性魔法を感じることができる。


 つまりそれは言い換えれば、闇属性を使えばセイヤが来ていることを、バジルに直接伝えることができるということだ。


 そしてセイヤの思い通り、バジルが鬼の形相でカウンターの裏から出てきた。


 「バッ、バジル様!?」


 バジルの急な登場に受付嬢が驚く。それは広場にいたすべての魔法師も同じだ。セレナたちも例外ではない。


 バジルは広場の中にセイヤの姿を見つけると、鬼の形相でセイヤのことを睨らむ。


 「一体どういうつもりだ、キリスナ=セイヤ?」


 その言葉にはなぜ教会に来た? そしてなぜ教会で闇属性魔法を使った? など多数あったが、セイヤは用件を素早く伝える。


 「誘拐事件について話がある」

 「なぜそれを……?」


 セイヤの用件を聞き、一瞬で冷静になるバジル。しかしすぐにバジルはセイヤの後ろにいる二人の赤髪の少女に気づいた。


 「この子たちを通してくれ」

 「いいのですか?」

 「問題ない」


 受付嬢は何か言いたげであったが、バジルの纏うオーラに負け、セイヤたちを奥に通す。


 「わかりました。それではどうぞ」

 「ありがとな」


 セイヤたちはバジルについていき、教会の奥へと消えた。






 バジルによって案内された場所は小会議室のような部屋だった。どうやらそこで事情説明が行われるらしい。


 セイヤは小会議室に入る前、リリィとナーリに外で待たせる。これは単純にナーリに心配をかけたくないというセイヤなりの配慮だ。そしてナーリを一人で不安にさせないようにと、リリィも部屋の外で待たせる。


 リリィもセイヤの意図を理解したようで、快くセイヤの提案を受ける。


 「ありがとう、ロリコン」

 「なにがだ?」

 「ナーリのこと」

 「気にするな」


 部屋に入る直前、セレナからお礼を言われたセイヤだが、当然のことだと言って軽く流す。


 全員が席に着くと、バジルが話し始める。その口調は広場の時とは違い、優しい男性のものだった。


 「初めまして、ですね。聖教会十三使徒のひとりバジル=エイトです。普段は中央王国にいるのですが、今は仕事でこちらの方に来ています。あなたがフェニックス家の長女で間違いありませんよね?」

 「はい。セレナ=フェニックスと申します」


 バジルはいきなり本題には入らずに自己紹介から始める。


 セレナのことや、他のメンバーのことも、決勝戦で解説を務めたバジルはある程度知っていたが、あえて自己紹介をすることで、セレナを落ち着かせようとする。


 一通り自己紹介を済ませるとバジルが本題へと入った。


 「それでは本題ですが、先ほどセレナさんの母上、モカ=フェニックスさんが何者かに攫われました。犯人はわかっていませんが、おそらくモカさんはすでに暗黒領に連れ出された可能性が高いです」

 「そんな……」


 セレナは暗黒領という単語を聞き言葉を失う。なぜならその言葉は一介の魔法学園の生徒にはあまりにも重すぎる言葉だったから。


 セイヤたちや、暗黒領実践を導入している学園は例外だが、通常、魔法学園の学生時代に暗黒領と関わることなどまずありえない。


 そのため、暗黒領という言葉は魔法学園の生徒にとって、言葉を失わざる負えない絶望的な単語なのだ。


 一方、セイヤとユアは暗黒領へ攫われたというフレーズに眉を顰める。それはかつて自分たちが経験したことを思い出したから。


 言葉を失っていたセレナに代わり、セイヤが質問を続ける。


 「犯人はわからないということはフレスタンの上級魔法師一族とは別口ってことか?」

 「そうだ。すでにその一族は解体されている」


 セイヤの言うフレスタンの上級魔法師一族というのは、かつてセイヤたちが攫われたときの黒幕のことである。


 セイヤはモカが火属性使いの魔法師ということを知っているため、事件のことを思い出すが、すでに黒幕の一族はバジルの手によって潰されていた。よってその可能性はない。


 モーナたちは、セイヤがバジルと対等に話している姿に驚いていたが、セイヤは気にせず話を進める。


 「何か情報は?」

 「犯人はわかっていないが、犯人の目的はわかっている。犯人の目的は……」

 「『フェニックスの焔』」

 「そうです」


 バジルが犯人の目的を言う前に、セレナが答えた。


 『フェニックスの焔』、それはフェニックス家に伝わる固有魔法であり、その力は絶大。レイリア国内でも一目置かれるような魔法だ。


 セイヤも本で読んだことがある程度で、その詳しいことは知らない。だがバジルたち教会関係者は状況から判断して、この『フェニックスの焔』が犯人の目的だと確信している。


 「現在、教会だけではなく聖教会もこの事件に動いています。なので、あなたたちは待っていてください。必ず見つけるますので」


 バジルの言葉はごく普通のことで、当然の判断だ。セイヤもこうなることを予想していたし、モーナたちもそう思っていた。


 しかし、モーナはセレナの顔を見て察した。彼女がこれから何をしでかそうとするのかを。


 モーナが慌ててセレナのことを止めようとしたが、その時にはもう遅かった。


 「私が助けに行きます」


 部屋の中に、セレナの声が響いた。


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