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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
2章 アルセニア魔法学園編
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第59話 念話

 黒い煙が立ち込める中、しばらくすると、煙が消えて、爆発の跡地が見えてきた。そこには黄色い光のドームができており、中には無傷のセイヤとユアの姿が見られる。


 (何とか間に合った)


 セイヤは爆発の直前、ユアと自分を中心に『光壁シャイニング・ウォール』のドーム状バリアを作った。それにより、二人は何とか無傷で済んだ。


 (さすが、セイヤ君だね)

 (セイヤしぶといぜ……)


 完全に意表を突いたはずの二人は、セイヤに関心する。


 一方、ユアは自分の不覚に落ち込み、セイヤの顔を見た。そのまなざしには、謝罪の意が含まれていたが、セイヤはユアの頭を撫で、気にするなと、言う。だがもちろん言葉は聞こえない。


 ユアはセイヤに頭を撫でられ、気持ちよさそうに、目を細める。音のない世界でも愛をはぐくむ二人に、観客たちは嫉妬のまなざしを向ける。


 試合中にもかかわらず、二人だけの空間を作っている二人に対し、攻撃をしたいアルナとグレン。だが、バリアがあるせいで届かない。


 しかも無音世界のおかげで、文句の一つも届かない。


 結局、全員が二人の愛のはぐくみを終えるのを待つしかなかった。


 そしてバリアが解かれると、早速アルナが火を纏って刀で、セイヤに飛び掛かる。しかしセイヤがホリンズでその刀を弾く。だが刹那、突然セイヤに向かって暴風が吹き、かまいたちがセイヤのことを襲う。


 セイヤがそのかまいたちを『光壁シャイニング・ウォール』で防ぐと、次はアルナが『火斬(ひざん)』を行使してくる。


 セイヤは『火斬(ひざん)』をもう片方のホリンズで弾いたが、その時、セイヤは一瞬だけ完全無防備になってしまう。


 その瞬間を狙ったかのように、グレンの『風牙(ふうが)』がセイヤに襲い掛かる。


 そこでやっとユアが参戦し、『風牙(ふうが)』をユリエルで防いだ。ユアが一歩引いてセイヤの戦闘を見ていたのは、別にサボっていたわけではない。


 音の聞こえない世界では、声によるコミュニケーションが取れない。そのため、同じ戦闘に参加するのは危険だった。


 セイヤとユアの場合、ある程度はお互いの考えを理解できるが、完全ではないため、無音世界ではお互いに傷つけあってしまう危険がある。


 だというのに、アルナとグレンはまるで声でコミュニケーションをとっているかのような卓越した連携で、セイヤに襲い掛かる。


 実はこの連携、二人が無音世界のために去年から練習してきた努力の賜物であった。二人の連携は、この場合はどうするか、といった綿密な話し合いの上に成り立っていたコンビネーションなのだ。


 そのため、二人の連携はセイヤとユアの連携よりもはるかに熟練していた。


 (あの連携は厄介だな……)


 セイヤはアルナとグレンの連携がかなり練習されていることを理解していた。


 最初は念話ができる念話石のようなものを持っているのではないか、と疑ったが、この大会では念話石の持ち込みが禁止されている。


 そうなると、残った可能性は練習による完成された連携しかない。現状、セイヤとユアの連携では、声がなければアルナたちの連携を上回ることはできない。


 そこでセイヤはコニーのバリアを破ろうとしているリリィを見る。すると、セイヤの服の裾をユアが引っ張って、頷いた。どうやらセイヤが考えていることを理解したらしい。


 セイヤが頷き返すと、ユアはリリィのもとへと高速移動する。


 ユアがリリィの方へ向かったため、セイヤはアルナとグレン、二人の相手をすることになる。


 今度はグレンが風を纏った斧で、セイヤに襲い掛かる。セイヤはホリンズに光属性の魔力を纏わせ、自身も光属性の魔力を纏い、観客には見えない程度の『纏光(けいこう)』を行使する。


 そして上昇した身体能力でグレンの斧を弾き、同時に攻撃を仕掛けて来たアルナのことを肘打ちで飛ばす。そのままセイヤが高速の斬撃でグレンに襲い掛かるが、グレンはこれを斧で何とか防御した。


 セイヤが双剣の連撃でグレンを襲う中で、隙を狙おうとしたアルナは、『火斬(ひざん)』でセイヤに斬りかかる。


 しかし、セイヤに届く直前、水の壁が立ちはだかった。


 (おまたせ! セイヤ!)

