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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
2章 アルセニア魔法学園編
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第62話 生徒会の力

 最初に動き出したのはセレナだった。セレナは両足のホルスターから拳銃を二丁抜き、セイヤに向けて引き金を引く。撃ち出された弾は、実弾ではなく魔力の弾。


 セレナの拳銃は普通の拳銃とは違い、赤い銃身は長方形になっており、銃口には赤い魔晶石が刺さっている。そして、銃口に刺さっている魔晶石から魔力の弾が撃ち出された。


 この拳銃は、『魔力供給型拳銃』、通称『魔装銃』と言われるもので、魔力をそのまま打ち出す武器だ。普通に考えれば、これほど便利な道具をみんなが使用してもおかしくないのだが、この魔装銃には欠点があった。それは魔力効率である。

 

 魔装銃は自分の体内にある魔力を、そのまま魔装銃に取り込み、その魔力を魔晶石に保存された魔法、『変形』で魔力の弾に変形させて撃つ。そのため、魔力の消費が著しく、戦闘で使うものはほとんどいなかった。


 そんな魔装銃を二丁も使い、開幕直後から連射しているセレナからは、彼女の莫大な魔力量を伺うことができる。


 セレナの連射に対し、セイヤはホリンズを召喚して、魔力弾をすべて撃ち落とす。


 「おおおお、開幕直後からなんと高レベルな試合! これが決勝ブロックの戦いだぁぁぁぁぁぁ。バジルさんはこの試合をどう見ますか?」

 「そうですね。セレナ選手の魔装銃はかなり珍しいです。しかも二丁とは彼女の才能がうかがえます。十三使徒にも彼女と同じく二丁魔装銃使いがいますが、そん色ないですね」

 「なんとぉぉぉぉぉぉぉぉ! セレナ選手は十三使徒にもそん色がないほどの力ぁぁぁぁぁ。果たしてそんな相手に彼らはどうするのか」


 実況席の言葉を気にせず、セレナは容赦なく連射する。しかし、セイヤはそのすべてを、何事もなかったように斬り落とした。


 「やるわね」

 「そりゃ、どーも。だが、こんなものじゃないだろ?」

 「まあね。アイシィ!」

 「了解」


 セレナが後ろにいた無表情な少女、アイシィのことを呼ぶと、アイシィは左手を前に出した。


 「『アイス・ド・アーチャー』」


 次の瞬間、アイシィの左手には、氷でできた弓が握られる。そして、右手には氷の矢が握られ、アイシィはその矢を弓でセイヤに向かって放った。


 セレナはアイシィが矢を放つことを確認せず、セイヤに向かって連射する。セレナに連射されながらも、矢を放たれたセイヤは、先ほど同様に、セレナの弾だけを斬り落としていた。


 アイシィの放った矢には目もくれず、魔力弾の対処をするセイヤ。


 セイヤがにやりと笑みを浮かべた瞬間、アイシィの放った氷の矢は、セイヤの後ろから飛んできた光の矢によって撃ち落とされる。


 もちろん、その矢を放ったのはユアだ。ユアの手にはユリアルが握られている。


 「なんとぉぉぉぉぉぉぉぉ! ユア選手、放たれた矢を同じく矢で撃ち落としたぁぁぁぁぁぁ」


 実況のニルスや、観客たちがユアの技に驚くが、試合中の六人は誰一人として驚いてはいない。


 ユアは氷の矢を撃ち落とすと、すぐにユリエルを生成して、アイシィに攻撃を仕掛ける。しかし、ユアの進路にモーナが立ちはだかった。


 彼女は緑の髪をなびかせながら、手に握られた大きな杖を前に出すと魔法名を言う。


 「『テンペスト』」


 直後、強風がユアのことを襲う。走っていたユアは強風により一瞬だけバランスを崩すが、すぐに立ち直り、ユリエルでモーナの後ろにいるアイシィに斬りかかろうとした。


 しかし、本能的に危険を感じて後ろに回避をする。すると、ユアが回避した場所には数本のナイフが刺さっていた。


 「これは……」


 ユアがモーナのほうを見ると、モーナは笑顔でユアのことを見ていた。しかしそんな笑顔よりも、モーナの背後で、まるで時計の針のように空中を回る、無数のナイフがユアの視界に映る。


