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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
2章 アルセニア魔法学園編
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第65話 女の本性

 ユアが何かをしようとするのを確信したモーナだが、激しい戦闘は魔力消費を早めるだけなので、少しでも時間を稼ぐことを考える。


 それに対し、ユアは新たな魔法を行使した。


 「『局光(きょっこう)』」


 ユアが魔法を行使した直後、ユアの姿に変化が訪れた。きれいな二つの紅眼のうち、右目だけが光属性の魔力を纏う。


 よくよく見れば、両足、右腕にも光属性の魔力を纏っている。


 その姿は、『纏光(けいこう)』を行使しているセイヤに似ていた。


 「けりをつける」


 ユアはそういうと、駆け出して加速する。その加速度は、先ほどとは比べ物にならないほど速かった。


 「無駄ですよ」


 モーナは後方で浮遊するナイフを、次々とユアに向かって放つ。モーナの放ったナイフは亜音速に近い速さだった。


 ユアが加速した分、向かってくるナイフの速さも加速したのだ。


 ユアは左目を閉じ、右目だけに集中する。


 ユアの右目に見える視界からは色が消え、モノクロの世界に変化する。せまり来るナイフがまるでスローモーションのように映り、ユアはそのナイフ一本一本の先端にユリエルを滑らせ、ナイフを上下に両断していく。


 ナイフは次々と二つに両断させられ、地面に散っていき、ユアはそのままモーナへと斬りかかった。しかしモーナに斬りかかろうとした瞬間、ユリエルは何かによって防がれる。


 「まさか、こんなにすぐ私のナイフの弱点がばれてしまうとは」


 驚きの表情を見せるモーナ。


 「あなたのナイフは『風道』を基本としている……『風道』は風の道を通す際、通す対象の大きさを、あらかじめ設定しておく必要がある……。

  だからあなたは同じデザインのナイフを何本も持っていた……そして大きさが決まっているならば、その大きさを変えればいい……」


 それこそがユアの確信だった。


 「正解です。確かに私の『ハリケーン』の原理はあっています。しかし、これについては気づかなかったようですね。私の周りにもガード用の『ハリケーン』があるってことを」


 モーナの保険とはこのことだった。


 モーナは常に『ハリケーン』を自分中心に展開することにより、常時シールドを張っていたのだ。風のシールドというのは、風速によっては鋼鉄並みの固さにもなりうる。


 そして、モーナはユアの使う武器を見て確信していた。彼女のユリエルとユリアルでは、鋼鉄の硬さを誇る『ハリケーン』を貫けないと。


 更に、リリィは常に後方支援のため、攻撃してくることはないと思っていた。だがその思い込みこそが、モーナの敗因であった。


 「油断はだめ……」

 「えっ?」


 ユアばかりに気を取られ、リリィへの警戒を怠っていたモーナ。次の瞬間、太い水の筒が、様々な方向からモーナに襲い掛かる。


 太い水の筒は、あっという間にモーナを中心に入り組むよう形成していく。そしてその姿はもう観客席からは見えない。


 モーナは水に飲まれる直前、『ハリケーン』の形状を変化させ、球体にして自分の身を守る。


 「あら~? そんなので、水を防げるのかしら?」


 水の世界の中で妖艶な声が響いた。


 その声は、モーナの知っているリリィの声ではない。モーナが水中に目を向けると、一人の女性を見つけた。


 その女性は、どこかリリィに似た顔立ちをしていたが、モーナは同一人物だとは気づかない。


 「あなたは誰ですか?」

 「私? 私はリリィ=アルーニャよ」

 「それを信じろというのですか?」


 モーナは本能的には目の前にいる女性がリリィとわかっていた。


 魔法師の発する魔力は、人それぞれで、指紋のように違う。だが目の前の女性から発せられる魔力は、リリィととても似ていた。しかし、いくら本能的にわかっていても、常識的に考えて理解できない。


