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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
2章 アルセニア魔法学園編
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第57話 アルナたちの力


 「あの子、すごいね」


 両手で握る刀で、セイヤのホリンズを受け止めながら、セイヤに話しかけるアルナ。


 「まあ、俺らの隠し玉だからな」


 セイヤはもう一方のホリンズでアルナに斬りかかるが、アルナはホリンズを横に回避して、魔法を行使する。


 「『火斬(ひざん)』」


 アルナの刀が、火を纏いながらセイヤに襲い掛かる。その刀に対し、セイヤは魔力を纏わせたホリンズで太刀打ちした。


 この際、セイヤがホリンズに纏わせた魔力は、光属性でなく水属性だ。両者の武器がぶつかり合う。


 「詠唱無しってことは、お前も補助具をつけているのか」

 「正解。私の場合は刀のここにあるよ」


 アルナが刀身の一部を指さす。そこは他と違い、一部分だけ赤色になっていた。どうやら刀に魔晶石を合成したようだ。


 「なるほど。去年とは違うんだな」


 セイヤが不意に笑みをこぼす。アルナは一瞬こそ驚いた顔をするが、すぐに戦闘へと集中する。


 そして、更に火属性の魔力を刀に纏わせ、その刀身全体を赤くする。


 「去年の映像を見たんだ?」

 「まあな」


 セイヤはナーリの家に行った際、昨年の決勝ブロックの資料を見ていた。


 そしてその資料の中には、アルナたちのチームもあり、昨年の戦闘の様子が映っていた。昨年のアルナたちの成績は決勝ブロック一回戦敗退である。


 ちなみに、その時の相手が現在の生徒会だった。


 昨年のアルナたちは、アルナが前衛でグレンが中衛になっていた。しかし今年はアルナとグレンが前衛となっている。


 そのため、チームの戦闘スタイルは変わっていて、わからなかった。でも、個人の戦闘スタイルならわかっていたため、対策を立てられる。


 「去年に比べてコニーが力をつけたから、グレンを前衛に持ってきたんだろ?」


 セイヤの問いかけに、参ったという表情を浮かべるアルナ。


 「その通りよ。今年こそは生徒会へのリベンジを果たすんだから。それに、今回の大会は盛り上がるからね」


 アルナが、刀身の赤くなった刀で次々とセイヤに斬りかかる。セイヤは当然、ホリンズでその攻撃を受け流そうとするが、次の瞬間、ホリンズに異変が生じる。


 ホリンズが纏っていた水属性の魔力が、アルナの刀とぶつかり合うたびに、失われていったのだ。


 「蒸発か」

 「正解よ」


 セイヤの言う通り、アルナは刀身に火属性の魔力を流し込むことで、刀身の温度を極度に上げ、ホリンズが纏う水属性の魔力を蒸発させていったのだ。


 アルナはホリンズから蒸発していく魔力を見て、さらに攻撃の手を加える。


 「魔力の纏っていない武器なら、この刀で簡単に溶かせるわ」


 アルナは次々とホリンズに斬りかかる。


 セイヤもアルナの刀を何とか受け流し、かろうじて魔力を纏わせた状態を保つ。しかし、適性のない水属性と、適正であるアルナの火属性では、勝負にならなかった。


 「仕方ない」


 セイヤはホリンズに水属性の魔力を纏わせるのをやめて、新たに光属性の魔力を纏わせる。


 「これは光? セイヤ君はやっぱり、水属性が得意じゃないんだね」

 「そうだ」

 「てことは、開始直後のあの速さは上昇の効果ね」

 「さあな」


 試合開始直後、セイヤとユアが高速で動けた理由を自分で導き出したアルナだが、セイヤは答えを言わない。


 光属性の魔力を纏わせたホリンズで斬りかかるセイヤ。


 このとき、セイヤは自分の腕にも光属性の魔力を流し込み、腕力を上昇させることで、かなりの速度でホリンズを振っていた。


 そのため、アルナの防御が若干、遅れてくる。


 「ところで、さっきの今回は盛り上がるっていうのは、どういうことだ?」


 戦闘に余裕の出てきたセイヤは、先ほどのアルナの発言についての疑問をぶつける。アルナは今それどころではなかったのだが、セイヤの集中を少しでもそらそうと、その質問に答えた。


