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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
2章 アルセニア魔法学園編
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第69話 アクアマリン

 生徒会と激戦を繰り広げた翌日の朝、セイヤはいつも通り自分の部屋のベットで目を覚ます。しかし今日はいつもと一緒ではなかった。


 ベッドの上に、セイヤ以外の人影が見える。ユアだ。昨晩、ユアは自分の部屋ではなく、セイヤの部屋で寝ていた。いつもならユアがセイヤの部屋に来ると、リリィもついてくるのだが、昨晩はユア一人だけがセイヤの部屋に来ていた。


 なぜなら、リリィは家にいなかったから。リリィは今頃、ナーリの家で起きているのであろう。


 昨日、生徒会との激戦を終えたセイヤたちが表彰などを受けた後、ナーリと合流して、祝勝会を開いていた。そこでナーリが、リリィに泊まりに来ないかと提案し、そのままリリィはナーリの家にお世話になっている。


 だからセイヤとユアは、久しぶりに二人で一夜を一緒に過ごしていたのだ。


 セイヤはセイヤの横で眠るユアのことを起こす。ユアはまだ少し眠そうにしていたが、今日は寝坊するわけにもいかなかった。


 「起きろ、ユア」

 「んっ、セイヤ。おはよう……」

 「おう、おはよう」


 ユアはセイヤに挨拶すると、そのまま軽くキスをする。セイヤも避ける必要もないので、ユアのキスを受け止めた。


 二人はお目覚めのキスを済ませると、朝食を食べるために食堂へと向かう。


 食堂にはすでにライガーとカナがいた。


 「起きたか」

 「おはよう。二人とも」

 「ああっ」

 「おはよう……」


 二人が席に着くと、朝食が運ばれてくる。そして運ばれてきた朝食を食べ始めると、ライガーが話を切り出す。


 「昨日は言えなかったが、お前らはもうアルセニア魔法学園の代表に内定している。つまりレイリア魔法大会に出場するということだ。わかっていると思うが、くれぐれも力のセーブには気をつけろよ。レイリア魔法大会は聖教会の主催だからな」


 レイリア魔法大会、実はその意図は各地の優秀な魔法師を集め、女神が治める聖教会の新たな人材を探すための祭りなのだ。なので、現在も有望な学生たちはレイリア魔法大会を通し、聖教会にスカウトされることがある。


 「大丈夫だ」

 「だいじょうぶ……」

 「そうか」


 そこでカナが話題を変えた。朝食の席でそんな重いお話よりも、楽しいお話をしましょうというカナの心遣いだ。こういうところは特級魔法師の妻である。


 「ところで、二人は今日のアクアマリンには行くのかしら?」


 アクアマリンとは毎年六月の終わりに行われる水の巫女への感謝を込めた祭りで、レイリア王国全土でも有名な祭りの一つ。今日から三日間、モルの街で開かれる。


 「ああ」

 「行く……」

 「二人で?」

 「そうなるな」

 「リリィはいないから」


 セイヤとユアはアクアマリンに参加する気だった。


 リリィは一日目の今日をナーリと回るらしく、二日目以降にセイヤたちと行く予定になっている。なので、初日の今日は必然的に二人きりになってしまう。


 「そう、あんまり人前でイチャイチャしちゃだめよ」


 カナはにこにこしながら、セイヤたちをからかう。


 「大丈夫、場所は選ぶ」

 「うん……」

 「あら」

 「はぁ」


 セイヤとユアの発言にカナは笑いながら流し、ライガーはため息をつく。朝食の時間はそんな感じで終わっていった。






 アクアマリン当日は前夜祭とは比べ物にならないほど賑やかになる。屋台の数は前夜祭の倍くらいになるのだが、それよりも人の数が違っていた。


 全長二キロの大通りを、どこもかしこも人が埋め尽くし、移動するにもひと手間では済まないほどだ。おまけに、最終日にはここを神輿が通るのだから凄い。


 だから必然的に初日と三日目はかなり人が多くなる。そんな人ごみの中に、セイヤとユアはいた。


 二人ともいつも通りの制服ではなく、私服だ。セイヤは黒いパンツに半袖のワイシャツといったスタイル、ユアは白いワンピースに大きな麦わら帽子をかぶっている。


 ユアの白い肌に白いワンピースはとても似合っており、通りがかる人は誰もが振り向いて、ユアを見るほどだ。しかし、ユアがセイヤと腕を組んで歩く姿を見るや、男性陣はセイヤのことを睨む。