 (おう!)


 セイヤのことを守ったのは、先ほどまでコニーの相手をしていたリリィだ。リリィはセイヤにそう言うと、セイヤはリリィに応えた。


 二人は無音の世界で会話をした。だが、二人の会話はアルナたちには聞こえてはいない。


 二人が会話は念話によるものだ。だがもちろん、セイヤたちは大会で禁止の念話石を持ち込んでいるわけではない。この念話は、リリィと完全契約したことによってもたらされた副産物だ。


 念話はお互いの位置を知ることのできる能力とは違い、長距離での使用は不可能だが、このスタジアム内なら余裕でできる。これにより、二人は無音世界でも会話ができた。


 (リリィ、二人の相手は俺がする。リリィは援護を頼む)

 (わかった!)


 セイヤとリリィが念話をしているとは微塵も思っていないアルナたちが、次々とセイヤとリリィに攻撃を仕掛ける。


 グレンが『風刃(ふうじん)』を連続でセイヤに向かって行使した。しかし『風刃(ふうじん)』がセイヤに襲い掛かる直前、アルナの刀に吸収されてしまう。


 アルナの刀が纏った火の威力は、先ほどと比べ物にならないほどになっていた。アルナはそんな刀でセイヤに襲い掛かる。


 セイヤはその刀を両手に握るホリンズで受け止めようとしたが、ほぼ同時に『風刃(ふうじん)』を行使したグレンがセイヤの横に回り込んで、斧を薙ぎ払う。


 本当に洗練された連携だ。だが、セイヤとリリィの前では甘い。


 (セイヤ! しゃがんで!)


 リリィからの念話が届き、セイヤは言われたたまましゃがみこむ。アルナたちはセイヤが防御でも回避でもなく、その場で急にしゃがみこんだことに違和感を覚えるが、攻撃を続けた。


 (ウォーターキャノン!)


 直後、アルナとグレンの体にすさまじい衝撃が襲う。リリィのウォーターキャノンが、二人に直撃したのだ。


 二人は不意を突かれた攻撃に反応できず、飛ばされてしまう。その隙をセイヤは逃さず、高速で移動しながらグレンに斬りかかる。


 グレンはセイヤの攻撃を何とか斧で防ごうとしたが、遅かった。斧で守るよりも先に、セイヤのホリンズがグレンの胸を貫く。


 (終わりだ、グレン)

 (負けたか……)


 グレンが光の塵となってリタイヤした。そして残る相手はアルナとコニーだけだ。


 (よし、ここから一気に行くぞ)

 (うん!)


 セイヤは高速でアルナに斬りかかるが、アルナは後ろに跳びながら回避する。


 (負けられない)


 心の中で、そんなことを言うアルナ。


 後ろに回避したアルナに対し、再び斬りかかるセイヤ。アルナはまたも後ろに跳び、回避を図ったが、今度は着地する前にセイヤが襲い掛かる。


 仕方なく、刀で防御したアルナ。


 (私は負けられない)


 アルナは心の中で自分に言い聞かせる。しかし刀で防御した瞬間、横から水のトラがアルナに襲い掛かった。リリィの作った水トラだ。


 アルナは水トラを刀で斬ろうとするが、セイヤのホリンズがそれを許さない。アルナは左隣から迫る水トラを左目で無意識ににらみつける。


 すると次の瞬間、アルナに襲い掛かろうとした水トラが、その場で蒸発してしまう。


 (なにっ!?)


 セイヤは慌ててアルナから距離をとる。


 (私は絶対に負けられない)


 アルナは心の中でそうつぶやく。しかしすでにアルナの意識は途切れていた。


 (セイヤ、あれって)

 (ああ、どうみても異常だな)


 アルナの姿は先ほどまでとは違い、体中から禍々しいオーラが出ていた。髪の毛はなびき、目はうつろになっていたる。しかしその中でも特に異常なのは、アルナの左目だ。


 アルナの左目には、なんと炎が宿っていたのだった。


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