 「あの上のVIP席を見てみな」


 セイヤはアルナに言われたようにVIP席を見る。そこには学園長のレオナルドと教頭のザッドマンがこちらを見ていた。


 「学園長のことか?」

 「違うよ。その右の部屋だよ」


 セイヤは学園長たちのいる部屋の、右隣の部屋を見た。


 このとき、セイヤはよそ見をしながらも、その手はしっかりとホリンズを握り、アルナに攻撃をしていた。アルナは何とか防ぐのでやっとという状態だ。


 「あれは……なるほどな」

 「あんまり驚かないんだね」

 「まあ、な」


 学園長たちのいる部屋の右の部屋には、きれいな銀髪の長髪を持った男性が立っていた。その男性は窓越しにずっとセイヤのことを見ている。


 その男の名前はバジル=エイト。聖教会所属十三使徒の序列八番目の男だ。


 「なぜあいつがここに?」


 バジルがここにいることに疑問を覚えセイヤは、アルナに聞いてみるが、アルナにも答えはわからなかった。


 「セイヤ君、十三使徒に向かってあいつって……理由はわからないけど、私たちは十三使徒にいい姿を見せなきゃならないの」

 「そうか。別に俺らいいところ見せる必要はないが、勝ちは譲れない」


 不敵な笑みを浮かべ、セイヤはホリンズでアルナに襲い掛かる。先ほどまでとは違い、ホリンズのスピードが増しているため、アルナに反応できない攻撃が生まれてきた。


 アルナは体の重要部分だけを守り、小さな切り傷は覚悟で、どうにか防御をする。


 実はセイヤの中で、バジルがこの大会を見に来る理由をある程度察していた。


 おそらくバジルは、学園でセイヤが闇属性魔法を使っていないかの確認に来たのだ。


 「さすがはセイヤ君だね」


 額に汗を浮かべながら、セイヤのことを見つめるアルナ。アルナはすでに肩で息をしており、かなり消耗していることがわかる。一方、セイヤの方は呼吸も乱れておらず、かなり余裕があった。


 そんなセイヤは、アルナから視線を外し、後方で戦闘を繰り広げているユアとグレンを見る。


 「どうやらお仲間も限界らしいぜ」


 セイヤがアルナの後方を指さす。


 「グレン!」


 そこには、ユアに吹き飛ばされ、スタジアムの壁に背中から激突するグレンの姿があった。


 グレンは壁に激突しながらも、ユアに向かって『風牙(ふうが)』を行使するが、ユアの持つユリエルによって防がれてしまう。


 グレンは再び『風牙(ふうが)』をユアに向かって行使し、ユアが防ぐ隙に距離をとった。


 そんなグレンと目の前のアルナ、そして向こうのほうでリリィの攻撃から身を守るコニー。


 「どうやら、もうそろそろ終わりみたいだな」


 膝立ちになっているアルナに向かってセイヤは言った。


 しかし、アルナの顔には負けという表情は浮かんでいない。


 「できれば決勝戦まで隠しておきたかったけど、ここで負けたら仕方ないか。コニー! あれをよろしく。グレン行くよ」


 アルナの掛け声に、うなずく二人。


 グレンは斧を担ぎ上げ、ユアのほうへと攻撃を仕掛けようと突っ込むが、ユアのユリエルによって弾かれる。


 だが、跳ね返されると同時に、その力を使いアルナの隣に降り立つ。


 「何をする気だ?」

 「ふふふ」

 「今からするのは俺らの秘密兵器だぜ」


 アルナとグレンはニヤニヤしながら、武器を構える。そのときだった。急に風が強くなる。否、コニーに向かって風が吹き始めた。


 風の中心にいるコニーは、黄色い髪をなびかせながら魔導書を広げる。そんなコニーにリリィが攻撃をしようとするが、風によって防がれてしまう。


 そしてコニーの持つ魔導書が光りだ出す。


 その光は、まるで何かの儀式を現しているようであり、コニーがやろうとしていることが、すぐに危険だとわかる。


 セイヤは右手に握るホリンズをコニーに向けて投擲した。


 「くっそ、間に合え」


 セイヤの投擲したホリンズだが、コニーに届くことなく、風によってあらぬ方向へと飛ばされてしまう。


 そして同時に、コニーの持つ魔導書が白く光りだす。その光は眩い閃光を放ち、白い炎によって魔導書は焼かれ、焼失した。


 「『無音世界(サイレントワールド)』」


 だが、魔法自体は成功だ。コニーの言葉を最後に、結界内から、音が消える。それは、観客の声、風の音、すべてだ。


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