 空中を回っているナイフは、モーナの背後をゆっくりと回っているだけなのだが、ものすごい威圧感を放っていた。


 ユアがユリエルをモーナのほうに構えると、再び風が吹く。しかし今度の風は先ほどとは違い、そよ風だ。


 そして地面に刺さっていたナイフが、風に乗ってモーナの背後のナイフたちに混ざり、空中を回りだす。


 「アイシィの方にはいかせませんよ」


 モーナは笑顔でユアのことを見つめ、ユアは悔しそうにモーナのことを睨む。


 「お姉ちゃん、こっちは任せて!」


 すると、ユアの後方から声がした。リリィだ。リリィは自分の後ろに大きな水の塊を出現させながら、ジャンプをして、無数の水の弾をモーナに向けて放つ。


 「ミズチ!」

 「あらあら」


 モーナは手に握る大きな杖を上に向けて、魔法を行使する。


 「テンペスト」


 モーナがそう言った瞬間、モーナの後ろで空中を回っていたナイフたちが、次々と上空へ向かって放たれる。そして、ナイフと水の弾が次々とぶつかり、地面に落ちていった。


 そんな中、リリィは続けて新たな魔法を行使する。


 「ウォーターキャノン!」


 上空から放たれた水が、モーナのことを襲う。しかしモーナは焦った様子もなく、杖をウォーターキャノンに向けて再び呟く。


 「テンペスト」


 モーナがそうつぶやくと、ウォーターキャノンは微妙に曲がり、モーナの横に落ちた。


 「そう簡単にはいきませんよ。今の攻撃は一回戦で見せてもらいました。といっても、上から重力を加えて攻撃したのはよかったですが」


 モーナの言う通り、リリィは隙を見せるかもしれないが、あえて飛ぶことによって、攻撃に重力の重みを加えた。それにより、水の攻撃力を上げようとしたのだ。


 これはセイヤに提案されたことで、仮にモーナが防御していたら、ノーダメージでは済まなかったであろう。そのことをとっさに気づいたモーナは、攻撃を防ぐのではなく、そらすことを選択した。


 「でも、お姉ちゃんはいっちゃったよ!」

 「そうですね。まあ、それは仕方ないことですわ。私の相手は最初からあなたって決まっていますから」


 モーナの言う通り、生徒会チームでは事前に誰が誰を担当するかを決めていた。そして、モーナの担当はリリィであった。


 モーナがリリィに気を取られているうちに、ユアはアイシィにユリエルで襲い掛かっていた。アイシィはユアに向かって氷の矢を放つが、氷の矢を避けながらアイシィに迫るユア。


 そして、アイシィの懐に入ったユアが、アイシィのことを斬ろうとした直前、アイシィがにやりと笑う。


 「『アイス・ド・ハンター』」


 次の瞬間、アイシィの握っていた弓が、突然形を鎌に変えた。アイシィはその氷の鎌で、ユアの首に襲い掛かる。


 「『単光(たんこう)』」


 ユアは氷が鎌になったことを確認すると、足に光属性の魔力を流し込み、そのまま加速して鎌を回避した。


 『アイス・ド・ナイト』

 「…………」


 アイシィが新たにそういうと、今度はアイシィの持っていた氷の鎌が、氷の剣に姿を変える。そして、アイシィは氷の剣で、ユアに襲い掛かった。


 ユアはユリエルで太刀打ちする。しかし次の瞬間、ユアは驚愕した。


 ユリエルが氷の剣に触れた瞬間、凍りだしたのだ。


 「ユリエル」


 ユアは氷始めたユリエルを手放し、新たにユリエルを生成する。今度はユリエルに光属性の魔力を纏わせたため、氷の剣に触れても凍らない。


 そしてもう一度ぶつかり合うと、今度は氷の剣のほうが砕ける。


 アイシィは砕けた氷の剣を捨て、右手を横に突き出して魔法を行使する。


 「『アイス・ド・ナイト』」


 アイシィがそう言った直後、アイシィの右手には先ほどとは寸分違わない氷の剣が握られた。


 「なっ、なんということでしょう……。この試合、まだ、誰も、詠唱をしていません……」


 先ほどまで元気だったニルスが、いつの間にか静かになってしまった。それは観客たちも同じだ。今現在、自分たちの目の前で行われている奇妙な試合を理解できていなかったから。


 詠唱無しが珍しいこの世界で、完全無詠唱の戦闘など滅多にお目にかかれない。ましてや学生の試合ごときで見られるほうが異常だった。


 「まあ、驚くのも無理ないですね。しかし一個一個を見ていけば、そんなにおかしくはないですよ。

  例えば、セレナ選手の魔装銃は基本魔法の『変形』、モーナ選手はあの杖に仕込まれている緑色の魔晶石に保存してある『風道』、アイシィ選手は首からかけている青いネックレスが魔晶石でできているようですね。