 だがセイヤはそんなことを気にせず、祭りを楽しんでいた。


 「それにしてもすごいな」

 「毎年すごい……」

 「毎年来ているのか?」

 「うん……お父さんの仕事で……」

 「そっか。じゃあもう飽きちゃったか?」

 「ない……セイヤと一緒だから楽しい……」

 「ありがとな」


 甘い雰囲気を醸し出す二人に、周りはまるで綿あめを食べ過ぎたぐらい、口の中が甘くなるのを感じる。


 カナの忠告をさっそく忘れてしまっている二人。それも無理はない。なぜなら最近ゆっくりすることができなかったから。


 転校やら、ファンクラブやら、親衛隊やら、学園選抜を決める試合やら、で全然ゆっくりできてなかった二人は、久々の時間を満喫していた。そんなとき、ユアがあるもの見つける。


 「セイヤ……あれ……」

 「んっ? あれは……また縁があるな」


 セイヤは苦笑いしながらユアが見つけたものを見る。ちょうど向こうも気づいたらしく、セイヤたちの方に来た。


 「ロリコンも来ていたんだ?」

 「ロリコンじゃない、鳥女」

 「何よ、鳥女って!?」

 「だってそうだろ。フェニックスって不死鳥じゃねーか。鳥だろ?」

 「だからって鳥女はないでしょ」


 ユアが見つけたのは、つい昨日、激戦を繰り広げた生徒会メンバーだった。ちなみに言わなくてもわかるが、鳥女とはセレナのことである。


 「お前らもアクアマリンの見物か?」

 「ええ、そうです。それと遅れてしまいましたが、優勝おめでとうございます」

 「あぁ、ありがとな」


 セイヤたちが昨日生徒会に勝利した後、生徒会メンバーに会うことはなかった。


 三人とも意識を失っていたため、会えなかったのだ。なので、決勝戦以来、初めて会うことになる。三人も制服ではなく私服だ。


 セレナは黒いニーソにミニスカ、上はティーシャツでどこか子供っぽい。


 モーナはユアと同じくワンピースなのだが、ユアとは違い出るところは出ているので、それそうの色気がある。


 アイシィは白いティーシャツにホットパンツにサンダルと比較的動きやすそうだ。


 三人の私服姿は普通に可愛く、先ほどから男性陣の視線を集めていた。もちろんその中にはセイヤの嫉妬のまなざしが含まれている。


 「それにしても、昨日の作戦は手ごわかったな。最後の凍結魔法はやばかった」

 「うん……危なかった……」


 話題は必然的に昨日の決勝戦のことへ。


 「ありがとうございます。まさかあれを破られるとは思ってなかったです」

 「そうよ。絶対勝ったと思ったのに」

 「まあ、今日は戦いのことを忘れて楽しみましょう」

 「そうだな」


 モーナの提案で、戦いのことは忘れて祭りを楽しむことにする六人。だが、セイヤはそこであることを思い出す。


 「あっ、鳥女」

 「何よ?」

 「ありがとな」

 「はぁ? 何がよ? もしかして昨日の試合で全魔力を使ってくれてありがとうって意味?」


 セレナの言葉に思わず笑ってしまうセイヤ。それはユアやモーナたちも同じであった。セレナ以外はセイヤのお礼の意味が分かっている。


 「ちげーよ。リリィのことだ。昨日、お前の家にお世話になっただろ。そのことだ」

 「そういうことね。別に気にしなくていいわよ。ナーリの友達なんだから。それにリリィちゃん可愛いし」


 リリィの泊まっているナーリの家は、ナーリの姉であるセレナの家でもある。


 「そうか」

 「ええ」

 「じゃあ、またな」

 「ええ、また」


 セイヤたちはそこで別れようとした。しかしそこで、セイヤの脳内に声が届く。リリィからの念話だ。


 (…………ヤ! …………ヤ! 大変!)

 (どうした、リリィ?)

 (セイヤ! 大変! ナーリのお母さんが攫われた)

 (なに?)


 セイヤは念話を聞き、とっさにセレナの腕をつかんで、引き留めるのであった。



 いつも読んでいただきありがとうございます。今回を持ちまして二章は終わり、三章へと入ります。三章では今までとは打って変わってセイヤたちが再び本当の戦い(命を懸けた戦い)に入っていく予定です。

 それでは次もよろしくお願いします。


 あらすじとしては「アクアマリンを楽しんでいたセイヤに突如届いたリリィからの念話。その内容はセレナとナーリの母であるモカが攫われたという驚愕の知らせだった。

 十三使徒であるバジルに協力を仰ぎ、モカの救出を試みるセイヤたちだったが、モカを攫った犯人は思わぬ人物で救出は不可能!? 

 (うごめ)くダクリアの魔の手とそれに対抗しようとするセイヤたちの命を懸けた戦いが今始まる」

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