 「いったい何者ですか?」

 「そうね、セイヤ君の愛人ってとこかしら」

 「そうですか」


 こんな二つの姿を持つ女性が愛人とは、セイヤも大変だなと思うモーナ。それと同時に、いったいどうやってこの女性を自分のものにしたのかという恐れを抱く。


 だが、モーナの心の中では違う感情のほうが占めていた。


 「二重人格とは重たい女ですね」


 そう、モーナは本能的に大人版リリィのことを受け付けなかったのだ。


 正確に言えば理由はわからないが、なんかむかつく、という感情である。実はリリィもそんな感情を、モーナに対して持っていた。


 よって起こることといえば、女の争いである。


 「風の中にこもっている根暗女よりはましだと思うけどね」

 「誰が根暗ですか。そういうあなたこそ、少女の中に隠れている根暗じゃないですか」


 その争いに魔法はない。ただの口喧嘩だ。


 「言うわね。あんたこそ、そんな猫かぶって、いい子ぶっているんじゃないわよ」

 「はっ? 猫なんてかぶってないから」

 「ほら、さっきまでの敬語はどこに言ったの? それがあなたの本性でしょ。外面はよくても、内心で何を考えているかわからない女とか怖すぎでしょ」

 「少女に潜むババァには言われたくないわよ」

 「ババァですって?」

 「ええそうよ。どう見たって学生じゃないでしょ」

 「そういうのをお姉さんっていうのよ。これだからガキは」

 「ガキって言っている時点でババァって認めているじゃない」

 「はぁ?」

 「あぁ?」


 この時二人は確信した。なぜ、お互いがお互いを嫌いなのか。


 それは簡単に言ってしまえば同族嫌悪、キャラがかぶっているということだ。なので、お互い本能的に相手のことを嫌っていた。


 実を言うと、二人は言い争いながら、いつの間にか水の筒の中に入っていた。そして、水の筒の中を流れている水に乗って移動していた。


 水が流れるということは、必ず出口と入り口が存在する。


 それはこの水の筒も同じだ。リリィはモーナと言い争いながらも、水の制御をして、出口から出るタイミングを計っていた。




 一方、ユアはというと、水の筒が出現すると同時に戦闘域を外れ、少しばかり体を休めていた。ユアが先ほど使った『局光(きょっこう)』は言ってしまえば劣化版『纏光(けいこう)』である。


 セイヤの『纏光(けいこう)』は、体全体を光属性の魔力で纏うことにより、身体能力から脳の処理速度まで、すべて上昇させるという技だ。しかしその分リスクも高い。


 そのため、セイヤのように闇属性の魔力を併用しないと危険な魔法であった。


 『局光(きょっこう)』は上昇させる部位を選択し、その部分だけを上昇させるという魔法だ。『纏光(けいこう)』よりは、リスクが低い。


 上昇させる部位を決めることにより、セイヤのように全身に纏わなくてもそれに近い状態に持っていくことはできる。


 だからと言って、負担がないわけではない。ユアの足は限界を迎え、痙攣していた。今までにも足だけの上昇は使っていたが、今回は脳や目も上昇したことにより、今までよりも格段に加速度が大きく、足が耐えられなかったのだ。


 仕方がないので、ユアは聖属性の魔法を少しだけ行使する。使う魔法は『聖歌(せいか)』という再生魔法に近い魔法だ。これにより、ユアの足は加速する前の状態に戻る。


 体を万全にしたら、次はモーナを倒すための武器を生み出さなくてはならない。


 モーナのバリアは堅い。斬れない、貫けない、なら、叩きつければいい。ユアはそう考え、『聖成(せいせい)』を行使して新たな武器を生成する。


 「ユリウル」


 ユアが生成した武器、それは白を基調とし、金色のラインが入った大きなハンマー。


 しかし、重いため、ユアは持ち上げることができない。そこで、自分の両腕に再び『局光(きょっこう)』を行使するユア。


 これにより、ユアの腕力が上昇して、ユリウスを持てるようになる。


 ユリウスを持てるようになったユアは、所定の位置で構えるだけだ。そこはリリィがモーナを水の筒から放り出すことになっている場所。


 だからユアはしばし待つ。



 

 一方、水の筒の中では。


 「おばさんのくせに、色っぽさ出しているんじゃないわよ」

 「いくら色気がないからって、そんなにひがまなくてもいいのよ」

 「誰がひがむものですか」

 「そうかしら?」


 いまだ言い争いは続いていた。しかし、リリィの言葉にはいつの間にか棘がなくなっている。チラッと水の外を見るリリィ。


 (ユアちゃんも準備できたようね) 


 リリィの一瞬だけ笑顔を浮かべる。だが、モーナは冷静さを失っているため、気づいていない。


 「まあ、お子ちゃまは、そろそろおねむの時間よ」

 「はっ?」


 リリィの謎の発言に眉を顰めるモーナ。


 「えっ?」


 しかし次の瞬間、モーナは自分が落下していることを認識する。


 さっきまで水の中を流れ、まるで無重力空間にいるような感覚だった。だが今は、体中が重力に襲われている。


 普通なら、すぐに落下に対策をしなければいけないのだが、球体の『ハリケーン』に守られているという安心感が、モーナを油断させた。


 「これで終わり……」

 「えっ?」

 「貫けないなら、打ち砕けばいい……」


 球体に包まれながら落下していくモーナに対し、まるでホームランバッターのような構えでユリウルを構えるユア。


 モーナはとっさに新たな魔法を行使しようとしたが、遅かった。


 ユアがすでにテイクバックを始め、打つ準備は万端。


 「いけ……」


 ユアの芸術的なスイングが、モーナに襲い掛かる。地面と平行に振られているユリウルは、そのまま風の球体に包まれるモーナにジャストミートして、そのまま弾丸ライナーのように飛んで行く。


 「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 そしてモーナはそのままスタジアムの壁に激突した。


 「モーナ?」

 「モーナ先輩」


 スタジアムの壁に激突したモーナに、セイヤと戦っていたはずのセレナとアイシィが駆け寄ってくる。


 「大丈夫です。ちょっと油断してしまいました」


 風の球体があったおかげで、ある程度のダメージは防げたモーナ。口調は先ほどとは違い、いつもの口調に戻っていたが、ユアと大人版リリィを見る目はまだ猫をかぶれていなかった。



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