  そしておそらく『氷作』あたりを保存しているのでしょう。これらは基本的な魔法で、使い方次第では、かなり強くなります」


 バジルの解説に観客たちは納得した様子はない。


 なぜなら、バジルの言っていることは理論上あっているが、セレナの魔装銃にしても、相当な魔力量が必要になる。モーナの『風道』は文字通り風の道を作るのだが、その風の道が普通よりも多い。


 アイシィの『氷作』は、氷の造形をする魔法なのだが、普通に魔晶石に保存した場合、造形できるものは一種類が常識だ。しかしアイシィはすでに三種類を造形している。


 この時点で、かなり異常な事態だ。しかし昨年も生徒会は、この芸当を難なくこなしてきたので、まだ生徒たちは理解できていた。


 問題はその生徒会に拮抗しているセイヤたちである。彼らは無詠唱で魔法を行使しながら、学園最強の生徒会に張り合っている。


 三人で特級レベルと言われている生徒会に、対抗しているセイヤたちが、いったい何者なのか、という考えが観客の脳裏をよぎる。


 これほどまで高次元の試合を学生たちがやるなど、異常以外の何物でもない。もしここで、セイヤたちが本気を出してないと言ったら、観客たちの中には気絶するものも出てくるだろう。


 「解説ありがとうございます。それでは、キリスナ選手たちの方の解説もお願いします」


 ニルスの言葉に、脂汗を浮かべるバジル。バジルはセイヤたちの秘密のすべては知らないが、その一端だけは知っているがゆえに、どう話すべきか迷う。


 「ええ、セイヤ選手はおそらく『召喚』系の魔法を使い、双剣を呼び出しているのでしょうね。何といってもあの剣術は注目です。ユア選手も『召喚』を保存した魔晶石を複数保持しているのではないでしょうか。

  そしてリリィ選手は水の塊に注目してしまいますが、おそらくモーナ選手同様『風道』で操っているのではないかと」

 「となると、三人もどこかに魔晶石を隠し持っていると?」

 「そうなりますね」


 もちろんバジルの言ったことは嘘である。ユアについてはわからないが、セイヤとリリィのことはある程度、知っている。だがそんなことをこの場で言ったら、大パニックになってしまう。


 セレナたちは、バジルが嘘を言っていると思っていた。それはセイヤたちの秘密を知っているわけではなく、戦ってみての感想だ。


 セイヤの魔法には、魔晶石の存在を感じない。ユアの魔法はそもそも『召喚』系では無い気がした。そしてリリィの魔法においては、水属性だけしか感じず、『風道』など皆無であった。


 十三使徒ぐらいになれば、そんなことは戦わずしてもわかるはずだ。なのに、バジルはあえて間違ったことを言った。


 このことを不気味に思うセレナ。しかし同時にセイヤに対する興味が湧いた。


 まだ強くなりたいと思っていたセレナ、しかし学園には自分たちに張り合えるほどの実力の者がいない。それゆえ、今以上の向上心が持てなかった。


 だから、そんなセレナにとって、本気を出してぶつかり合えそうなセイヤたちの存在はうれしかった。


 セレナは考える。自分の考える最強の攻撃魔法のことを。今、自分が戦っている相手は、今まで自分が戦ってきた相手とレベルが違う。


 そしてそれは、今まで自分が戦ってきた方法では、セイヤに勝てないことを理解するには十分だった。となれば、今までとは違う戦法かつ、今まで以上の攻撃が必要になる。


 「今なら……」


 理論上、この魔法は完成していた。発動待機状態には何回も、いや何百回、何千回も持って行った。しかし、その魔法が発動されることは一回もなかった。それは恐怖心によるためらいがあったから。


 セレナの発動しようとしている魔法は、自分でも制御が難しいと理解している。それゆえ、もし自分がその魔法を発動し、暴走してしまったら、おそらく死者が出てしまう。


 例え、それが訓練中の結界内だったとしても。結界を破壊してしまうかもしれない。


 行使しようと考えるだけで、不安になってしまう魔法。そのため、セレナは今までこの魔法を行使する勇気はなかった。


 一度だけ使おうとしたことがあったが、その時も結局使えなかった。その時も、恐怖からの躊躇いが原因だ。だからその時に誓った。


 もし、次の機会があるならば、その時は後悔しないと。


 「火の巫女の深淵、ここに出よ。『アトゥートス』」


 セレナは力強く、詠唱をした。


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